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エピローグ

挿絵(By みてみん)

 聖王都エリシオンでのデビルと人間による、この世界の生き残りを賭けた最終決戦は天使と竜の加護を受けた人間の勝利となった。

 しかし、デビルは決して滅びない。人間がいる限り。

 またいつか地上を狙って侵攻してくるだろう。

 だが、それは今すぐではなくなった。

 勇者たちの粘り強い戦いによって、見事デビルに勝利したのだ。


 フレイアが再会した時には、ウォルフガングは物言わぬ(むくろ)となっていた。

 あまりに凄惨な死に様だ。

 生前を知る者が見れば、目を背けたくなる有り様である。

 レーヴァから来た騎士のひとりにフレイアが声をかけられるまで、ウォルフガングが王都エリシオンに来ていた事すら知らなかった。大量に転がる遺体の中でも一際目立つ状態だった為にすぐに見つけることができた。

 混乱の中、ウォルフガングの骸は他の遺体同様に、道端に打ち棄てられるように転がっていた。その胸に巨大なデビルの剣が2本も突き立てられている。

 騎士を貫いた邪剣は骨に固く食い込んで簡単には外せないのだと言う。

 その上、デビルの剣を恐れる人々に遺体ごと忌避されていた。

 薄目を開けたまま、虚空を見るように絶え果てている。

 せめて、こうなる前にもう一度だけでも言葉を交わせていたら‥‥。

 戦いの現場を見ていたと言う者に、若い騎士たちを押しのけて単身で一際巨大なデビルに突進して相討ちになったのだと聞かせられた。

「あなたの事だから、きっと若い騎士たちを護ろうとしたのね」

 ウォルフらしい、と思った。

 きっと現場に居合わせたとしても止められたかどうかもわからない。フェリシアが死んでからのウォルフガングは何かが吹っ切れていたと感じていたからだ。

「馬鹿‥‥ウォルフの馬鹿‥‥」

 せめて、あなただけでも生きていて欲しかったのに。

 気丈なフレイアの頬に、涙が(こぼ)れ落ちる。

 幼い頃から、当たり前のように側にいてくれた寡黙な騎士。

 どんな時も。騎士道をたがえて父の仇討ちをこっそり打ち明けた時ですら、ウォルフガングはフレイアを(いさ)めることもなく味方してくれた。近くても遠くても、いつまでもレーヴァで待っていてくれる存在だと自然と思い込んでいた。

 シグルド、クレア、フェリシア‥‥ウォルフガング。

 結局、フレイアは家族と呼べる存在をデビルに殺され、すべて奪われてしまった。家族を護りたくて竜騎士を目指していたのに。自分だけが1人残された。


 一体何のために目指した竜騎士だったのだろうか。

 父シグルドを除けば、レーヴァで1番の騎士と言われてたウォルフガングが。

 時折レーヴァ神殿の妻の墓を訪れては、哀しい姿を見せていた事が今になってわかるように思えた。

 1番護りたい者こそ、救えない。護れなかった。

 同じ想いをウォルフガングもずっと背負っていたに違いない。

 その上で長年の忠節を尽くし仕え続けた主君シグルドを失ったウォルフガングの気持ちは、父シグルドを失った自分とはまた違う喪失感だったのだろう。

 2人の絆の強さを間近で見て育ったフレイアでも、それが引き裂かれたウォルフガングの心の中を想像する事はできない。

 レーヴァ襲撃の一報を受けて、故郷に戻って以降、ウォルフガングとはほぼ事務的なやりとりしか出来なかった。わずかに漏らした本音も、平和だった昔のように主従の域を越えられるものではなかった。自分自身も、ウォルフガング自身も、互いに騎士としての分を弁えた姿勢を崩すことはなかった。

 特にウォルフガングは、己自身を主君を守れなかった罪人であるかのように捉えてフレイアに近づく事すら控えていたような素振りを見せていた。

『いつかフレイア様が領主を継がれることになり、シグルド様がお許しになり、尚も姫様が望まれるのであれば‥‥その時は』

 フレイアが竜騎士修行のためにレーヴァを旅立つ前に交わした約束も、互いに果たすことが叶わないままになった。

 もし、無事にデビルとの戦いに生き残れていたなら。

 またあの頃のように話せる機会もあったのかも知れない。

 しかし、沈んだ太陽が戻らないように、過ぎ去った時間が戻ることはない。

「もっとウォルフと、話せば良かった‥‥」

 フレイアが覚えているルシア家の騎士は、いつもフレイアには穏やかに微笑みかけてくれていた。寡黙で愛想のない男が見せる愛情深い一面。

 時折、髪をかき回して手荒く撫でてくれた暖かく固い手の感触も。

「‥‥本当に、あなた、馬鹿よ‥‥」

 日々の鍛練を欠かさない節くれだった無骨な手を、最後に握り締めて別れを告げた。

「‥‥さようなら、ウォルフ」

 懐に持っていたエルバ神殿の紋章が刻印された鈴が、小さくコロンッと鳴った。


 遺体はさすがに今すぐレーヴァまで戻せないと言う事で、大量の王都の遺体と共に一旦は共同墓地にまとめて埋葬される事になった。

 事切れていても、最後まで握って離さなかったというウォルフガングの愛刀をフレイアは家族として受け取った。

 レーヴァの近くのカリスト村は、デビル襲撃の騒乱の際にウォルフガングの旧友のドワーフの竜騎士が継いだとも聞いている。そこに送り届けてもらう事にした。レーヴァ神殿の墓地に、愛刀を遺体代わりに埋葬を願う手紙と共に付けておいた。

 あれだけ愛したレーヴァに本人が戻れないのは可哀想だと思ったが、きっとウォルフガングの事だから覚悟はしていたのだろう。

 フレイアにとってウォルフガングの剣は、男が貫いた忠義と騎士道の象徴であった。その魂だけでも父の近くに納めてあげたかった。

 エリシオンは王都としては壊滅しており、機能が果たせない事から遷都が決まっている。だが、街にはまだ生活を続ける人々が残っている。

 復興の為にしばらくはエリシオンで手伝うつもりだが、その後の事は何も考えられなかった。レーヴァには帰る場所も無ければ、待ってくれる家族はもう誰もいない。

 それが身に染みてフレイアが自覚するのはもう少し先の事だろう。

 もしも、自由が許されるなら、もうレーヴァには戻らないかもしれない。

 あまりにも悲しい出来事を重ね過ぎた、とフレイアは故郷のある方角を無言で眺めながらたたずんでいた。


 後日、レーヴァに残されたウォルフガングの家の所有権は領主館に近いこともあり、新しいレーヴァ領主が受け継いだ。レーヴァ陥落後に家を無くしたり、フレイアを支えようと集ってきた人々のために自宅を解放したウォルフガングの遺志を継いでそのままになっている。

 一度はエリシオンの共同墓地に埋葬されていたウォルフガングの棺も改めてレーヴァ神殿に移送して、妻セレーネの墓の隣に愛刀と共に埋葬され直した。

 すぐそばには前領主シグルドの墓もある。

 長い時間はかかったが、レーヴァの黒狼は愛した地に帰還した。

 新しいレーヴァ領主と、カリスト村の領主バッカスからの心遣いだった。

 何よりレーヴァや近隣の村々の領民も、レーヴァの黒狼を忘れておらず、遺体の帰還を待ち望んでいると領主への要望が寄せられていた。

 わずかながらその為の寄付も集まっている。

 ウォルフガングはシグルドのような稀代の英雄ではなかったが、毎年の雪下ろしを手伝ってもらった、病気の子供を街の医者に運んでもらった、喧嘩の仲裁、荷車の横転から救われた、逃げた馬を捕獲してもらったのだという、領民からのささやかながらも数々の訴えが集まっていた。ウォルフガングが日々見守り続けて巡回していた直向きな姿は、市井の彼らの心の中にも刻まれている。


 時代は生き残った者たちに受け継がれてゆく。

 朽ちた者たちを踏み越えて。

 そうして、レーヴァの黒狼もいつかは誰の記憶からも忘れ去られるだろう。

 死んだ者がいつかは土に還るように。

 フレイアもかつて平和だった頃の懐かしい記憶の、その残照の中でも未来に向けて歩んで行かねばならない。それが残された者の使命だ。

 デビルを打ち倒して新たな平和を取り戻した事で、アリアの黄昏の時代は終わった。

 すでに太陽は新たな時代を照らし、輝き始めている。



【END】



■蛇足的エピソード。ゲームラストでフレイアはレーヴァに永遠の別れを告げて出奔。ゲーム内では前半しかし絡みがなかったので、ウォルフは死ぬ前に会いたかっただろうな、と。一応そう言うプレイングしたんだけどマスターから「時間がなくて会えなかった」と採用されなかったので、すれ違ったまま扱いに。唯一の生き残りのルシア家の姫君との関係が、ゲーム内で全うできてなかったのが未だ心残り。ただ、決戦時のエリシオンには2人とも居たはずなので、死んだ後でも良いからチラッと逢えてたらいいな、と言う願いで。ゲーム本編では愛刀しかレーヴァに戻れなかったけど、追加分では遺体はレーヴァに戻されたと言う説明があったので時間差で。

※フレイア24歳 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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