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落陽~大団円~

挿絵(By みてみん)

 それはまるで地獄の釜の底のように。


 聖王都エリシオンは流血と黒煙と炎の中で暗く燃えていた。

 天使様に愛されし地、敬虔(けいけん)な信仰の国、平和で牧歌的な神聖アリア王国。

 9大王国の中でもっとも不浄な存在とは縁が遠いはずであった。

 そのアリアの王都が歴史上かつてないほどのを迎えている。

 西の辺境都市レーヴァに対する襲撃から始まったデビルの災厄は、ついにここまで侵攻が及んでいた。各地で抗戦はされたが、最悪最凶のデビルがついにエリシオンに舞い降りた。それを境に各地のデビル軍が王都に集結している。

 人間か、デビルか、この世界の生き残りを賭けた最後の激戦。

 美しいと評判であった王都の石畳は、犠牲者の流したおびただしい量の血溜まりをいくつも作っていた。街中から火の手が上がり黒煙が立ち込めて空を焼き、聖王都と呼ばれていたエリシオンはもはや面影もない。

 戦いを挑む騎士の怒号、逃げ惑う民衆の悲鳴、人ならざる者どものおぞましき雄叫び。遺体やその一部が累々と無残な姿を晒して、山となりあるいは散乱しては路傍(ろぼう)に転がっている。血と肉と鋼の飛び交う戦場には死んだ者と、まだ死んではいない者しか存在していない。

 地上では無数にいる下位のデビルがエリシオンを焼き尽くし、燃える炎が照らし出される上空では高位のデビルと巨大な竜騎ドラグーンが舞い飛び、いつ果てるとも分からない死闘を繰り広げている。


 その王都の凄惨(せいさん)極まる市街地の片隅。

 デビルに転化した人間と、対峙する数人の騎士たちの小さな戦いが繰り広げられていた。獣のような姿に変えた血に飢えたデビルは、もはや元の人であった痕跡すらわからなくなっている。

 レーヴァの黒狼ウォルフガングは騎士として、主君を殺し、領民を殺し、フェリシア姫を(けが)し死に至らしめたデビルを滅しなければならぬ。

 主君シグルドになり代わって、正義を遂行せねばならない。

 それが戦いに(たお)れた彼らの死を背負う騎士たる者の務め、護り通せなかった者たちへの贖罪であると自らに課していた。若い騎士たちを背後に制して自らが先頭に立ち、ウォルフガングは強大なデビルの前に立ち(ふさ)がる。

 戦いに次ぐ戦いで、すでにこの場にいる騎士で無傷でいる者など居ない。

 レーヴァでのデビルとの戦いで負傷していたウォルフガングも例外ではなく、治療を受ける間もなく怪我を押してエリシオンに駆けつけていた。もう後がないウォルフガングと違い、未来を託す若い彼らを道連れにするわけにはいかない。

 獣の眼差しが、ウォルフガングを威嚇するように光る。

「クックックッ‥‥騎士風情が、神の理や竜の規律に守られる愚か者ですらないてめぇに俺がやれるっていうのか!」

 デビルの哄笑(こうしょう)が響きわたり、一介の騎士であるお前如きに何ができると嘲笑(ちょうしょう)する。

 だが、その通りだ。加護がない人間はデビルに対してあまりに無力。

「‥‥」

 ウォルフガングは全く表情を変えずに剣を向ける。

 レーヴァでの決戦に身を投じた時から、とうに覚悟はしていた。

 今更、デビルにも、騎士たちにも語るべき言葉などは無い。

 騎士が放てる『闘気(オーラ)』は意識して発動させる事も、制御する事も出来ない。

 しかし、騎士が唯一デビルに有効な一撃を与えられる手段だ。

 ウォルフガングはそれに望みと全身全霊を賭ける。

 その覚悟に呼応するかのように身体から『闘気』の揺らめきが現れると、一瞬で騎士の身を包んでいく。剣を握る手に燃え上がるような力が集まる。黒狼の視線はデビルを捉えて離さない。

 迷いなく自ら走り出すと、長年の鍛錬で培った剣技を賭けて、ウォルフガングは捨て身の一撃を放った。

 まさか騎士の方から接近してくると考えてなかったデビルは、気圧されれながらもおぞましい咆哮を上げて迎え撃つ。加護の受けていない一介の騎士など、デビルにとって無力で殺される事しかできないただの人間でしか無い‥‥はずであった。


「ガガアアアァ!」

 断末魔の雄叫びを上げながら、デビルは2本の邪剣を迫る騎士に突き出した。

 燃え盛る『闘気』を帯びた一撃は巨大なデビルの身体に激突する。

 ドスッ!

 鈍く重い音を立ててウォルフガングの身体から血飛沫が上がる。

 邪剣が騎士の身体に突き立てられる。それでも、その勢いは止まらない。

 狙いを定めた狼の牙が獲物の息の根を止めるまで喉笛に喰らい付いて離さないように、ウォルフガングは闘気でデビルを焼き尽くすまで引かない。

 この好機を逃すレーヴァの黒狼では無い。

 前へ前へと、突進を続ける。胸を貫く邪剣を突き立てられたまま、流血に染まる黒狼のその目は爛々(らんらん)獰猛(どうもう)に輝く。闘気は騎士の命をも燃やし尽くすように、血を流すほど激しく(たぎ)らせる。

 むしろウォルフガングは自分から邪剣に身体を押し付けているかのようにすら見える。

 めりめりと骨をいくつも砕く嫌な音を立てながら、2本の邪剣は騎士の胸を深く刺し貫いて行く。口から血の塊を吐き、胸から鮮血が噴き出るのも構わず、ウォルフガングは迷いなく太刀筋を押し通し、闘気で焼き、その刃でデビルを喰い千切った。

 周りにいた他の若い騎士たちは、その迫力に動くことも出来ず声も出せない。

 かつて、これほど闘志を剥き出しにした熾烈な黒狼の姿は無かった。

 もつれ激しく絡み合った2つの影は重なり合い、やがて静かに地面に倒れ伏す。

 死闘は静寂をもって決着が着いた。

 そして、どちらも2度と起き上がることはなかった。


 デビルはやがて音もなく塵となって消え、騎士には致命傷と言うには十分すぎる深手を残した。

「‥‥」

 禍々(まがまが)しい大剣が2本とも、男の胸を刺し貫いている。

 激しい闘気をまとった渾身の一撃はデビルを焼き尽くし葬ることに成功したものの、その代償を男はその身で支払うことになった。

 だが、悔いは無い。デビルに一矢(むく)いる事が叶った。

 塵と消えた持ち主を失っても尚、凄まじい妖気を放つ邪剣。

 戦いを見届けた若い騎士がウォルフガングの傷を見た。助けようと駆け寄った周囲の者たちはその有り様に思わず目を背ける。一目見た途端に表情が暗くなる。

 まだ死んではいない。だが助けることが出来ない程の傷だった。

 それは男の人生の幕引きを告げていることを悟らせた。

「聞こえるか‥‥何か言い残す事はないか?」

 若い騎士がウォルフガングの耳元に口を寄せ、大きな声で言う。すると、その声が聞こえたのか死にかかった男はうっすらと目を開けた。

「‥‥デビルは‥‥?」

「死んだ。消えちまった」

「ならば‥‥いい」

 簡潔に短く答えると、燃え尽きたように目を閉じる間もなく、静かに事切れる。

 それが寡黙な男の最後の言葉になった。

 レーヴァの前領主、ルシア家に仕えた騎士であったウォルフガング・ルーベンドルフは、レーヴァを遠く離れた土地でひっそりと、その46年の生涯を終えた。


 かつて。生まれ故郷と親元を離れてたった1人、レーヴァに騎士見習いにやってきた少年は、そこで終生の主君シグルドと出会い、騎士に叙勲され、生涯の伴侶セレーネとの出会いと別れを経験してきた。

 そして運命が変わったレーヴァへのデビルの襲撃。

 領主夫妻を失い、その遺児たるルシア家の姫君も守り通せたとは言えないまま、デビルとの最終決戦の中でウォルフガングもついに(たお)れた。

 レーヴァにおいても、レーヴァから遠く離れた最後の決戦の地エリシオンにおいても、若者たちの多くが戦いの中で散っていった。

 ウォルフガングもその戦いの喧騒(けんそう)の中にいたはずだった。

「‥‥?」

 いつの間にか、視点は変わり少し離れたところから自分の遺骸(いがい)を見下ろしている。

 不思議と違和感は感じられず、ぼんやりとその景色を受け入れている。

 静寂の中で痛みも何も感じず、自らの肉体から噴き出る血の流れすらも他人事のように感じていた。このまま道端の多くの名もなき(むくろ)と同じになるのだろう‥‥。

 ふさわしい最後かも知れん、と静かに死を眺めていた。


 これまでの騎士としての人生で、傷つき倒れることは幾度か経験している。

 かつて流浪の傭兵で戦士だった父親に言われた言葉を思い出していた。

「男と生まれたからは強くあれ。大切な護りたいものを護り通すために、誰よりも強き剣となり最後まで立ち続けろ」

 しかし、ウォルフガングの生き方は父の言葉とはかけ離れた泥臭いものとなった。なんとか騎士として剣の道に生きる事はできたが、父の言うような強き剣でいられたと言えるほど、立ち続けられた訳ではなかった。それでも、騎士として足掻(あが)き続けた。

 果たしてそれはレーヴァを護る剣でいられたのだろうか。

 せめて主君シグルドに恥じぬ剣でいられたのだろうか、と自らに疑問符を投げかけずにはいられない。

 ウォルフガングには、あまりに失ったものが多すぎた。

 真っ先に剣となり盾であらねばならぬ身でありながら、愛した者たちは皆ウォルフガングを置いて逝ってしまった。主君シグルドと奥方のクレア、フェリシア姫、愛したレーヴァの民、そして‥‥妻のセレーネ。

 皆、己が護らねばならなかった。

 あと一歩手を伸ばせれば、護れたかも知れない者たち。護りきれなかったとしても、何かが出来たかも知れない人々。

 竜騎士でも無ければ聖騎士でも無い、一介の騎士風情には傲慢(ごうまん)と言われようとも、ウォルフガングにはあきらめがつかなかった。

 この期に及んでなお、この不器用な騎士の魂は贖罪(しょくざい)の呪縛から自らを放つことができずに、(ゆる)されぬ罪の拘泥(こうでい)の中でもがき苦しんでいる。

 男の無念に呼応する様に、2本の邪剣は騎士の魂を死してなお縛り付け、より苦しめる(くさび)となり深く突き刺さっていた。足掻(あが)こうにも、最後まで魂を燃やし尽くした黒狼には邪剣を取り払う力は残されてはいなかった。

 そうか‥‥私はまだ‥‥赦されるべきでは、ない‥‥か‥‥。

 ウォルフガングは邪剣で(けが)れ黒く染まった己の血を、苦悶の中でごぶっと吐いた。


「ウォルフ!」

 力強く逞しい声が呼んでいる。いつのまにか途切れていた意識が繋がり、ウォルフガングは(うつ)ろに覚醒を感じた。ここは、どこなんだろうか。

 しかし、どうしても明瞭に目覚めることが出来ない。

 身体はただ、その場で打ち震えるのみ。何もできず動けないでいた。

 覚えのある硬く厚い手の感触が、騎士の血に濡れた肩を掴んだ。

「ウォルフ‥‥」

 その名を呼ぶ声の主は、震える言葉を詰まらせていた。

 デビルとの死闘の末に、変わり果てた騎士のその姿。

 息を呑む複数人の気配が取り囲んでいる。

 戦いで流した赤い鮮血と、邪剣に穢された黒い血にまみれた(からだ)

 ウォルフガングは応えたいが声が出ない。身体は指一つ動かせずままならない。

 目も見えてるのかどうかもわからない。五感は朦朧としている。

 だが、その肩から伝わるしっかりとした膂力、存在そのものが放つ圧力は間違いなくレーヴァの前領主にして竜騎士シグルドである。

 生涯をかけて敬愛し続けた主君の声に、どうしても応えたくて血を吐き言葉にならない呻めき声を漏らしながら騎士は必死にもがいた。

「さぁ、あなた、早く‥‥このままではウォルフが可哀想ですよ。ウォルフ、あと少しで楽になりますから。もう、(こら)えなくても良いんですよ‥‥ご苦労さま」

 主君の奥方クレア様の優しい声が聞こえる。若い頃から何かと気にかけて家族の一員としてウォルフガングを可愛がり、心遣いをしてくれた奥方様。

 ウォルフガングはそんなクレアを姉のように慕っていた。

 彼女の変わらない暖かい言葉が、戦いに疲弊した騎士の心に()みいる。

「わたくしは自ら犯した罪まで押し付けて、背負わせてしまいました‥‥あなたのせいではないの‥‥ああ、ウォルフ、こんな姿に‥‥本当にごめんなさい」

 心優しいフェリシア姫の可憐な声が後悔と苦渋を吐露(とろ)する。

 おいたわしい。疑念と冤罪からレーヴァの民によって理不尽な目に遭わされた姫様の、その苦しみと無念をどうして私が責められましょうか。主君も姫も、誰も救えなかった不甲斐なさを糾弾されたのは当然のこと。無力であった私の罪は‥‥。

 苦悶する騎士はのたうちながらフェリシア姫に(ぬか)づいて地に伏していた。

「ウォルフ‥‥」

 姫の苦しげな声と細く柔らかい手の感触を感じる‥‥私の手を、握られているのか。

 やがて、手の甲に滴がいくつか落ちた。

「まったく、お前は‥‥この‥‥この、大馬鹿者め‥‥」

 シグルドの言葉は涙声に震え掠れていた。肩を触れていたシグルドの手に力がこもり、もう一方の手で何かを掴むとゆっくりとそれを引き抜いていく。身体に深く打ち込まれた不浄な楔はずるりと不快な軌跡を残して身体から離れる。

 重苦しい呪縛が1つ取り払われた。

「が‥‥あ‥‥」

 必死に出そうとするウォルフガングの声は言葉に至らない。

 護ることが出来なかった忠誠を誓った主家、ウォルフガングにとっては愛する家族と言うべき人々。彼らに()びたかった。

「いつかは、こうなるとは思っていた。お前は都合よく自分を赦せる男ではないことをわかっていた‥‥それでも私はこうならない未来を見たかったのだ」

 シグルドは朽ちるような最後を遂げたウォルフガングの前にひざまづく。

「だが、それがお前を長く縛り付け、ここまで、このような無惨な姿に成り果てるまで追い詰めてしまったと言えよう‥‥許せ、許せよ」

 呻くようにシグルドは言うと、最後まで一途に尽くした男の、血にまみれた頭を厚い胸にしっかりと抱きしめた。

「あ‥‥ぐ‥‥ううっ‥‥」

「わかっておる、へなちょこのお前の言いたい事など。私たちによく尽くしてくれたお前に、礼を言うことはあっても(とが)などあるものか」

 ウォルフガングは未だ言葉を出せず意識も覚醒しきれない。

 まだ胸に残った苦しい何かが邪魔をする。

「皆、お前が戻るのを待っている‥‥私も待っている。早く、早く帰って来い」

 そして、穏やかに噛み締めるような声ではっきりと告げた。

「ウォルフ、長きの忠誠、まことに大儀(たいぎ)であった、我が騎士‥‥我が‥‥友よ」

 最後に、その頭をシグルドはくしゃっとかき回した。


「あなた‥‥」

 その声を感じた時、不思議なほど自然と涙が溢れてくるのを感じた。とめどなく、静かに。

 闇の中に消えかかった意識が、朦朧と目覚めるのを感じる。

 ひどく懐かしい、その声色。ああ、間違いない。

 目を逸らし封じていた想いをも、湧き上がる。

 遠い日に失った、愛しきその名を呼びたかった。

「‥‥あ‥‥あ‥‥ぐう」

 しかし、重い何かに遮られて胸が詰まり何も話せない。

 この時になって、ようやくこの身に深く貫いているもう一つの呪縛に気がついた。鈍くなっていた感覚が少しずつ戻ると、その苦しさも同時に戻ってくるように思える。

 そうだ、私はデビルの剣で‥‥胸を刺し貫かれたのだ。

 穢れた剣から伝わる禍々しい(うず)きにウォルフガングの顔が苦痛に歪む。

「ごぶっ‥‥!」

 血の代わりに黒い瘴気のようなものを吐き出して、深く重い咳でむせる。

 喉と胸を掻きむしり、なす術もなく苦しみに喘ぎ悶える男の頬に、彼女の白く冷たい手が添えられる。

「ウォルフ様、贖罪は果たされました。もしもまだ許されない罪というなら‥‥これからは私が共に背負いましょう」

 ‥‥だから、もう1人で苦しまなくていいのです。

 神聖魔術師のローブから伸びた彼女の細い可憐な手がウォルフガングの胸をえぐるデビルの剣に触れると、なんの重さも抵抗感もなく引き抜かれ、邪剣は塵となって消えた。

「ぐ、あぁ‥‥」

 詰まっていた声が漏れ出た。思わず、大きく息を吸い込んだ。

 えも言えぬ解放感に満たされていく。

 彼女は寄り添い、ウォルフガングの背中をゆっくりとさする。厚みのある広い背中がひゅうひゅうと喘鳴(ぜいめい)に揺れながら、残っている黒い瘴気を吐き出した。

「やっと‥‥やっと私の元に‥‥戻ってきてくださいました」

 あの別れの日から、ウォルフガングが悲嘆に暮れる姿をどれだけの日々見てきただろうか。幾年月が過ぎようと、その嘆きが癒される事は一度もなかった。

 どんなに求めても願っても決して届かない、(へだ)たれた世界に(のこ)してきた夫。

 まるでレースの透かし編みの向こうからしか覗き見ることしかできなかった夫を、ようやくこの手で触れる事ができる。

「さぁ、あなた‥‥目を覚まして」

 その手が触れるたびにウォルフガングは暖かい癒しの光を感じた。

「‥‥セレー‥‥ネ」

 なんと優しく懐かしい光であろう、忘れた事などあるものか。

 この癒しの光を、最後にこの身に受けたのはもういつのことであったのか。

 最後のデビルとの戦いで血塗れになっていたはずの身体からは、傷も血痕も消えていた。満身創痍のウォルフガングの魂から、もはや苦痛はすべて取り払われた。


 気がつけば。

 いつのまにかレーヴァの、領主館のある北の丘にウォルフガングは立っていた。

 戦いで最後に斃れた場所ではなく、葡萄の香りに満たされる懐かしいあの丘に。

 空は晴れやかに澄み渡り、緑豊かな景色を見下ろしている。

 丘陵地帯に続く広大な葡萄畑が、風に葉を波うたせ揺れて見えた。

 すでに陽は暮れの傾きを見せ、澄んだ空を茜色に染め始めている。

 遠くにぽつりぽつりと民家から炊事の煙が昇り始めていた。

 美しいレーヴァの空と大地と、そこに生きる人々の悠久の営み。

 この夕焼けをいくつ眺めたことだろうか。生まれ故郷を離れて騎士見習いとしてレーヴァにやって来た少年の頃、シグルドから叙勲を受けて真っ直ぐに騎士の勤めに邁進(まいしん)した青年時代、そして生涯の伴侶と決めた彼女と共に暮らし始めたあの頃に。

 何もかもが懐かしい、懐かしく愛しきレーヴァ。

 王都決戦に旅立つ時、二度と再び戻れまいと別れを告げて去った安息の地に。

「そうか、私は帰って来たのか‥‥」


 再び、ここに帰ることを許されたのか。

 ウォルフガングにとって寸分違わぬ情景ではあるが、心のどこかではこれが現実世界ではないこともぼんやりと理解していた。エリシオンで迎えた己の最後を忘れたわけではない。

 どのようにしてこの場所に来たのかすらわからない。

 この景色が本物ではなく、魂に焼きついた心象風景だとしても。それでもウォルフガングにとってレーヴァは心の故郷(ふるさと)に違いなかった。


 そして、レーヴァに立つウォルフガングの傍らにはセレーネの姿がある。やはり彼女は幻では無かったようだ。だが、まるで都合のいい夢を見ているように現実味が無かった。ほんの少し前まで、地獄の底に堕とされたようなエリシオンの炎と血の惨状の中で斃れていたはずだった。

「‥‥」

 あらためて自分の胸に触れてみるが、デビルの剣に貫かれた傷は剣ごと消えている。

 その手にセレーネが自分の手を重ねてきた。

 そうだ、デビルに受けた傷を彼女に癒されたのだ、と思い起こした。

 幻影ではない彼女の白く柔い肌の感触がやけに生々しく、感じる。

「セレーネ‥‥」

 思わず息を呑んだ。


 徐々にはっきりとした意識を取り戻し、愛おしい人の顔を見ることが叶った。遠くぼやけた記憶の彼方にしかなかったセレーネの微笑みが、今ははっきりとそこにある。

 小柄で華奢な身体付き、綺麗な青と緑の間の様な瞳、肩と背に流れる髪は柔らかい栗色で、自然なウェーブを描いている。あの頃のままの姿。

 ここが何処であるかなど、彼女の前に辿り着けたと事実の前にどれほどの意味があるだろうか。

 いや、幻でも構わなかった。ずっと逢いたかった‥‥。

「ああ、おまえ‥‥やっと、逢えたのだな」

 自然と手を伸ばした。

 今まで何度も、夢の中で、幻想の中で。

 いくら懸命に伸ばし続けても届かなかった彼女の手。

「ウォルフ様‥‥」

 剣を握ることしか知らぬ固く分厚い武骨な手。

 常に誰かを守ろうとした騎士の手。

 セレーネは傷跡だらけの、しかし限りなく優しい夫の、その手を取った。

 ウォルフガングは妻の柔らかな手をそっと握りしめる。

「‥‥わ‥‥私は‥‥」

 溢れる想いが言葉になって出てこない。

 再会の喜びを抑えきれないウォルフガングは、妻の細身に太い腕を回して優しく抱き上げる。亡くした時の姿そのままのセレーネの19歳の若い姿と、歳を重ねたウォルフガングの46歳の姿が1つに重なる。 

「そなたに逢いたかった、どれほどこの日を待ち()びただろうか」

 太く低い声で、ウォルフガングは伝えた。

 加齢に加えて、10年前のデビルとの戦いで喉を潰したしゃがれた声色。

 騎士としての厳しい戦い、苦痛と苦渋の生き様を表すように漆黒だった髪にも髭にも白い毛が所々混じっていた。

 死別してから20年の歳月だけ擦り減らして老けた夫の姿。

 哀しい暗い影を抱えても、それでもあの頃の素朴な瞳の輝きは残している。

「私に逢いに来るのは‥‥もっとゆっくりで良かったのです。私はいつまででも、あなたをお待ちできましたのに」

 セレーネは微笑んで返した。別れた頃より、さらに分厚く逞しくなった夫の揺るがない頑健な身体に身を任せた。

 手を伸ばして傷痕が増えた身体を慰るように抱きしめる。

 月日を経たその姿の、何もかもが愛おしい。

「すまぬ。これでも最後まで精一杯足掻いて‥‥騎士として生き抜いたのだ」

 ウォルフガングはレーヴァを離れ、遠い地で朽ちた事に負い目を感じていた。

 騎士道に殉ずること。デビル討伐の大義の為とは言え、レーヴァを離れて全てを捨て置いて行ってしまった。主君にも、妻の墓にも別れを告げて。

「生涯をかけて鍛えた我が身なれど、それすらデビル1匹に相討ちで終わってしまった。そなたに合わせる顔もない。不甲斐ない私を、どうか‥‥許しておくれ」

 己の全てを賭け、全てを捨てた戦いにすら斃れた。

 胸を張って報告できる戦果もない。不様な結末の挙句に妻の前に立つ事を、武人として、男としてウォルフガングは恥じていた。

 詫びる夫に、セレーネは首を振る。

「いいえ、そんなこと。私も‥‥私もこの日をずっと待ち()がれていたのです」 

 長年の年月を経た再会の喜びも束の間に、無骨者の夫は戦いの話をしている。

 しかし、セレーネにはその様子すら懐かしい。

 何も変わらない夫のその様子に、思わずくすくすと笑った。

 妻とは対照的に困ったような浮かない表情を浮かべるウォルフガング。

「私は‥‥共に暮らした‥‥日々の中で。そなたを幸せにしてやれたのだろうか? 仕事ばかりでお前に寂しい思いばかりさせてしまったのでは無かったか?」

 ウォルフガングは長年抱え続けた苦悩を訥弁(とつべん)に訴えた。

 真摯に心の内を語る時ほど、辿々しくなる話し方は未だに変わらない。

「自分の選択に、生き様に、そなたを犠牲にして苦しめてしまったのでは無いかと‥‥後悔しなかった日はなかった」

 振り返れば。騎士道という名の下に、小さな我欲や視野の狭い理想に執着し続けた融通の効かない愚かしい生涯だったのかも知れない。

 あるいは、もっと広く大義を見据えた賢い生き方も選べたのかも知れない。

 しかし、自分には何度機会が与えられても、あのようにしか生きられないと改めて感じた。もしも、父に憧れて剣の道に進まなければ、シグルドに忠誠を誓わなければ、セレーネと添い遂げなければ‥‥騎士道に殉ずる道を選ばなければ。

 いや、それは有り得ない。今だからこそ、全ては必然の出会いで、この人生の結末も宿命であったと思える。そのようにしか生きられなかったのだ、と。

「他の生き方が選べなかったとしても、そこに巻き込んでしまったことには変わりない‥‥身体の弱いお前に苦労をかけてしまった」


 さて、何十年と背負い込んだ贖罪の意識を、頑固一徹のこの男から引き剥がすのは容易ではない。さりとて、そうしなければウォルフガングの魂に救済は無い。

 セレーネは十分すぎるほど、立ち向かう覚悟をしている。

 いや、この日をこの機会を、どれほどの歳月を待ちわびたことか。

 夫を納得させられないまま遺してきてしまったのが、その後の人生を贖罪と後悔に縛りつけた要因であったとも言える。

 それは、病床の19歳だったセレーネにはどうにもならない事であった。

 あるいは、時が経てば‥‥いつか夫の心は変わるかもしれない、と期待した事もあった。しかし、愚直な男は彼女の事を何一つ忘れず、その一途さはいつまで経っても変わりやしない。(まぎ)らわせる事すらしない、後添(のちぞ)えすら迎えないまま。

 まるで本当の狼のように。

 たった3年で終わった2人の結婚生活なのに、死別から20年が過ぎても男は妻の面影を追い続けてきた。

 結果、セレーネの予想通りに贖罪の鎖を断ち切れないまま、それでも夫は逃げる事すら出来ず、自ら再会を望んで彼女のいる場所に現れた。

 袋小路に迷い込んで身動きが取れない夫を、連れ出して導いて行けるのは、解放する事が出来るのは‥‥自分1人だけ。

 だから、セレーネは諦めない。今はあの時とは状況が違うのだから。

 ついに我慢しきれず、死によって分たれ、伝えることも出来なかった内に秘めていた想いをぶつけた。


 夫の太い腕の中から降りると、セレーネは固い騎士の手を取り握りしめた。

「ウォルフ様に出会うまでの私は‥‥ただ、ベッドの中でゆっくりと死を待つだけの、なんの変化も無い日々を過ごしておりました。でも、あなたと出会ってしまった。ウォルフ様に見染められた、あのエルバの天使祭の日から生まれ変わったのです。まるで毎日が本の中の物語のように目まぐるしい冒険の日々でした」

 ウォルフガングは妻の言葉に唸りながらも、しょぼくれた様子で聞いている。

 ぐっと近づいて、セレーネは続けて訴える。

「あなたと言う騎士の妻となって、シグルド様とクレア様と、レーヴァの皆さんの中に囲まれて生きる事ができた人生、ウォルフ様に出逢えなければ‥‥こんなに世界が広いなんて想像もしてなかった」

 ウォルフガングと一緒に暮らすようになるまで、父母の言う通りに静かに信仰の中に生きてきたセレーネにとって、自分の中にこれほど誰かに何かを主張するような強い気持ちが生まれるなど思いもしなかった。

「もちろん‥‥あなたが傷つくたびに、自分の身を裂かれるより恐ろしくて身の縮む思いをしました。本当に怖くて‥‥ウォルフ様は何度も傷ついて苦しみ抜いてつらい思いもされているのに‥‥それなのに」

 ウォルフガングは思わず身じろいで半歩下がる。

 確かに、ウォルフガング自身にも身に覚えはある。そういった事で彼女に心労をかけていた。まったく申し開きもできない。

 だから、あの頃は‥‥ ただ妻に謝ることしか出来なかった。そして、今も。

「あなたは信じられないような無茶ばかり。酷い怪我をしても、ちっともやめてくれない。何もできない何一つ止められない私の気持ちなんて‥‥ウォルフ様にはお分かりにならないでしょう?」

 妻の言葉に、圧倒されてぐうの音も出ない。叱られている‥‥気がした。

 酷く懐かしい感覚だ。怪我を負うたびに叱られていた記憶が甦る。

 もちろん彼女の言う通り、自分は妻の気持ちなど何一つわからない。

 予想も想像もつかない。彼女の考えを察するのは‥‥(かすみ)か雲を掴むような思いがするのは出逢った頃から変わらない。

 おそらくセレーネには、この考えすらお見通しなのだろう。到底かなわない。

「それも、過ぎ去った遠い話。泣いたり笑ったり、今となっては何もかもが楽しかった思い出です。それはウォルフ様だけが、私に与えてくれた人生の喜びなのです‥‥できることなら、私はこの美しく広い世界で、あなたと一緒に季節を感じながら、ゆっくり歳を取りたかったのよ」

 微笑む妻に、それでも往生際の悪い頑迷なウォルフガングは問いかけた。

「‥‥こんな私を、そなたは(ゆる)してくれるのか?」

 すがるように赦しを乞う夫。

「赦すも何も。私は最初から‥‥あなたを何一つ、責めてなどいませんよ」

 セレーネは微笑みつつも、少し哀しそうに答える。

 ウォルフガングは顔を振った。

「いや‥‥そうだ、その通りだ‥‥赦せないのは己自身なのだ。そなたを言い訳にするなど、私が愚かであった。すまなかった‥‥セレーネ‥‥わ、私は‥‥そんな事もわからなくなっていたのかもしれない」

 声もあげず、涙も流さず、狼は慟哭していた。罪の意識は、男の魂を深く(むしば)んで癒着している。

 無理もない‥‥のかもしれない、とセレーネは微笑みを(かげ)らせた。

 長い歳月、この人は‥‥そうやって耐え忍んできたのだから。

 贖罪の心を原動力に、結果として騎士は己を追い詰めて鍛え上げることになった。いくら傷つこうと構わずに、何度でも立ち上がり人々を護ろうとしてきた。

 強く生きていく以外に、他に方法がなかった。

「私の罪は、そなたをみすみす死なせた‥‥不甲斐ない己を赦せない心だ」

 セレーネの白い華奢な手が、寂しげに詫びる夫の太い首元に触れる。

 子供のような素直さは出会った頃と、何も変わらない。

「もう‥‥(よろ)しいではありませんか。お赦しになられてください。あなたは充分過ぎるほど苦しんでこられました。私はそんなあなたを長い間、慰める事すら許されず、ずっと眺めてきたのです」

 妻の言葉にしばらく沈黙した後、ウォルフガングは目を伏せる。

「贖罪の気持ちが、死してもそなたを苦しめてしまったのか‥‥本当にどうしようもなく愚かしい男だな、私は」

 苦しげに自嘲の言葉を述べる夫の顔を、セレーネは精一杯抱きしめる。

「いいえ、ウォルフ様‥‥私は‥‥そんな優しいあなただから、いつまで経っても恋しく‥‥愛おしいのです。だから、もうご自分を責めないでください」

 その告白に、ウォルフガングはうつむいた。妻の顔すら見ることができない。

 だが、セレーネの言葉を悲痛な面持ちで静かに聞いている。その様子が、セレーネにとってもつらく悲しかった。夫は受け止められずに苦しんでいる。

「今、こうしてあなたに再び出逢えて‥‥こんなに喜びに満たされてるのですよ。もしも過去を責められるとしたら、それはウォルフ様ではなくこの私。そんなあなたを1人残して死んでしまった‥‥私の方なのです」

「それは‥‥」

「いいえ、違いませんとも。私にだってあなたへの後悔がずっとありました。あなたの嘆きに何もしてあげられなかった」

 ウォルフガングは動揺を隠せない表情で妻を凝視している。

「どれほどあなたが戦いに傷つき倒れても、癒してもあげられず、その苦痛を慰めることすら許されない。それは、お互いにどうしようもなかったのです。救いたい人ほど救えない苦悩は、私も‥‥同じなのです」

 セレーネの指先が、騎士の左頬に深く刻まれたデビルの爪痕をなぞる。幼いフレイア姫を護ろうとして受けた傷跡。

「‥‥そう‥‥だろうか」

「あなたが罪を負うなら、私も負わねばなりません。あなたは病弱だった‥‥騎士の妻として役目を果たしきれなかった私を‥‥お許しには‥‥なれませんか?」

 セレーネの語尾がほんの少しだけ震えていた。

「そんな事はない! そなたを責めるなど‥‥」

 ウォルフガングは困惑しながらも強く否定した。

「セレーネは‥‥一介の騎士たる私にはもったいないくらいよく出来た女だ‥‥役目は十分過ぎるほど果たしてくれていた、そんな‥‥」

「私も同じなのです、ウォルフ様‥‥私もあなたを罪人だなんて思った事などないわ。だから、あなたも私に償うべきものなんて何もないのです」

「すまない‥‥そなたを傷つけるつもりは無かったんだ‥‥そのような事を言わせるべきでは無かった。そんなつもりでは‥‥私は‥‥私は‥‥」

 ウォルフガングは狼狽を隠せず、苦悩に顔を歪める。

「あなた‥‥ごめんなさい。私もあなたを傷つけるつもりは無いのです。私のために、ウォルフ様の苦しむ姿を見たくない‥‥ただ、それだけを想い続けて‥‥」

 苦しい表情のまま、恐る恐る妻に手を伸ばすウォルフガング。

 その手を取り、丘の上を指差しながらセレーネは誘う。

「ねぇ‥‥ウォルフ様。きっと、皆さん‥‥あなたが帰ってくるのを待っておられますよ。そろそろ、行きませんか?」

 しかし、ウォルフガングは引かれる手に動かされない。


 遠いあの日、同じ景色をシグルドと共に眺めながら、騎士道の本質を説いてくれた言葉を思い出す。ウォルフガングが初めて教わった騎士道の原点となる教え。


『私は強くない。だが、騎士は守るべき者の為に強くなる。私はこのレーヴァと、民と、そして世界を愛しいと思う。その心が力になる』


 死して一層、心に響いたシグルドの言葉。

 騎士として姿勢を正し、身を引き締められる思いをさせられるこの言葉を、今になって改めて噛み締めていた。

「騎士として懸命に生きてきたつもりであったのに、私は‥‥愛する者、守るべき者のために強く‥‥強く生きてこれたのだろうか」

 騎士はどうしても己を許せない。

 特にレーヴァの災厄で主君や姫を守れなかった事は、それまでの騎士としての誇りを打ち砕いてしまうのに十分だった。

 シグルドを失ってからエリシオンの最後の決戦にて斃れるまで、打ちひしがれながらもレーヴァの為に何も考えずがむしゃらに突き進んで来たが、こうして静かな気持ちで振り返ると失ったものの大きさに改めて気付かされる。

 そもそもウォルフガングが、騎士道に強く固執するようになったのもセレーネを失ってからである。

 レーヴァの黒狼は、決して孤独ではなかった。しかし、人々の中にいて孤高であった。

 だからこそ、主君に、主家への忠節を貫き民を守りたかった。

 男にとって唯一出来る、守れなかった妻への罪滅ぼしでもあったのだ。

 それなのに‥‥。

「私は‥‥」

 うつむくウォルフガングの肩に妻の手がそっと触れた。

 セレーネの感触に、こわばっていた身体から硬さが取れる気がした。

 彼女に触れられる心地良さ。レーヴァの災厄以来、長らく荒んだ心持ちでいる事が多かったウォルフガングに、忘れていた安らぎの気持ちが湧いてくる。

「それでしたら‥‥あなたがもう少しだけご自身を赦せるまで‥‥いえ、せめて気持ちが納得するまで、しばらくここで過ごしませんか?」

 ウォルフガングは驚いたような表情で妻を見返す。

「‥‥良いのか?」

 戦いばかりの人生を歩んできた狼の頑な心が‥‥ほんの少し動いた、ように感じられた。

 セレーネは微笑んで目を丸くしてる夫をなだめる。

「宜しいではありませんか。だって私たちが一緒に暮らせたのは‥‥たったの3年だったのですよ。せっかく2人きりになれたのです。少しくらいゆっくり休んでいきましょうよ、誰もいません、邪魔もされないし‥‥時間はたくさんあるんです」

 セレーネは根気よく語りかける。よじれてもつれて絡んで身動きが取れなくなった心の紐を解いていくように、不器用な夫に寄り添いたかった。

「これからはあなたは1人じゃありません」

 鍛練に明け暮れた男は、何十年も剣を振るい続けて皮膚が固くなり、関節が変形した傷だらけの己の掌を見つめた。

「そうか、それも良いな‥‥私は戦いに、少々疲れてしまった‥‥のかもしれぬ」

 ふと、ローブ姿の妻が薄着に見えて気になった。

 ウォルフガングは外套を脱ぐと、そっとセレーネの肩にかけて抱き寄せた。

 2人で身を寄せあう。

「別れた頃のままのそなたと違い、私は‥‥見ての通りだ。すっかり歳を食ってしまった」

 毎日欠かさず出かけた外回りの巡回任務で、赤銅色の肌はさらに日に()け、風雪に晒されて荒れていたし、漆黒だった髪や髭の一部は白髪(しらが)が目立ち灰色になりつつあった。

 しかし、狼と呼ばれていた野性味のある精悍さだけは損なわれていない。

「いいえ、あの頃に戻ったみたい。確かにあなたは少し歳を取られましたけど‥‥ふふ、今のウォルフ様も素敵ですよ」

 ウォルフガングは困ったような表情で、照れ臭そうにしている。

「怖がられたり、気難(きむずか)しいとは‥‥言われていた気はしたが‥‥私に向かってそのように言うのは、後にも先にもお前だけだったよ‥‥」

 苦笑するウォルフガング。セレーネの前では幾分か話す事ができるが、元よりウォルフガングは談笑する事などなかなか出来ない。しかし、セレーネは生前から寡黙で無愛想な夫しか話し相手がいないのにいつも優しく笑っていた。

 それは時を超えて再会を果たした今も変わらない。まるでずっとそのように一緒に暮らしてきたかのように、夫の隣で楽しそうにしている。


「だって‥‥ウォルフ様があんなに甘いものが好きだなんて、思ってませんでしたよ」

 そう言われて一瞬、セレーネの焼いたケーキの懐かしい香りを思い出す。

 甘いものが好きだと知られてからは、何かと理由をつけてはケーキなど焼き菓子を作ってくれていた。

 記憶の彼方に置いてきた穏やかで平和な日々。

「‥‥そんなことも、あったな‥‥」

 セレーネはささやかな思い出を語る。2人が過ごした時間は夫婦生活というには長い物ではなかったかもしれない。しかし、濃密な時間だった。

 多くを語らないウォルフガングにとっても、宝物のように大事に胸の奥底に仕舞い込んできた思い出。

 セレーネのと別れの後も、ずっとそれを抱きしめて過ごしてきた。

 楽しそうに語る妻の言葉に、相槌(あいづち)を返しながら聞き入る。


 セレーネは懐かしさを噛みしめながら、怪我ばかりしては帰ってきた頑固者な夫に手を焼いた思い出を振り返る。そして、今もデビルとの戦いの末に‥‥。

 ここにやってきた際の、息を呑むような夫の凄惨な姿は思い出すことすら恐ろしい。

「あなたは、私の元に帰ってくる時は本当にいつも傷だらけですね」

 ウォルフガングはびくりと肩をすくめる。

「‥‥す‥‥すまなかった‥‥浅傷(あさで)に済ませられなくて」

 かつての心配をかけては叱られていた頃を思い出したのか、妻と視線を合わさずそわそわしている。

 若い頃ならともかく、壮年期の男のそのような様子にくすくすと笑いながら、セレーネは当時のウォルフガングの姿に重ねて、何一つ変わらない所作(しょさ)を懐かしむ。

 見た目だけで言うなら父娘ほど離れて見える2人の姿だが、関係性は真逆のようだ。

「わ、笑わないでくれ‥‥デビルに敗れたことは、騎士として恥じているんだ」

 強い男は傷など負わないものだ、と自省するウォルフガング。

 まるで子供のように拗ねている夫をなだめるように、セレーネは優しく語りかける。

「まぁ、ウォルフ様。そう言う意味じゃありませんよ‥‥」

 そのように言われてしまうと、ウォルフガングは困ったように視線を泳がせる。

「ううむ‥‥そ、そうか」

「ええ、私は再び巡り逢えたことが‥‥とても嬉しいのです」

 微笑んで返されると、不器用な騎士は口籠(くちご)もって戸惑う。何かを言いたそうにしているが、言葉にならない呻き声を漏らしている。


「‥‥?」

 ふと、何かに気づいたようにウォルフガングが懐を探ると、手紙が出てきた。

 それは、セレーネが遺してくれた直筆の手紙。

 手紙には一言だけ『ありがとう』と書かれている彼女からの遺書。

「あ‥‥」

 確かに、聖王都エリシオンでの最後の戦いに赴く時に懐に忍ばせてはいたが‥‥こんなところにまで持って来ていたとは。己が執着の根源に苦笑する。

 だが、同時に失くしていなくて良かった、と安堵する。

 このような有り様になっても、妻からの手紙が大切な宝物であることには違いない。

 セレーネを失った直後、託された手紙をシグルドから受け取ったあの頃は。妻の遺書に書かれていた一言は謎かけのようで、まるで理解が及ばなかった。

 いや、今もあまり変わりはないのかも知れない。セレーネの気持ちを掴むことは‥‥再び巡り逢うことが叶った今でも、未だ難しい。

 だが、『ありがとう』と書き遺した彼女の心持ちは、今ならわかるような気がした。

 そして、その手紙は変わらずウォルフガングの心を慰め続けてくれている。

「‥‥‥‥」

 ほんの少しだけ、取り出した手紙を見やると、手紙を開くことなく懐にそっと戻した。


 夫の様子にセレーネも気がついたが、何も言わなかった。

 セレーネもまた、たった一度だけもらったウォルフガングからの手紙を大事に持ち続けていた。

 何故、今際の際にすら書架の奥に隠したままになっていた手紙が自分の手元にあったのか、セレーネ自身にもわからない。

 死後の長い時間、彼女なりに色々な後悔や悲しみに囚われていた時期があった。そこから落ち着きを取り戻し、自分の素直な気持ちに立ち直った時。いつの間にかそれを手にしていた。

 夫から送られた彼女を求める手紙そのものが、遺してきたもの、後悔の象徴なのかも知れない。

 しかし、どう言う訳か。

 ウォルフガングはこちらに来てすぐだと言うのに、既に手紙を持っている。

 果たして‥‥あのような無惨な死に様に対して、後悔や悲しみは無かったのだろうか。

 いや、あったはず。むしろ夫はそれに囚われていたほどに。

 しかし、ウォルフガングの贖罪の根源は、早世してしまった伴侶を幸せにしてやれなかったと言う男としての長年の後悔。そして、あの“レーヴァの災厄”でデビルから主君とレーヴァの民を守り抜くと言う騎士としての役目を果たしきれなかったことだった。

 それは、いずれもどうにもならない出来事だった。

 セレーネの生来の病弱さも、デビルの奇襲が英傑シグルドをもってしても、どうにもならなかったように。しかし、それでも、諦められないのがウォルフガングと言う男だ。

 後悔や悲しみがあったとしても、ウォルフガングのそれは我が身のことではない。

 セレーネ自身は‥‥病に倒れて、たくさんのものを遺して逝ってしまった自分の中の後悔を思い出す。ウォルフガングのような諦めの悪さは無かったが、もどかしさはあった。幼い頃から長くは生きられないと言われ続けて、信仰に委ねてすべてを諦めていた頃には忘れていた感情の揺らめき。

 それを、死の間際になって。

 突然目の前に現れたウォルフガングによって目覚めさせられた。

 生きていたい、と言う生命として当たり前で素朴な感情。

 ウォルフガングと共に過ごす日々を重ねるごとに、生に対する希望を知ってしまった。

 そこから生まれた“恐れ”という名の怪物はセレーネを徐々に呑み込もうとしていた。恐怖は、時に人を歪めてしまう。しかし、それを留まらせていたのも、またウォルフガングの存在であった。

 最後の戦いの時にすら、肌身離さず携えていたセレーネの手紙はウォルフガングにとっての贖罪と後悔の象徴でもあり、騎士道を貫く男の‥‥最後の心の支えでもあったように。

 セレーネも理由は違えど、ウォルフガングからの手紙は希望の残り火‥‥のようなものだった。


『ウォルフ様はなにも悪くはありませんわ。悪いのは私。こんなにウォルフ様を悲しませてしまって‥‥あなたを置いていってしまうなんて‥‥』


 今際の際に、自分が残した言葉を思い出すたびに苦しんでいた。

 それが、セレーネの未練であり執着。

 言い知れぬ憂惧(ゆうぐ)にかすかに震えていると、セレーネの白い手に分厚いウォルフガングの手が重なる。

「私は‥‥お前に、心配と苦労ばかりをかけた」

 いたわりの言葉をかけるウォルフガング。

「本当に、最後まで心配が尽きませんでしたね‥‥それでも、私は十分に幸せでしたよ」

 ほんの少し困ったような笑顔で、無骨者の男をなだめる。

 何とか夫の魂を縛り付け、苦しめる贖罪の心を慰めようと気負っていたセレーネだったが、彼女もまた後悔に縛られていたと言える。


 それからも、他愛のない会話をセレーネは続けた。

 ウォルフガングは彼女の隣で静かに頷いているに過ぎない。

 しかし、そうしているうちに、ウォルフガングは忘れかけていた暖かい感情を取り戻しつつある気がしてきた。その眼から哀しい影が薄れていく。人生のほとんどを剣の道で、戦いの中で苦痛と苦難を乗り越えてきた男は、ようやく穏やかな時間を取り戻していた。


 見慣れたレーヴァの日暮れ。

 いつの間にか、夕陽は深く広大な森林の奥へ沈みかけている。

「こうしてあなたと居られるのなら、私は本当にもう‥‥何もいらない」

 セレーネはしみじみとそう語る。

「私、今とても幸せです。病弱な身体から解放されて悩まされないのです。その上、こんなに‥‥生涯を賭けて想ってくれるウォルフ様が、私の元に戻られて‥‥これ以上、何を天使様に望むと言うのでしょうか」

 言われてみれば、確かにセレーネは実に清々(すがすが)しく健康的な姿をしている。

 (はかな)さの面影は残しているものの、病に疲れていたあの頃とは全く違う。

 彼女からそう言われるまで、気づけなかった。

「ね、ウォルフ様‥‥?」

 妻はにっこりと笑って見せた。

 あのエルバの天使祭での道のりで、初めて愛称で名を呼んでくれた時のように。

 同時に、あの頃の気持ちも甦る。なんの後悔も悲しみもなく、彼女の笑顔を純粋に受け止める事ができた、23年前の出会いの夏の日。

「あなた、おかえりなさい」

 そう言ったセレーネの、美しさにあらためて見惚れる。

 ウォルフガングは釘付けになった。

「あ、ああ‥‥ただいま」

 そして、ウォルフガングは照れたような表情を見せてうなづいた。

「私の‥‥もう騎士としての役目は、騎士道は終わったのだな」

 寂しそうに再び剣を握り続けた、己の手を見た。

 主君シグルドと共に、己が人生を賭けてきた騎士道。

 結局、この手は何を掴み、(な、)して来たのだろうか。ただ言えることは、今こうしてセレーネが隣にいてくれる事、そしてその笑顔を傍らに取り戻せた事。

「そなたの言うように、己を責めるのは辞めよう‥‥もうすべて終わった事だ」

 全てに納得したわけではないが、妻を苦しめるだけの贖罪に何の意味も見出せないと感じていた。いや、心のどこかではとっくにわかっていたのだろう。

 だが、向き合う勇気が持てなかった。

 臆病な己の心を見つめ直すことを恐れていたのだ、と。

 騎士道にすがり、逃げていた自身を自嘲(じちょう)する。

 結婚して2人で暮らし始めたあの頃、その日の仕事を終えて、家に戻り腰から剣を降ろした後は、セレーネの言う事を聞くのが(なら)わしであった、と思い返した。

 身体を投げ出すように、彼女に任せる唯一無二の心穏やかになれる時間。

 あの頃のように妻に従うしかない。デビルとの戦いは終わり、世に平和が戻り、死をもってして騎士の剣は‥‥降ろされたのだ。

 主君に剣の誓いと共に捧げたその身も、もう戦いの果てに朽ちた。


「セレーネ‥‥そなたに出逢えて、幸せだった」

 2人で生活していたあの頃のまま、変わらず微笑んでみせるセレーネ。

「私もです、あなた‥‥」

 セレーネの前に初めて出会ったあの日と同じ、夫の眼差しがあった。

「私に安らぎを与えてくれたのは、お前だけだった」

 レーヴァの沈みゆく夕陽の残照(ざんしょう)に浮かびあがる2人の姿。

「ああ、日々の鍛練と、デビルとの戦いも、騎士道に捧げた人生も、すべては泡沫(うたかた)の夢‥‥だったのかもしれぬ」

 独り言のように訥々(とつとつ)と語るウォルフガングを見ていると、忘れかけていた思い出がセレーネの中からも次々と甦る。

 それは初対面の時。畏怖されるほど厳しく鋭い眼光を持ちながらも、その瞳の奥は慈愛に満ちた光を宿していた暖かく心優しい、黒い狼と呼ばれていた夫。

「だが、まだ1つだけ‥‥そなたには、心残りがある」

「なん‥‥でしょうか‥‥?」

 セレーネは夫からの唐突な打ち明けに少し驚いた。

「死の床で別れたあの時、臆病者の私は‥‥そなたを失うことを恐れるあまりに、死を認めることができず、あの時かけるべき言葉を最後まで言えなかったのだ」

 セレーネを亡くしてから歳月が経つにつれ、戦いに倒れて傷つくたびに、暗い悲哀と孤独の影に染まった荒んだ目に変わっていったウォルフガング。

 セレーネはそれを見るのがつらくて悲しかったが、今やその瞳はかつての穏やかで鷹揚(おうよう)な輝きを取り戻している。

「私は‥‥結局、人に幸せを与えられる人間ではなかった。誰一人守れなかった。何よりも護りたいと強く願ったそなたを護れずに、最も犠牲を強いてしまった」

 心の揺らぎを瞳に残しつつも、その現実を飲み込んでいる。

 露悪的に自らの人生を振り返るウォルフガング。

「それでも尚‥‥身勝手と知りつつも、私の心はそなたを求めている。未だに恋焦がれているんだ。ずっと寂しかった。こんな歳にもなって酷く‥‥情けないのだが、私は‥‥」

 苦しげに、呻くような告白を続けるウォルフガング。

 出会った頃から変わらない狼の心は、ただ一途に妻に捧げられていた。

「セレーネ‥‥」

 意を決したように立ち上がると、ウォルフガングはセレーネの手を取りその場で立たせる。唐突のことで驚くセレーネに穏やかな眼差しを向ける。

 そうして、スッと彼女の目の前で黒狼はひざまづいた。

 主君への忠節の誓いを立てる時のように、セレーネに頭を垂れる。

「ウォルフ様‥‥」

 逞しい壮年の騎士が、若い姿のままの妻に片膝をついている。

 20年の歳月、互いを隔ててきた姿。

「添い遂げてくれて‥‥ありがとう、セレーネ。頼む、これからも‥‥私と一緒にいて欲しい。そなたでなくては駄目なんだ‥‥お願いだ」

 ようやくウォルフガングは妻に感謝を伝えると、真っ直ぐで不器用な狼は改めて妻に愛を()うた。ウォルフガングは顔を上げて妻を見据える。

 その真摯な瞳から、セレーネは視線を外せない。

「ウォルフ様‥‥私も‥‥私もずっとお(した)いしております。どうか、これからもお側に置いてください‥‥だから、もう‥‥は、離さないで‥‥」

 セレーネも迷いのない言葉で夫に応える。その声は震えていた。

 ウォルフガングは力強くうなづいた。愛おしげに妻の左手を取って見せた。

「‥‥二度と離さない、離すものか‥‥そなたも‥‥私を、もう置いて行かないでくれ」

 その左手にはめられてる見覚えのある指輪を見つめると、そっと手の甲に口づけを落とす。死しても彼女の指から外されることがない誓いの証。

 歳月が2人を隔てようとも、いつまでも変わらない互いの想い。

「ああ‥‥あなた‥‥」

 セレーネは感極まった様子で吐息のような声を漏らす。

 ウォルフガングはゆっくりと立ち上がると、妻の手を優しく握る。

「ありがとう‥‥セレーネ‥‥」

 大切な人を護れなかった贖罪の長い旅路から、騎士の魂は解放された。

 己の罪を、自らの意志で手放すことが出来た。

 狼は、長く苦しい彷徨の末に。

 己のつがいの元へ、愛しい人の許へ再び還ることが遂に叶った。


 ウォルフガングは妻の顔を改めて見る。

 彼女の気高い凛とした姿、綺麗な青と緑の間の様な澄んだ瞳。初めて逢った領主館の執務室の、あの日と同じような胸の苦しさが湧き上がる。

 ああ、妻は‥‥セレーネは、こんなにも美しい人だったのか。

 彼女をありのままに、真っ直ぐ見ることすら忘れていた。

 セレーネの柔らかい頬に、己の傷だらけの固く無骨な手を添える。

 そして、贖罪に囚われて伝えられなかった言葉を、妻の耳元に顔を寄せるとウォルフガングは低く響く声でゆっくりと、噛み締めるように囁いた。

「‥‥愛してる」

 その言葉に、セレーネの瞳は堰を切ったように涙で溢れそうになる。

 ウォルフガングの一言に込められた慰めといたわりと深い愛情が、身構えて気負っていたセレーネの心に暖かく沁み込んで、懐かしさと共に溶かされてゆく。

 こみ上げてくる感情を抑えきれない。

 言葉にして例えようのない、彼女の心の震え。深い疼痛と湧き上がる歓喜の揺らぎ。

 声に出せば嗚咽になりそうで。

 長い、長い歳月を、寂しさに耐え忍んだのはウォルフガングだけではない。

 黒狼は、彼女にしか見せなかったような優しい眼差しと微笑みを向ける。

 ウォルフガングは戸惑いなく、そっとセレーネに唇を重ねる。

 そして、ただただ愛おしそうに妻を抱きしめた。

 夫の強い腕からは彼女を護りたいと言う気持ちが伝わってくる。

 白く細いたおやかな手が、広い背中に回される。

 すがりつくようにウォルフガングの厚い身体を掴み、セレーネも抱擁を返す。

 静かに目を閉じたセレーネの頬をゆっくりと光るものが伝う。

 もう、大切な人を二度と失うまいとする、誓いを交わすような深く長い口づけ。


 やがて陽は地平の彼方に沈み、夕闇の静寂が2人を包み込んでいった。



【終幕】


■ウォルフガング騎士道物語、おしまい!

わずかでも楽しんでいただけたら幸いです。

このエピソードで最後のセリフをセレーネに向けて言わせる為だけに全編組んだ全体プロット。ゲーム本編の遺体が道端に転がされてる虚しい死亡ENDの後味を覆そうと、結果はそのままに、死んだウォルフに無理矢理ハッピーエンドを掴ませる為に書いてみた小説です。

ゲームプレイ当時、どこかで心残りがあったのも確か。書いてるうちにウォルフよりセレーネの方が報われて欲しい気持ちが強くなったかも。

 シグルドの最後のセリフは、生前からウォルフガングにかけたいと思いつつ言葉にして伝えられなかったセリフ‥‥と言う設定です。

ウォルフの贖罪を取り払うくらい、もう許されていいよね?ゲーム終了から20年以上が経過した2021年(執筆時点)。ウォルフと同じ時間を遠回りしたかもしれない。でも、プレイ直後ではなく創作をコツコツ続けてた今だからこそ書けたと思う。一部、深紅蒼マスターの本編とシーンが重なる場面は、あえてマスターの書いてくれたセリフや表現を尊重して、重視して引用して使用しています。今読み返すと、ゲーム終了後の自分の歩んできた人生そのものかもしれない。けど、ロールプレイしてるんだから当たり前と言えば当たり前かな(笑)。

次回、エピローグ。


※ウォルフ46歳

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