12 王子様は甘えん坊
うららかな、学園の裏庭で。
「ムッ! ムッ! ムグ!」
私はランチボックスを抱え込んで、サンドイッチをこれでもかと、口に詰め込みました。私の大好きな、ふわふわの卵、ハムにピクルス!好物だらけのサンドイッチです。
隣に座るリフルお姉さまは、嬉しそうに私の口をナプキンで拭いてくださいます。
「こらこら、ルナ? そんなに詰め込んだら、咽せてしまいますよ?」
「ふぁっれ、ほいひいっれ」
私はゴクンと飲み込んで、瞳を輝かせました。
「お姉さまが作ってくださった、久しぶりのランチボックスですもの! 美味しくて、嬉しくて!」
私とお姉さまは学園の裏庭で、姉妹の仲良しランチに興じておりました。互いに忙しい日々が続いて、このような時間はしばらくぶりです。
「ルナは本当に凄い子だわ。一流の、世界一の夢使いだわ」
「夢使いって、他にもいるのですか?」
「聞いたことがないから、唯一無二ね」
怒涛の褒め言葉に、私はご満悦です。
お姉さまは身震いしながら、感嘆してらっしゃいます。
「人の夢に取り憑いた悪魔を、叩き潰して現実の紙に封印するなんて……凄い発想だわ」
「お姉さまが昔くださった、押し花がヒントになりましたよ?」
「まあぁ~、なんて素敵なの!」
本当は、巨大化して無慈悲に暴れる大聖女のイメージも、豪胆なお姉さまがヒントになっているのですが、これは黙っておきました。
お姉さまは溜まった妹愛を発散するように、私を抱きしめてグリグリと頭を撫でてくださります。うふふ、うへへ、とふたりで笑い合ううちに、後ろに誰かの気配がしました。
振り返って見ると、そこにはアンディ王子殿下が佇んでらっしゃいました。相変わらず不良風に着崩した制服姿で、色っぽくございます。王子様は中庭を訪れたものの、密度の高い姉妹愛を目の当たりにして、なかなかお声掛けができなかったようです。
「あら。アンディ王子。何かご用かしら?」
お姉さまの塩対応に王子様は苦笑いして、紙袋から可愛くラッピングされた小さなタルトを取り出すと、ひとつずつ、私たちにくださいました。
「宮廷のシェフが、聖女様のおふたりに召し上がって頂きたいと。季節の果物のタルトです」
「あ、あら。まあぁ」
甘い物に目がないお姉さまは、急に絆されました。
ラッピングを解こうとしているうちに、校舎の方から教師に呼ばれて、お姉さまはタルトを持ったまま、立ち上がりました。
「いけない。実習に行かなければ。ルナ? この男に変なことをされたら、すぐに私に言うのですよ?」
最後に念押しをして、お姉さまは校舎へ走って行かれました。
アンディ王子殿下はそれを見届けて、やっと私の隣に座りました。
「は~、悪魔より怖いな。ルナのお姉さまは」
「うふふ。最強の大聖女様ですから」
アンディ王子殿下はゴロン、と芝生に寝転んで、私の膝の上に頭を乗せました。膝枕から、私がタルトを頬張っている顔を見上げています。
「こんなこと、お姉さまの前じゃできないなぁ」
ゴロゴロと太ももを堪能して、お腹に顔を埋めています。
私はちびっこ王子様を思い出して微笑ましくなり、さらさらと金色の髪を撫でました。
「ハーレムは、どうされたのです?」
「纏わり付くなと怒鳴ったら、散った」
「こ、こわぁ。不良ですね」
「昼寝の邪魔だ。まだ、夢使いの任務は続いてるだろ?」
おっしゃる通り。悪魔の魚拓を以て、王子様のお祓いは済みましたが、再び悪魔が現れないか疑心暗鬼の王様は、夢使いによる王子の夢の監視を、引き続き義務付けられたのです。
おかげで私は変わらず宮廷の豪華な生活を享受できる上に、王子様の添い寝係も継続しているのです。
「ふへへっ……役得ですねぇ」
「キモい笑い方だな……」
私が芝生にゴロンと寝転ぶと、王子様はその横で、私に密着して寝転びました。はて。いつからこんなに、甘えん坊になったのでしょう?
「ひとつ聞きたいのですが。王子様は何故、夢の中でいろんな年齢で登場したのですか?」
「さぁ。それぞれの年の頃に、ルナに会いたかったからだろ」
あっさりと、嬉しいことを言ってくれます。
さて。今日はどんな夢を見ましょうか?
もう、悪魔の邪魔もありません。
ふたりきりで。ふたりだけの世界で。
存分に、夢の世界を楽しみましょう。
大好きな、大好きな、王子様と一緒に。
第一章 おわり
第一章を最後まで読んでくださりありがとうございました!物語は第二章へと続きます!
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