地球脱出編 第九話
「さあさあ、ここが格納庫だ」
格納庫は今まで案内された部屋の中で一番大きいが、乗ってきたシャトルも入りそうにない。
「さっきのシャトルはどこ行ったんですか」
「シャトルは解体中。必要になったらまた新しいの買えばいいのさ。そんな事より! ほら見たまえ」
自慢の息子を紹介するようなテンションで連れてこられたのは、一機の人型ロボットだった。
確かに政府軍の主力は戦車や戦闘機で、人型のロボット兵器は珍しい。
だが、シカクはなんだか残念な気持ちになる。
腕や脚は人間に例えれば逞しい筋肉を持つ雄々しい姿なのだが、いかんせん胴体が上から下にいくにつれて太く丸くなっていくのだ。
「卵みたいなロボットですね」
「ご名答。乗員保護を最優先に卵の形を参考にさせてもらった。正式名称は特殊作戦用超高起動外骨格。長くて覚えられないって顔してるね」
いや、よく噛まないで言えるなと。心の中でツッコむ。
「デュラハンって覚えておけばいい。わかりやすくてカッコイイだろ」
「頭がないからその名前に?」
ケーブルが繋がれた卵型の胴体には頭らしきものは見当たらない。それもまたカッコ悪さを増長させる。
「そうだよ。センサー類は胴体に組み込まれているから何の問題もないのさ」
ウンチクが手前のコンソールを操作すると、卵にヒビが入るように胴体に隙間が走り、ハッチが開いた。
同時に中から粘液が飛び出し、避ける間もなく頭から被ってしまう。
顔を拭うと、まるでゼリーのようにプルプルと震えていた。
しっかりと粘液を回避したウンチクに尋ねる。
「このゼリーみたいなのはなんですか」
「プロテクションジェル。神経伝達とパイロットをあらゆる衝撃から守る凝膠体だよ」
ウンチクは耳たぶを触りながら大声を張り上げた。
「ティンカーベル、ティンカーベル! 今すぐ答えろ」
「何よ。ウンチク」
ティンカーベルと呼ばれたのはシャトルのパイロットと同一人物だろうか。天井から聞こえてきた声は、生意気そうな少女の声だった。
「なんでプロテクションジェルを入れっぱなしにしてたんだ! 見ろ、クヴィンが宇宙ステーションでずぶ濡れという激レア現象に遭遇してしまったぞ」
「ベルのせいじゃないわ。ウンチクが確認しないで開けたのがいけないの。それとこのノロマが避ければいい話でしょ」
ずぶ濡れになったコチラが怒られている。
「コラ。あんまり生意気だと消去するぞ!」
「やってみなさいよ。整備に修理、食事の用意、このステーションの生命維持。通販の受け取り。全部アンタがね」
ウンチクは顎に手を当てた。
「それは困る。よし悪いの君だ!なんてな。誰も悪くない。不幸な事故だったんだ。なっ、ティンカーベル」
二人?とも自分を棚に上げて勝手に納得している様子だった。
マイホームのAIティンカーベルが用意した掃除機ロボが掃除する傍ら、タオルで粘液を拭き取っていると、
「いやいや改めて悪かったね。うちのティンカーベルちょっとヤンチャなのが玉に瑕でね。でも有能だから許してやってくれ」
「はあ、まあ怪我もしてないので、許すも何も怒ってません」
「そうかいそうかい。ところでこのジェル気になるよね?」
こちらが何か言う前にウンチクはジェルを手摺になすりつけると、思いっきり殴りつけた。
ジェルが衝撃だけでなく金属音まで吸収したようだ。
「衝撃を防ぐだけじゃない。これに全身を包まれる事で君はデュラハンと神経が繋がり、世界を変える存在になるんだ」
「僕は卵の黄身という事ですか」
ハッチの開いたままのデュラハンは中身が空っぽで操縦席というものは見当たらない。
「いいねいいね。その例え。クヴィン。君は生まれ変わるんだ。デュラハンに乗ってね」