王城試験、条件は揃えられるか
王城の地下。
そこに広がるのは、魔法実験専用の大広間だった。
天井には制御水晶。
床には多重術式。
失敗を前提に作られた場所。
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「本当に、ここで?」
研究官の一人が、緊張した声で言う。
「問題ない」
ハルディアが、即答する。
「むしろ、最適だ」
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俺は、広間の中央に立っていた。
周囲には、研究院の魔法使いたち。
王城関係者。
軍務省の観測官。
視線は、重い。
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「試験内容は単純だ」
ハルディアが、告げる。
「高出力魔法の安定化」
「通常、失敗率は三割を超える」
「成功すれば」
一瞬、言葉を切る。
「理論を書き換える必要がある」
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「やることは、同じです」
俺は、そう言った。
「発動者は?」
「彼だ」
若い魔法使いが、前に出る。
手が、震えていた。
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「大丈夫ですか?」
俺が聞くと。
「……正直、怖いです」
「普通です」
それだけで、彼の呼吸が少し落ち着いた。
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「では」
俺は、目を閉じる。
魔力を、流す。
形は作らない。
術式も描かない。
空間を、読む。
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歪みは、明確だった。
魔力の渦。
床の術式の干渉。
天井水晶の過剰反応。
どれも、ほんの少し。
だが、それが失敗を呼ぶ。
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「……条件が、悪い」
呟く。
「え?」
「直します」
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俺は、歩く。
一歩ずつ。
床に、触れる。
壁に、触れる。
空気を、整える。
観測官たちは、息を潜める。
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「何をしている?」
「……分からない」
それが、正直な反応だった。
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「準備、完了です」
俺は、下がる。
「発動してください」
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若い魔法使いが、詠唱を始めた。
高出力火炎魔法。
詠唱が、終わる。
「――発動!」
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炎が、立ち上る。
だが。
暴走しない。
揺らぎがない。
ただ、設計通りの火柱。
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「……成功」
誰かが、呆然と呟いた。
「魔力消費、二割減!」
「反動、ゼロ!」
「術式損耗、なし!」
報告が、次々と上がる。
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「もう一度」
二度目。
三度目。
結果は、同じ。
失敗は、起きなかった。
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「……これは」
ハルディアが、静かに言う。
「奇跡ではない」
「再現可能な、技術だ」
会場が、ざわめく。
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「だが」
軍務省の観測官が、口を挟む。
「本人がいなければ、成立しない」
視線が、俺に集中する。
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「……一つ、言っておきます」
俺は、静かに言った。
「これは、“私の技術”ではありません」
「条件が、元から存在していた」
「ただ、見落とされていただけです」
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「誰でも、できる?」
「理論化できれば」
「時間は、かかるでしょうが」
その言葉は、希望でもあり、脅威でもあった。
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「王城としては」
ハルディアが、まとめる。
「この件を、極秘扱いとする」
「拙速な公開は、混乱を招く」
異論は、出なかった。
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試験は、成功。
だが。
成功したからこそ、
問題は大きくなった。
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広間を出る時。
俺は、誰かの視線を感じた。
研究官でも、軍人でもない。
別の――
もっと静かな目。
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世界は、動き始めている。
もう、止められない。




