AIの開発した万能ゴミ処理装置
AIが化学薬品を開発したというニュースが流れたのはどれくらい前だったろう? あれから加速度的に急速に発達したAIは、今ではもっと様々な機械や薬を開発していて、その中には人間にとって原理不明なものも含まれてあった。
つまり、どうやって動いているのか全く分からないブラックボックス。もちろん、AIが作って来た物を、人間はまるっと信頼して使っている訳じゃない。ちゃんと検証をして、場合によっては使用方法を制限したりして使っている。AIの説明通りの機能があるのか分からないし、そもそも人間が勘違いをしている場合だってあるかもだし。
これが果たして“科学技術”と言えるかどうかは分からないけど、そもそも全ての原理を理解して機械を使っている人なんて、ずっと前からいなかったのだろうからあまり変わらないのかもしれない。
……そして、そんなうちの一つに、その“万能ゴミ処理装置”もあった。そして、それが僕らの仕事道具でもあったのだった。
ゴミ置き場。
人気はほとんどない。多分、今は僕と兄さんしかない。
僕らの目の前には、万能ゴミ処理装置があった。
巨大な金属製の胃袋みたいな形状。大きな口が開いていて、そっちはゴミ収集車のゴミを放り込む所に似ている。
それはAIが開発したもので、その中に放り込むとどんなゴミでも適切に処理をしてくれるという便利な代物だ。例えば生ゴミを放り込めば、堆肥やなんかにしてくれて、電化製品製品を放り込めば、確りと資源ゴミに分解して吐き出してくれる。
僕と兄さんは、そこでアルバイトをしていた。ゴミを集めて来ては、ゴミを放り込むという仕事。本当はそこは父さんの職場で、だからもちろん本当に働くべきなのは父さんなのだけど、父さんは仕事をせずに休憩所で昼からお酒を飲んでいる。
……つまりは、父さんは僕らに仕事をさせて自分は楽をしているのだ。まったくやってられない。僕らがほとんど仕事をしているのに、お金はほとんど父さんが持っていってしまうんだもの。
万能ゴミ処理装置はどんなゴミでも処理してくれるけど、一度に処理可能なのは同じ種類のゴミだけだ。その時、僕らはパソコン数台を放り込んだ後で、万能ゴミ処理装置がゴミを処理してくれているのをずっと待っていた。ウオンウオンと凄い音を立てている。一体、中で何が行われているのかは分からないけど。まぁ、どうでもいい。
次に放り込むゴミは、木材が中心だった。これはウッドチップや加工に便利な繊維の束にしてくれる。僕は山と積まれた炬燵や椅子などを眺めた。これを放り込むのはかなりの重労働になりそうだ。げんなりする。
「流石にやってられないな」
不意に兄さんがそう言った。
「あいつにもっと小遣いを上げてくれるように交渉しようぜ。そうじゃなかったら、もう仕事はしないって言ってさ」
“あいつ”とは、もちろん父さんの事だ。
僕は目を大きく開く。
「ダメだよ、兄さん。そんな事を言ったら、また殴られるよ」
「そこは上手くやるんだよ。あいつだって俺らが仕事をしなかったら困るんだ。充分に交渉の余地はあるさ」
「でも……」
そう僕が言いかけたところだった。
「ああ? 今、何かたわけたセリフが聞こえて来たみたいに思えるのだがな?」
そんな父さんの声が聞こえて来た。
しかも、明らかに酔っている。
驚いて振り返ると、父さんは酔っぱらった赤ら顔を怒らせて僕らに近付いて来ていた。ゴミ置き場を背景にしていて、その光景はまるで廃墟の街を進むモンスターのようだった。
「生意気言ってるんじゃねぇ! 誰のお陰でこの仕事にありつけていると思っているんだ? 俺だろう?」
そう言うと、父さんは素早く兄さんの首根っこを掴んだ。
いけない。
僕は思う。
父さんは酔っぱらって真っ当じゃなくなっている。話が通じる状態じゃない。
案の定、父さんは暴れる兄さんを万能ゴミ処理装置の前にまで引きずっていった。そして、
「これは万能ゴミ処理装置だろう? お前みたいな社会のゴミも何とかしてくれるんじゃないのか?」
そう兄さんを罵って、万能ゴミ処理装置に落とそうとした。兄さんはそれを聞くと我慢できなくなったのか激しく怒鳴った。
「なんだと?! ゴミはどっちだ!? 子供に働かせて生活しているクズが!」
それを聞いて父さんはますます怒った。
「ああ? 父親に向かってなんて口を利いてやがるんだお前は!」
まずい!
と、僕は恐怖を覚えた。
このままでは、兄さんは父さんに殺されてしまう。
それで僕は咄嗟に父さんを思い切り突き飛ばしたのだ。父さんは体勢を崩した。なんとか兄さんの手は掴めたけど、父さんはそのまま万能ゴミ処理装置の中へ落ちていってしまった。
それまで物凄い音を立てて動いていた万能ゴミ処理装置は突然に動きを止める。父さんは処理口に引っかかっているようだった。僕は安心した。どうやら安全装置みたいなものがあったらしい。多分、父さんは怒り狂うけど、殺人者にならずに済んだ。
が、次の瞬間だった。
万能ゴミ処理装置は、さっきまで処理していたパソコン数台を分解した形で吐き出すと、再び激しく動き出してしまったのだった。
『識別しました。対象、社会のゴミ。処理を開始します』
そんな音声が響いた。
「ちょっと待っ……」
そう僕が言いかける間で父さんは「うわわあぁぁ!」という悲鳴を上げながら、処理口の中に吸い込まれていった。
僕は青い顔になりながら、兄さんをなんとか引き上げた。その間で大きな音を立てて装置は動き始めた。
中で何が行われているのかは分からないけど、父さんは多分助からない。
「どうしよう? 兄さん」
僕は涙目になりながらそう呟いた。兄さんは「大丈夫だ」と返す。「あいつは俺を殺そうとしたんだ。十分に正当防衛が成立する。お前は罪に問われない」
装置は動き続けていた。
僕らは何もできずにそれを見守る。処理が終わったら、一体、何が吐き出されて来るのだろう?
やがて、音が止んだ。
万能ゴミ処理装置の出口が開く。分解された人体の部品が転がり出て来るのだろうか? 兄さんは僕の目を手で塞いだ。
ところがそれから「はい?」と、兄さんは素っ頓狂な声を上げたのだった。
「父さん…… なのか?」
そこで兄さんは僕の目から手をどけた。
そこには父さん…… のように思えるものがいた。ただし、それは父さんであって父さんじゃなかった。明らかに雰囲気が違っていたのだ。まず酔っていないし、それに凶悪そうな顔もしていない。穏やかな、普通の父親のように思える。
「お前達……」
と、“それ”は言った。
「すまなかったな。こんな仕事をさせて。後は父さんがやるから学校へ行きなさい。もちろんお前達が働いた分のお金は確りと払う。ただ、一度に大金を持たせるのは良くないから分割するが。それくらいは聞き分けてくれるな?」
僕も兄さんも唖然となっていた。そして、ただただ頷いていた。これって何か犯罪になるのかな? と思いながら。
綺麗な〇ャイアン…… みたいなもんですかね?




