プロローグ 王子様と添い寝
親愛なるリフルお姉さまに、お伝え申し上げます。
私。ルナ・マーリンは今、お気に入りのネグリジェを着て、お気に入りの枕を抱きしめて。緊張のあまり、震える膝を必死に立たせております。
だって目の前には、気怠く冷ややかな眼差しで私を見下ろす、アンディ王子殿下がいらっしゃるのですから。
いつもお似合いの学園の制服ではなく、我らがグレンナイト王国の第二王子として着飾る高貴な装いでもなく、さらりとしたシャツ。所謂パジャマ姿で……ございます。
パジャマとはいえ、流石の殿下。傾げた首を麗しい金色の髪がさらりと撫でて、半分隠れたバイオレットの瞳が妖しく煌き……パジャマだからこその色気さえ感じます。
しかし色っぽくも鋭い眼光は、まるで不審者を見るように私を冷たく射抜いており……。
「何なんだ? それは」
「は、あ、ま、枕でございます!」
「チビのくせに、バカでかすぎだろ」
ふ、不良! という言葉が、頭をよぎりました。
アンディ王子殿下はその麗しい見目と裏腹に乱暴なお人柄で、王子様らしからぬやさぐれぶりだと、学園で評判なのです。だからこそ、そのギャップが女生徒達に爆発的に人気であるとか。
「こ、これは頭をふわふわと包んで、その、よく眠れますゆえ~」
「……」
アンディ王子殿下は質問しておきながら私の返答を無視すると、バカでか枕どころではない、キングサイズのベッドを振り返り、顎で指しました。
「ん」
「ん?」
「添い寝。してくれるんだろ?」
私は自らここへやって来ておきながら、顔面が爆発しそうに真っ赤になりました。苦手な男性。しかも王子様。モテ男の、美男子。よりによって、不良。
何故、王子様と添い寝だなんて、大それたことになってしまったのでしょうか?
今になって、このような行為を反対されたお姉さまに従うべきだったと、後悔しております。でも、こうなるきっかけとなったあの出来事は、本当に、本当に、事故だったのですよ。