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フォードの当主

鎮魂歌レクイエムです。


その後も私のバースデーパーティは続く。

さすがにカルロス王子は居づらくなったのか、あるいは元から長居するつもりはなかったのか。分からないけれど、ブロンドの短髪を雑に触りながら護衛たちと離れて行ったのが見えた。同じ敷地内に宮殿があるから、馬車は使わないみたいだ。

護衛の人たちはみんな大柄な大人なのに、主人であるカルロス王子の顔を見ると怯えたような表情をした。

私からはカルロス王子の表情は見えないけれど、多分、貴族たちから離れた途端に鬼の形相みたいな顔で怒りをあらわにしたんだろう。


「お誕生日おめでとう、エリザベス様」


「ありがとうございます、メル様」


カルロス王子の方をぼうっと見ていると、いつの間にか目の前にメル・フォードが立っていた。フォード家もまた三大歌姫の一つで、彼女は六代目当主に当たる。

正直なところ好きではない。なんというか、幼い頃から苦手なのだ。意地悪なおばさまの雰囲気を醸し出している。

それに、フォード家の塔からはよく動物の鳴き声が響き渡っている。すごく不気味で怖いから、塔には近づかないようにしているくらいだ。

さらには、嫌っているのは何も私だけじゃない。利益のためならなんだってやるというのがフォード家の裏の評判ということもあって、そもそもフレイ家とは馬が合わないのだ。


ちなみにもう一つの三大歌姫はクロウ家だ。最も長い歴史を持つクロウ家だけれど、このパーティには来ていないみたい。別に、私が嫌われているんじゃない。社交界の場に姿を現さないというのが特徴なのだ。

なんだかよく分からない研究に遥か昔から没頭しているとの噂がある。

まあ、フォード家よりは良いところだ。

ただ謎なだけで、悪影響はないのだから。


「もう十四歳だなんて、早いのねぇ」


嫌に語尾の伸びた、媚びるような口調で言われる。

彼女がこんなふうに話すのは大体、何かお願い事がある時か、あるいは何か自慢したいか揶揄(からか)いたい時だけ。

そして多分今回は………。


「それにしても、カルロス王子の結婚を断るだなんてねぇ」


やっぱり、得意げになっているんだ。

王子の結婚を振ったら、三大歌姫の地位が下がるわよ、って。


「結婚は好きな人とするべきだけれど、王子を振ってしまったら国王との関係が悪化してしまうわよ? そうなったら、国王に助言をして力になるっていう歌姫の立場もどうなるか……」


あくまで心配しているのよ、みたいな態度が気に食わない。

これだったら、面と向かって「あなたのおかげでフォード家がフレイ家よりも王族に気に入られそうね」って言ってくれた方がまだよっぽどマシだ。


「あら、ごめんなさいね。あたし心配で」


私が黙ってしまったのを、不安がっていると思ったのだろう。実際はただ心の中で彼女に対する愚痴を言っていただけなのだけれど。随分と脳内が都合よく解釈する人のようだ。

……いけない、彼女相手だと口が悪くなっちゃう。


と、ちょうどそこへ兄がやって来た。ナイスタイミングだ。


「エリザベス! 誕生日おめでとう」


「ありがとう、ルカお兄様!」


ルカお兄様はちょっとばかりシスコンだ。でも悪い気はしない。満開の笑顔で私の頭を撫でてくれる。たった二つ年上なだけなのに、ちゃんと兄って感じがするのがいつも不思議だ。


──私も十六歳になったら、こんなふうに大人っぽくなるのかしら。


そんな兄はメル・フォードの顔を見ると、一気に不機嫌そうになった。


「お久しぶりです、メル様」


「久しぶりね、ルカ様」


そしてしばらく見つめ合った後、先に去ったのはメル様だった。


「それじゃあ、あたしはもう行くわ。なんだか嫌われているみたいだからね?」


軽口を叩いた後にバイバイ、と手を振って彼女は旦那のところへ行くとそのまま自分の塔へと戻って行った。


「エリザベス、あの人に何かされたか?」


「ううん、平気よ」


ルカお兄様は私の両肩を優しく掴んで、しゃがんだ。そうすると、背の高いルカお兄様とはちょうど目線が合う。


「まさか、王子に結婚を申し込まれるなんて……」


「大丈夫よ、ルカお兄様」


心配させたくないから、カルロス王子が最後に言った言葉のことは秘密にしておいた。

シスコンなお兄様はそんなことを聞いたら、「その腐った根性を俺が叩きのめしてやる」とかなんとか言って宮殿に行ってしまいそうだから。

喧嘩になったら、歌姫の血を持つ男として肉体的に強いお兄様が勝つ。そうなればカルロス王子は本当に心を折られてしまうはず。


「エリザベス、何かあったら俺に言うんだぞ」


ルカお兄様のサファイアと私のアクアマリンの視線が交差した。


「えぇ、もちろん!」


私がしっかり頷いたのを見て、ルカお兄様は「母さんたちのところに行くぞ」と手を引いてくれた。

二人の元へ行く途中、何人もの貴族の人に声をかけられて、お祝いの言葉をもらった。今日のパーティの主役は私なのだと思うと嬉しかった。


「来年も誕生日楽しみだなぁ」


「はは、随分と気が早いな」


ルカお兄様とそんなふうに話す。その様子は、周りから見れば優しい兄と可愛い妹で、実際そうだった。


──カルロス王子が何をしたって、きっと意味ないわ。


そう思えるくらい、手を繋いだルカお兄様への信頼は厚かった。


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