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無能と追放された俺、捨てられた失敗魔法を回収していたら、いつの間にか世界の魔法体系が書き換わっていた件  作者: zero


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11/21

契約書は、結果の後からやってくる

ローデン村に、見慣れない使者が訪れたのは、昼を少し回った頃だった。


 簡素だが質の良い外套。

 武装は最低限。

 そして、腰にはギルドの正式紋章。


「中央ギルド、契約管理部より参りました」


 そう名乗った男は、丁寧に頭を下げた。


「あなたに、正式なご提案があります」


 村の集会所には、村長と数名の有力者が集まっている。

 俺は、少し離れた席に座っていた。


(ついに、来たか)


 驚きはない。

 むしろ、遅いくらいだ。



「まず、これまでの実績について」


 男は、書類を一枚広げた。


「ローデン村および周辺地域における依頼、二十六件。

 すべて成功。再発報告なし」


 ざわ、と村人たちが小さくざわめく。


「魔法痕跡は極めて薄く、環境への負荷も確認されていません」


 淡々とした読み上げ。


 感情はない。

 だが、それが逆に重い。


「よって、ギルドとしては――」


 男は、視線を上げた。


「長期契約を打診したく存じます」



「長期、ですか」


 村長が、慎重に聞き返す。


「はい。

 期間は三年。

 内容は、環境修復および維持に関する優先対応」


 三年。


 短くはない。

 だが、縛りとも言い切れない。


「報酬は、月額固定。

 加えて、個別依頼ごとの成果報酬」


 条件は、悪くない。


 むしろ、破格だ。


(だが……)


 俺は、黙って聞いていた。



「なお」


 男は、少し言い淀んだ。


「術式や魔法体系の詳細については、提出義務はありません」


 その言葉に、村長が目を見開く。


「提出、しなくていいのですか?」


「はい。

 ただし、協力要請は行います」


 協力要請。


 つまり、強制ではないが、無視はしづらい。


「……なるほど」


 俺は、そこで口を開いた。


「一つ、確認を」


「どうぞ」


「この契約は、私個人に対するものですか?

 それとも、ローデン村全体に対して?」


 男は、即答できなかった。


 一瞬の沈黙。


「……個人です」


 正直な答えだった。



「なら、条件があります」


 村人たちの視線が、俺に集まる。


「私は、常駐を保証しません」


「……え?」


「依頼は受けますが、移動も拒否しません」


 男の眉が、わずかに動く。


「また、成果の優先順位は、私が決めます」


「それは……」


「危険度、影響範囲、持続性。

 その三つで判断します」


 言葉を選んだ。


 感情論ではない。

 だが、譲れない線だ。



「さらに」


 俺は、続ける。


「魔法理論の開示は、行いません」


「……理由を伺っても?」


「誤用される可能性が高い」


 それだけで、十分だった。


 男は、深く息を吐く。


「……分かりました」


 意外なほど、あっさりと。


「それでも、お願いしたい」


 その言葉には、打算と誠意が混じっていた。



 その場は、一度持ち帰りとなった。


 使者が去った後、集会所には沈黙が落ちる。


「……大きな話だな」


 村長が、ぽつりと言う。


「断るのですか?」


 誰かが、聞いた。


 俺は、首を横に振る。


「いいえ。

 受けます」


 即答だった。


「ただし――」


 視線を、村人たちに向ける。


「この村が、優先です」


 それが、条件だった。



 夜。


 宿の部屋で、リィナが訪ねてきた。


「話は、聞きました」


「早いですね」


「当然です」


 彼女は、椅子に腰掛ける。


「賢い条件提示でした」


「……そうでしょうか」


「ええ。

 囲い込みを、拒否した」


 リィナは、静かに言った。


「でも、敵を作りますよ」


「承知の上です」


 それでも、譲れなかった。



「あなたは」


 リィナは、少しだけ柔らかく微笑った。


「力を、商品にしない人ですね」


「必要な場所に、必要なだけです」


「……危うい」


 だが、どこか安心したようでもあった。



 数日後。


 正式な契約書が届いた。


 条件は、ほぼこちらの提示通り。


 署名欄に、名前を書く。


 震えは、なかった。


(ここからだ)


 これは、終着点ではない。


 ただの通過点だ。



 一方、王都。


「……通ったか」


 ある部屋で、誰かが呟く。


「想定より、譲歩しましたね」


「仕方ない。

 代替がいない」


 沈黙。


「監視は?」


「続けます。

 だが、深入りは……」


「分かっている」


 誰もが、理解していた。


 この力は、

 管理するには、遅すぎた。



 ローデン村の夜は、静かだった。


 契約が増えても、星の数は変わらない。


 俺は、窓から外を見て、思う。


(やることは、同じだ)


 失敗と呼ばれたものを、

 正しい場所へ戻す。


 それだけだ。


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