表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1 世界を創る力

畑中浩二(はたなかこうじ)は目が覚めて目に入ったのは広大な青空だった。

ぼんやりとした意識が次第に鮮明になると起き上がる。

周りは草で覆われた一面の原っぱ。

心地の良い風が吹く度に靡いている。


ここはどこだろう。

周囲を見渡すと地平線からわずかに覗く木々に囲まれている。

どうやら自分の周辺が広大な原っぱの中心にいるようだ。


ふと身体中が重いことに気付く。

あちこちが何かにぶつけられたかのような鈍痛に包まれている。

長袖をめくってみると腕や腹に青いアザが数箇所にできている。

まだ黒くないところを見るに最近できたものだろう。


アザを触ると痛みと共に脳裏に記憶が通り過ぎる。

車道に跳ねながら転がっていくボール。

それを追いかける少年に車が迫ってゆくのを見て駆け出す。

ガードレールを飛び越え着地しながら手を伸ばす。

ボールを拾った少年を反対車線へ突き飛ばす。

軌道から抜けて道路に接触するのを見たころには車が眼前まで迫っていた。

これは助からない。そう思ったところで記憶は終わる。


再び辺りを見渡してみる。

道路も車も少年も見当たらない。

隣にあった公園まで吹き飛ばされたにしては記憶と一致しない。

明らかに別の場所に来ている。

記憶が混濁しているのだろうか。

不審に思いながらも安堵感が徐々に沸いてくる。

しかしいまどこかにいるかという不安はいま生きている喜びに塗り替えられる。


少年を救い自分も生きている。

咄嗟の行動にしてはうまくいった。

これで気分が良くならないわけがなかった。


すると森の方から悲鳴が聞こえてきた。

声から女性のものだろうか。

()()()()()()()()()

その女性を助けるべく浩二は声のした方向へと駆けていった。


 ◇


リーリアはいま命の危機に瀕していた。

母親が熱を出したため薬草を取りに1人で森へと来ていた。

本来15歳未満の未成年は大人の随伴なしでは町の外へは出ては行けないしきたりになっている。

特に森の中はモンスターが多く生息しており危険だからだ。

しかし子供たちは目を盗み外へと赴いていたし大人も黙認していた。

なぜならここの地域は出るとは言っても下級のモンスターしか出没しない。

その程度であるなら子供でも素手で倒すことはできるほど弱い。

噛みつかれても軽い怪我程度で済むほど。

万が一でも逃げ出せば全く問題がない。


しかしいま目の前にいるモンスターは下級のそれではなかった。

ミノタウロス。人間の身体に牛の上半身が乗っかった怪物。

中級モンスターに分類されるそれは本来ここにいていい存在ではない。

通常ダンジョンや黒エリアと呼ばれる魔族のテリトリーでしか生息していないはずだった。

大の大人でもハンターでない場合はまず助からないと言われている。

一般の少女であるリーリアが対抗できるはずもなかった。


ミノタウロスは剥き出しの歯の間から荒い呼吸をしながら近づいてくる。

感じたことのない恐怖が全身を覆い膝が笑い始める。

ちょうど後ろにあった木に寄りかかっていなければ立つことも叶わない。

歯がカタカタと震えている。


死にたくない。

このモンスターは刺激をしなくても認識されたら襲ってくるほど獰猛な生態。

勝手に離れてくれることなどないだろう。

何か手を打たなければ確実に殺される。


顔は動かさないまま視線だけを足元に転がった鞄に向ける。

ふたは空き中身が開き収穫した薬草とともに周囲に散らばっている。

小型ナイフ、ハンカチ、コンパス、地図。

これしか持ってきていなかった。

まさかこんな事態になるなんて一切思っていなかった。

ナイフは手のひらサイズの小型のもの。

刺しても致命傷を与えることは叶わないだろう。


だがないよりはいい。

リーリアはゆっくりとしゃがみそれを拾い上げる。

だがそれが刺激したのだろう。ミノタウロスが雄叫びを上げる。

空気を震わすほどの咆哮が肌をピリピリと掠める。

信じられないほどの静寂が訪れる。

風の音も鳥の鳴き声も全く聞こえなくなった。

いまにも止まってしまいそうな自分の呼吸音だけがやけに頭に響く。


「くっ……!ファイヤァァァァァ!!!」


耐えきれず右掌を前へ向けて呪文を唱える。

ファイヤ。初級火属性魔法。

リーリアが唯一習得している攻撃魔法である。

自身から火を生み出し対象に向けて放つシンプルなもの。


手の中心にマナが球体のように集約し火を形成。

溢れた火が腕に巻きつくように流れてくる。

拳台に膨れたところで一気に膨張してリーリアの何倍もの炎を吹き出し始める。

通常の初級火属性魔法はここまで強大ではない。

せいぜい身体のサイズに収まるほどの規模。

初級魔法のメリットは応用の効きやすい汎用性と単純な練度と魔力量に左右されるところだ。

魔力は多ければ多いほど効果を増す。

ゆえに初級といえど上級者でも頻繁に使用される代表的な魔法。

彼女のファイヤはまだ未熟とはいえ魔力量は上級者のそれと変わらないものだった。


木々を何本も焼き払う勢いで目の前の化け物へと放つ。

地面を抉りながら周囲を火の海へと変える。

ミノタウロスの姿は火炎によって見えない。

それでも出力止めずに火を放ち続ける。


このまま焼け焦げてくれ、そう願った。

汗が玉のように噴き出てくる。

腕を上げ続けるのもそろそろ限界に感じる。

もう大丈夫だろう、一瞬の油断が判断を鈍らせた。

炎の壁を掻き分けてミノタウロスが眼前へと迫った。

この火力の中を逆行しながら走ってきたのだ。

その勢いをそのままに拳をリーリアへと振り下ろす。


ガードするまもなく真横へと水平に吹っ飛ばされる。

地面を何度か跳ねながら転がり続けて10メートルのところでようやく止まった。


「ゴポ……」


肋骨がへし折れて喉から迫り上がった大量の血を吐き出す。

内臓が傷ついたのだろう、しかし()()()()()済んだのは不幸中の幸いだった。

服と足元が真っ赤に染め上がる。


もう指の一本も動かない。

地面を見つめながら近づいてくる足跡を聞く以外にできない。

死にたくない、死にたくない、死にたくない。

争いようもない絶望感が頭の中を支配する。

私は死ぬの?こんなところで。

お母さんを助けたかっただけなのに!

薬草を取りにきただけなのになんで私だけこんな酷い目に!

心の中で愚痴ったがそれを聞くものはいなかった。


足音が以前迫ってくる。

もう距離も離れていない。

覚悟を決めたところでもう一つの音が近づいてくるのに気が付く。

足音だ、それも走ってくる音。

わずかな希望を得て顔を上げる。


そこには空を背景に見下ろすミノタウロスと怪物の首に掴みかかる男の姿だった。


「大丈夫か、あんた!?」


首に腕を巻き付けながら浩二はこちらに問いかけてくる。

振り解かれまいと必死にしがみつくがミノタウロスも同様。

突然の敵対者に驚きながら身体を振り回す。

このままでは結果は見えている。

みんな死んでしまう。

私も、あの助けに来てくれた男も。

自分のせいで人が死ぬところなど見たくはなかった。

死なせたくない、そう思ったときに身体は動き始めて左手に握り絞めていたものを彼へ向かって投げた。

それはナイフ。

魔法を放つ直前に拾い上げていたのだ。


届け、届け。

宙を舞うそれに浩二は気が付き目で追った。

ミノタウロスが暴れたことで軌道から外れる。

終わった…。

そう思ったとき浩二は腕を伸ばすことでナイフを掴むことに成功する。

そしてそのまま眼球へと振り下ろす。


化け物の悲鳴が周囲を震わす。

浩二のことなど気にかける余裕もなく顔を必死に押さえ込む。


「逃げるぞ!」


いつの間にか近くまで来ていた彼はリーリアを抱え上げて走り出す。

すでに足は限界を迎えていたがここで走らなければ次はないだろう。

恐怖心は皮肉にも良薬となった。


「あり…がと…」


「喋るな、ゆっくりしてろ」


リーリアはゆっくり両手を負傷した部位へと被せる。

肋骨は砕けて皮越しにからふにゃふにゃとした気持ちの悪い感触がする。

押すたびに水を吸ったスポンジのように血がじんわりと溢れ出す。

このまま押せば心臓まで手が届いてしまいそうだ。


「おい、安静にしていろって――」


「ヒー…ル…」


マナが集まり青白い光が胸の周りを包み込む。

暖かく心地の良い熱が浩二にも伝わってくる。


「これで…大丈夫…。しばらく続ければ…ゴボッ…大丈夫だから」


少し休ませて、そういうとリーリアは目を閉じる。

気を失ったのだろうか静かな吐息が聞こえてくる。

不思議なことに魔法の出力は止まっていないのか光は依然と彼女の傷口を包んでいる。

器用なやつだ。

そう思いながら彼は走り続けた。


 ◇


「いまの気持ちはどうだい?創造主よ」


聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

浩二は気がつくと何もない白い空間に立っていた。

目の前にはいま語りかけてきた女性が立っている。

それはよく知る人物だった。


彩花(あやか)…」


幼馴染の女の子。高校生となったいまでもよく話す間柄である。

だが気まずさで目を逸らした。

事故に遭う直前に喧嘩をしていた。

理由はとてもくだらないものだったがこんなのは初めてだった。


「あのとき俺みたいなオタクはキモいっていってたよな」


視線を戻しながら睨みつける。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だが罵倒されて腹が立ったので喧嘩に発展したのだ。


「だけど見ろよ、いいことをしただろ俺!2人も助けたんだ。それのおかげかな、異世界転生までしちまってよ!このままここで―」


「何を勘違いをしておるのだ?」


彩花、と同じ姿をしたソレはかすかに笑う。

背景が変わる。

それは異世界に来る直前の事故の現場。

浩二がここに来るきっかけとなった場所だ。


「お主は人を助けたと申したな?」


浩二の前に浩二がいる。

どうやらあの時の風景がそのまま再現されているようだ。


車道に跳ねながら転がっていくボール。

それを追いかける少年に車が迫ってゆくのを見て駆け出す。

ガードレールを飛び越え着地しながら手を伸ばす。

ボールを拾った少年を反対車線へ突き飛ばす。


視点が違うだけであのときと全く一緒だ。

第三者目線で見るとこうなのかと面白く感じた。


「これのどこが人を救っていないんだ?」


「せっかちなやつよのう。ほれ、そろそろお主が轢かれるところぞ」


視線を戻すと自分が轢かれるところだった。

吹き飛ばされるのではなくどうやら車体下に巻き込まれた。

車に乗り上げられた浩二はバキバキと骨と肉が砕かれる音を立てながら肉片へと変えられていく。

通り過ぎたころには血と肉と服の残骸が乱雑に散らばった。


「なんでこんなのを見せるんだ!」


女は気がつくとそこにおらず少年の隣へと移動していた。

少年は吹き飛ばされた直後で地面にうつ伏せの状態だった。

ニヤニヤとした気味の悪い笑みがこちらに向けられるも走ってきたトラックがそれごと包み込む。

彼女と少年のいた場所を通過したのだ。

何が起きたのか分からない。

呆然としていたらトラックが通り過ぎ彼女だけが同じ場所に立っていた。


「なんの意味もなかったな?」


「お前は一体なにがしたいんだよぉ!?」


浩二は叫ぶ。この気持ちが悪くて無礼な女を殺してやりたいと殺意を向ける。

すると不思議なことが起こる。

彼に連動するように地面が揺れ始める。

次第に大きくなりアスファルトにヒビが入っていく。


「一体何が!?」


「お主は世界で唯一の能力者だ」


視界の端で何かが光っているのに気がつく。

それは肉塊となっていた浩二から発せられるものだった。

やがて肉塊すべてが淡い光を放ちながら空中へ浮かび上がりまとまり始める。

最初は小さかったそれは徐々に形を作り始めて元の形へと戻っていった。

このアザは傷ではなく再生したときの後遺症だったのか。


「一つは不死の能力。死んだら自動的に蘇る。そして」


地面のヒビが道路だけでなく住宅地にまで広がり地平を割り始める。

周囲の人々の中にはバランスを崩して断層に飲み込まれるものもいた。

ヒビはどんどん広がってそこにあるものを壊し続ける。

大きなものは小さくなり、小さいものは細かくなっていく。

やがて周囲は浩二を残して砂に包まれる。

砂は風に吹かれながら舞う。


そこからは早かった。

雨が降り日が差し草木が生え始めた。

そんなサイクルが続いたことであたりは見知った自然を作り出す。

目を覚ました場所そのものの景色だった。


「そしてもう一つは世界を作り変える能力。これも死んだと同時に自動で発動する」


「作り替える?」


「物理も社会も概念も。全てを壊して再構築する。この魔法が当たり前の世界はお主がいた世界を上書きして作った世界だ。()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()


目の前の女を視界にいれながら彩花に謝罪する機会を永遠に失ったことを完全に理解した。

1話4000〜6000文字で書いていこうと思っています。思いつきで書き進め初めてしまったので不定期で投稿する予定です。時間は掛かると思いますが最後まで頑張ります!


拙い文章ですが感想などあれば気軽に教えていただけると幸いです!!励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ