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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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17/21

軍は、静かに横断する

軍務省・地下会議室。


 ここは、公式記録に残らない会合が行われる場所だった。


「研究院は、慎重すぎる」


 鎧姿の男が、苛立ちを隠さずに言った。


「失敗率ゼロ。

 魔力消費減少。

 前線がどれだけ救われると思っている」



「だが、制御できない」


 別の男が、冷静に返す。


「彼は、命令に従わない」


「契約も拒んだ」


「それが問題だ」


 机の上には、ローデン村の簡易地図。


 赤い印が、一つ。



「排除案は?」


「却下だ」


「失敗した場合、理論ごと失われる」


「では、確保か?」


 沈黙。


 誰も、“拉致”とは言わない。



「……接触だ」


 最年長の軍人が、低く言った。


「正式でも、非公式でもない」


「協力要請」


「拒否されたら?」


「その時、考える」


 それが、軍の答えだった。



「部隊は?」


「少数精鋭」


「威圧ではなく、保護名目」


「だが」


 一瞬、言葉を切る。


「逃げられない配置で」



 決定は、数分で下された。


 会議は、存在しなかったことになる。


 だが、命令だけは残る。



 同じ頃。


 ローデン村近郊の街道。


 数人の兵が、旅人を装って進んでいた。


 鎧は、布で覆われ。

 武器は、目立たぬよう隠されている。


「辺境にしては、静かだな」


「だからだ」


「目立つ者ほど、狙われる」



 村に入る手前で、彼らは足を止めた。


「情報によれば」


「対象は、争いを好まない」


「こちらから仕掛けなければ、問題は起きない」


 それが、彼らの認識だった。



 ローデン村。


 俺は、倉庫の屋根を直していた。


 木材の歪み。

 釘の位置。


 魔法ですらない、ただの修繕。


 だが。


「……気配が、増えました」


 下から、リィナの声。


「ええ」


 俺も、気づいていた。


 視線。

 足音。

 抑えた魔力。


 軍人だ。



「逃げますか?」


「いいえ」


 首を振る。


「向こうが、まだ“話す気”です」


「なら」


 屋根から降りる。


「こちらも、話すだけ」



 村の入口。


 兵士たちは、自然に道を塞いでいた。


 誰も剣に手を伸ばさない。


 だが、間合いは――完全に軍のものだった。



「失礼する」


 隊長らしき男が、口を開く。


「我々は、通行中の者だ」


「……そうは見えません」


 リィナが、即座に返す。


 男は、苦笑した。


「だろうな」


 そして、俺を見る。



「あなたが、“調整役”だな」


「そう呼ばれているようです」


「軍務省から来た」


「正式ではない」


「だが、頼みがある」



「断ることは?」


「できる」


「だが」


 一歩、近づく。


「安全は、保証できない」


 脅しではない。


 事実の提示。



「……一つ、聞きます」


 俺は、静かに言う。


「あなた方は」


「“直す”理由を、理解していますか?」


 兵士たちが、言葉を失う。



「前線を、救いたい」


 隊長が、絞り出すように言う。


「事故で死ぬ仲間を、減らしたい」


 それは、嘘ではなかった。



「なら」


 俺は、頷く。


「やることは、同じです」


「ここで、剣を抜かない」


「それだけで、条件は整います」



 沈黙。


 そして。


 隊長は、ゆっくりと手を下げた。


「……今日は、引く」


「報告は?」


「“接触は失敗”と」


「だが」


 一瞬、目を細める。


「次は、もっと正式になる」



「構いません」


「その時も」


「直すだけです」



 兵たちは、去っていく。


 村に、再び静けさが戻る。


 だが。


 これは、偶然の回避だ。


 次は、もっと深く来る。



 リィナが、低く言った。


「世界が、あなたを必要とし始めています」


「……困ったものですね」


 俺は、空を見る。


 直すだけのつもりだった。


 だが。


 壊れているのは、

 世界の仕組みそのものなのかもしれない。


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