評価は、静かに書き換えられる
冒険者ギルド本部の掲示板は、朝から人だかりができていた。
「おい、見たか?」
「例の中堅パーティだろ?」
ざわめきの中心に貼られているのは、依頼達成率の更新表だ。
そこにある名前を、レオンは見つけた。
「……」
一瞬、理解できなかった。
自分たちのパーティ名が、一段下に移動している。
「レオン……」
セリアの声が、かすれる。
「ランクが……」
「下がった、な」
レオンは、低く答えた。
昇格でも降格でもない。
ただ、評価値が下がった。
それが、いちばん堪えた。
⸻
「正式記録だ」
受付の男は、淡々としていた。
「直近十件の依頼。
成功は四、失敗三、再受注三」
「再受注は、条件変更が……」
「記録上は、失敗扱いです」
それが、ギルドのルールだった。
「以前は?」
ミアが、小さく聞く。
「九割以上、成功でした」
その言葉が、重い。
誰も、反論できなかった。
⸻
酒場。
以前なら、祝杯を挙げる場所だった。
「……俺たち、弱くなったのか?」
ガルドが、ジョッキを置く。
「敵は、変わってない」
セリアは、静かに言った。
「変わったのは、私たち」
その視線は、空席へ向いている。
「……あいつがいた時は」
言葉が、途切れる。
誰も、続きを言えなかった。
⸻
「原因分析をお願いします」
数日後、ギルドから正式な通達が来た。
「再発防止のため、内部検証を」
紙には、そう書かれている。
それは、一流扱いではなくなった証だった。
「……こんなもの、前は来なかった」
レオンは、紙を握りつぶす。
「当たり前だ。
失敗しなかったからな」
ガルドの声は、苦い。
⸻
検証は、容赦なかった。
「魔力循環、安定度低下」
「補助行動の欠如」
「事前準備不足」
並ぶ項目は、どれも地味だ。
だが、確実に戦闘を支えていた要素。
「……補助?」
セリアが、眉を寄せる。
「誰が、やってた?」
沈黙。
答えは、分かっている。
「記録に、名前は?」
「……ない」
書類係が、首を振る。
「当時は、不要と判断されていました」
その言葉が、刃のように刺さる。
⸻
「つまり」
ミアが、震える声で言う。
「私たちは……
“見えない役割”を、切り捨てた」
否定できなかった。
派手じゃない。
成果も、数字に出にくい。
だが、それがなくなった瞬間、
全体が崩れた。
⸻
一方、別の報告書。
「辺境ローデン村。
依頼達成率、百パーセント」
「術者名?」
「未登録。
個人契約扱いです」
報告官は、首を傾げる。
「奇妙ですが、問題はありません」
「成果は?」
「どれも、恒久的です」
上司は、しばらく黙った後、言った。
「……追跡は?」
「慎重に、です」
⸻
夜。
宿の部屋で、レオンは一人、座っていた。
机の上には、古い記録。
成功ばかりが並ぶ、過去の報告書。
(あの時……)
追放を決めた日。
「失敗魔法しか使えない役立たず」
そう、言った。
だが、本当に失敗だったのは――
どちらだったのか。
「……戻れない、な」
呟いた声は、誰にも届かない。
⸻
その頃、辺境。
俺は、村人と一緒に、収穫の準備をしていた。
「今年は、助かったよ」
「ええ」
それだけで、十分だった。
評価は、紙の上で変わる。
だが、結果は、土地に残る。
それが、今の俺には大事だった。




