王城からの、正式な呼び声
ローデン村に、再び馬車が来た。
だが、今度は隠していない。
王家の紋章を、正面に掲げていた。
村人たちは息を呑み、誰も道を塞がなかった。
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「……ついに、ですか」
リィナが、小さく言う。
「ええ」
俺は、頷く。
「今回は、逃げ場を用意してくれている」
それが、非公式との違いだった。
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馬車から降りたのは、使者一人。
豪奢な服装だが、態度は丁寧。
「王城より、正式な招待です」
封蝋付きの書状を、差し出す。
「強制ではありません」
「だが」
一瞬、言葉を切る。
「辞退される場合、理由をお聞きすることになります」
それもまた、圧だった。
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「受けます」
俺は、即答した。
使者は、安堵したように息を吐く。
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出発は、翌朝。
村人たちは、遠巻きに見送った。
誰も、声をかけない。
だが。
目は、すべて同じ感情を宿していた。
――不安と、期待。
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王都アルセリア。
高い城壁と、白い塔。
初めて見る王城は、威圧的だった。
だが。
「……歪んでいますね」
思わず、呟く。
「何がです?」
同行の衛兵が、怪訝そうに聞く。
「いえ」
「条件が、悪いだけです」
理解されることは、ない。
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謁見の間。
広すぎる空間。
玉座の前に立つと、
自分が、ひどく小さく感じる。
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「面を上げよ」
低く、落ち着いた声。
国王だった。
威圧は、ない。
だが、存在そのものが、重い。
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「そなたが、例の“調整役”か」
「そう呼ばれています」
「名は?」
「ありません」
ざわめき。
だが、国王は制止した。
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「研究院より、報告は受けている」
「理論を超えた技術」
「だが、余は――」
一瞬、言葉を切る。
「力より、姿勢を見たい」
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「そなたは、何を望む?」
単刀直入な問い。
逃げ場は、ない。
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「何も」
俺は、答える。
「必要な場所で」
「必要なだけ」
「直すだけです」
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「見返りは?」
「不要です」
「地位は?」
「興味がありません」
「忠誠は?」
「誓いません」
空気が、凍る。
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だが。
国王は、笑った。
それも、穏やかに。
「正直だな」
「……嫌いではない」
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「では、提案だ」
「そなたを、縛らない」
「称号も、命令も、与えぬ」
「だが」
視線が、鋭くなる。
「王国が危機に瀕した時」
「助力を求める」
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「応じるか?」
それは、命令ではない。
選択だった。
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「内容次第で」
俺は、そう答えた。
国王は、深く頷く。
「十分だ」
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「今日は、もう下がってよい」
「王城に滞在するも、村へ戻るも自由」
「考える時間を与えよう」
異例の扱いだった。
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謁見の間を出た後。
リィナが、低く言う。
「……大丈夫でしたか?」
「ええ」
「この国は」
一度、言葉を探す。
「まだ、直せる」
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だが。
廊下の奥。
俺を見つめる視線が、確かにあった。
敬意でも、敵意でもない。
――計算の目。
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公式に認識された存在。
それは、守りでもあり、
同時に、逃げ場を減らすものでもある。




