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恐怖の演技…らしい

「おねぇちゃん。これってなぁに?」

「んー?知らな…」

女の悲鳴が響き渡った。

「裕介、これ何処で見つけたの!?それとも、それとも!!」

「落ちてたんだよ?だから持ってきた」

「あぁ、もうどうしたら良いの!?とりあえずお母さんたちに電話しなきゃ…!」

「ねぇおねぇちゃん。この人の顔、わかんない」

「え????」

「このピアス、お母さんのと一緒だね」

 人は嘘でできている。何で何だろうね。そんな人が嘘を嫌う理由って。

「裕介…」

そう言っておねぇちゃんは慌てて家を出て行った。

「待って、おねぇちゃん!!!!」

「おねぇちゃん、おねぇちゃんってば!!!!!!!!!!」

「来ないで!!アンタ頭おかしい!!!」

そう言われて、足が止まった。なんだぁ。おねぇちゃんもお母さんと一緒だったんだ。

「…………おねぇちゃん…僕、売られそうになってたんだよ???…なのに何で?????」

おかしい。絶対にオカシイ。なんで?僕が言葉足らずだったから??でも僕待って、って言ったよ????喋るの下手なのに、言ったのに!!!

「なんで、みんなは僕から離れていくの??」

寒い、寒いよ。おねぇちゃん。

 …助けてくれない。戻ってきてくれない。

「あれ…?俺、なんでこんなにも執着してるんだ??」

気づいたらね、目の前がお星様でいっぱいだった。

「いち、にぃ、さん、よん、ごぉ、ろろぉく、しぃち、はぁち、きゅぅう、じゅぅう、えーっと…わかんないや数えきれない」

きれい。ふわふわする。

「ねぇ、そこの君」

「んぅ?」

お巡りさん?

「こんな時に一人だったら危ないよ」

「そぉかな」

「そうだよ。だから一緒に来よう」

「ダメだよ。知らない人にはついて行っちゃいけないの」

「お菓子あるよ?」

「それはなんだっけ、誘い文句っておねぇちゃんが……………おねぇちゃん??????????」

おねぇちゃんなんて、いたっけ。家族って、

「いたっけ」

 カーット!!!!!

「ありがとうございました」

私はお辞儀をした。

「いやぁ、君本当に凄いなぁ!!」

そう言って「監督」は、私の頭を撫でた。

「ときどきのアドリブ最高だよ!お母さんが考えてくれたのかい?」

「いえ、自分で…何となく」

「はぁぁぁぁ、君は本当に、演技の神に愛されているよ」

「ありがとうございます?」

「はは、そういう大人びてるところも、いいよねぇ」

どうやら、私はこの監督に気に入られてしまったらしい。

「いやぁ、流石!私たちの小役時代よりうまいんじゃない?」

「確実にそうだろうね」

「時にこういうキャラの時が一番良さが引き立つよね」

「でも前のやつ、良かっただろう。とても可愛かった」

両親が拍手をしながら近づいてきた。

「これはまた、あの子に嫉妬されちゃうかもね」

「あぁ…海ちゃんか」

 あれはちょうど1ヶ月前の撮影のこと。そのドラマは、離婚経験があり、また子供が一人いる、という男女が惹かれあい、結婚するというストーリーだった。私は女性の方の子供として出演した。そしてその「海ちゃん」というのは相手側の子供だ。

「はじめまして、悠です」

「は、じめまして…菜与です」

「よろしくお願いします、ではこれで」

 僕は甘えてはいけない。お母さんが泣いてしまうから。だから、常に良い成績を取り続け、友達との活動をそこそこにしてトラブルを防ぎ、そして運動もきちんとしなければならない。そうしなければお母さんは泣いてしまう。でも僕が分からないことが、一つ、ある。それは僕が100点を取ると、とても苦しそうな顔になることだ。

「あの!」

「なんです」

「悠!」

「は?呼び捨てしないでもらえます?烏滸がましい。あなた、勘違いしているようですけど」

鬱陶しい。

「僕とあなたは他人ですよ」

カーット!!!!!!

「ありがとうございました」

「はぁ、最後の演技特によかったよ!目が良いくらいに大きく開いててよかった!」

「ありがとうございます」

「本当に7歳?すごいなぁ…」

「!」

 少し心臓が跳ねた。

「ちょっと、さっきのやつ、どうしたの!」

「何です?」

「目がぐわっっっって開いてたやつ」

「??ただ目を開いただけですが?」

「だから、ぐわっってさ!」

「???」

「あぁ…飛逹くん。あれ普通はできないんだよ。あそこまで目を開くのは」

「はぁ」

戦闘中に視野を少し広げたい時にやっていただけなのだが。

「次は絶対に勝つから!!」

 これが「海ちゃん」とのエピソードである。

「さてと、明日は学校でしょ。帰ろうね」

「そうだね、ちょっと早いけど帰っても大丈夫」

「ありがとうございました」

お母さんは鼻歌を歌いながら車のキーをブンブン振り回している。

「飛逹ー、今日はお前の好きな寿司を出前で取っといたからねー!」

「うん。ありがとう。…お母さんが食べたかっただけじゃ」

「飛逹。そういうのは言っちゃいけないお約束なんだ」

「わかった。お父さん」

言ってはいけないらしい。やはり難しいな。しかしそんな俺でもやっと、現代の日本語や、文化が身についてきたところだ。このまま続けていきたい。

「早くー、車、出発させちゃうよー」

「わ、わかったよお母さん!」

もう少し待ってくれてもよかったのでは、と思ってしまった。

 ………ここでもう少し引き伸ばしていたら運命は変わっていたのかもしれない。

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