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異世界争乱編 最終話

「モモ。貴女に頼みたい事があります。ここにいる誰にもできず、貴女だけにしかできない事です。本当なら私がやらなければならないのですが……」

 マリアは胸に抱いたカプセルを恭しく地面に置いた。

「後ろにあるフレイに乗り込み、キメラの元凶を止めてください。私のボディでは船に入れても、目的の場所に行けません」

 私が見上げるマリアは約八メートルとトゥルゥルより大きい。

「船の中はあの化け物だらけなんじゃないの」

「いいえ。今現在、生み出されたキメラ達は一匹残らず私が駆逐しました」

「じゃあ……」

 大丈夫なんじゃないの。

「今は束の間の平穏。しばらくしたら細胞分裂が始まります。一度敗北を味わったので、次は更なる数を投入してくるでしょう」

「また、あなたが倒してくれればいいじゃない」

 マリアは首を振り、自分の下腹部のあたりに手を添える。

「そうしたいのは山々ですが、外部装甲、貴女が名付けてくれたトゥルゥルが損壊した時、私の冷却装置も修復不可能なほどに破損しました」

 下腹部に添えた手の隙間から、太陽を間近で見るような強い光が漏れ出していた。

「どうしようもできないの?」

「この世界の人間の設備ではどうにもなりません」

 私は妙案を思いついて、後ろを指差す。

「あの船は? マリアを生み出したのなら、治すのだって」

「不可能です。既に船内の設備はキメラの攻撃により、激しい損壊状態にあるからです」

「そんな……一人にしないで」

 死んだと思ったトゥルゥルからマリアが現れた。なのに希望の灯火はすぐに消えてしまおうとしていた。

「泣かないでモモ。貴方には希望が残されています」

 マリアがカプセルに目を落とす。

 空気を吐き出すように赤いカプセルが開き、初めて中に何があるか確認できた。

「これ……」

「私の愛しい子。どうかよろしくお願いします」

 カプセルには男の赤ちゃんが眠っていた。その寝顔は今までの戦いの事など全く耳に届いていないのか、戦場で健やかな寝顔を立てている。

 彼を抱き上げると、言いようのない懐かしさが涙と共に込み上げる。

「もう気づいているかもしれませんが、彼は貴方の––」

 言葉は最後まで続かない。

 マリアが視線を向ける方を見ると、そこには首無しのエンペラーが起きあがろうとしていた。

 綺麗な切断面からスパークを放ちながら、オーガ達の皇帝は私達に体を向ける。

「エンペラーは私が対処します。あなたは真っ直ぐ走って」

 私が何か言う前に、マリアは肩アーマーから十本の自律した柄を解き放つ。

「その子を連れて、早く!」

 私はカプセルから男の子を抱き上げて走り出す。

 マントをチェーンソーに変化させたエンペラーは私に気づいていないのか、すれ違っても何もしてこなかった。

 ホッとしたのも束の間

「……次はオマエだ」

 そんな心臓を鷲掴みするような声が後ろから聞こえてきて、足がもつれそうになる。

 振り返りもせず、フレイのハッチに到着した時には、背後から刃がぶつかり合う音が響いていた。

 艦内は電力が通ってないのか、非常照明だけの頼りない明かりだけが頼りだ。

 廊下は黒っぽい肉片やタールのような体液に染め上げられ、爪で引っ掻いたような傷や岩の塊を投げつけたようなへこみが至る所で見つかった。

 半開きの扉を潜り抜けると、そこは格納庫のようで、手足を畳んだ飛行機のような形態のロボット達が朽ち果てていた。

 同じ種類の一つ目ロボット達はアームで固定されたままだったり、落ちてひっくり返っていた。

 錆びつき手足は外れて配線は剥き出し、彼らのひび割れたカメラアイが命ある私に恨み言を言い放つ。

 格納庫を抜けると、暗闇で躓いた。

 赤ちゃんに怪我させないように、両足を踏ん張って倒れるのだけは回避した。

 引っかかったのは、床に投げ出されるように力尽きた足。

 それはトゥルゥルを一回り小さくしたような卵型ロボット。

 この艦のハッチが開けられた時に飛び出してきた卵型ロボットと同型だろうか。

 このロボットも手足がもがれ、返り血のように体液を浴びている。

 開いたハッチを覗き込むと、死体は見当たらず中はがらんどうだった。

 外では、まだ戦闘は続いているのだろうか。

 艦内からでは全く音が聞こえない。

 そもそもどこに行って何をすればいいのか。

 私なら分かる。

「えっ」

 誰かの声が聞こえた。

 周りを見ても誰もいない。

「まさかあなた? そんなわけないか」

 赤ん坊の寝顔を見ていると、闇の中でも心が落ち着いてくる。

 床に釘を打ちつける音で振り向くと、非常照明に照らされた体を突き破りそうに鋭い蜘蛛の足を持つキメラ。

 逆さまの女性の顔と視線が交差し、蜘蛛の頭から生えたワニの口が私を噛み砕こうと上下に開かれる。

 逃げろ。

 逃げなきゃ。

 踵を返して走ると、後ろから釘を刺す音が追いかけてくる。

 私より大きな怪物なのに、まだ追い付かれないのは廊下が狭いからだろう。

 後ろから何度もぶつかる音が聞こえてくる音が続いていた。

 だからといって逃げ切れる自信はない。

 今もずっと追いかけられているのは変わらない。

 その扉を潜れ。

 半開きのハッチの隙間に飛び込むと、直後にワニの口がめり込んできた。

 扉が侵入を防いでくれているが、それも長くは続かないだろう。

 どうすれば、逃げているだけでは、いずれ食い殺されてしまう。

 私は格納庫で使えるコンソールを見つけ、それを操作して三千機の中から生き残りのロボットを捜索する。

 片手の指が高速でキーボードをタップし、目が全機の状況をつぶさに確認していく。

 その中で一機だけ蘇生が可能な機体を見つけ、すぐさま再起動シーケンスを開始。

 扉が変形する音で我に帰る。ワニと蜘蛛のキメラが入ってきた。

 暗闇の中タッチスクリーンでクレーンを操作し終えると、怪物が近づいてくるのを待つ間、一心不乱にキーボードを叩き続ける。

 後ろで物音。振り返らなくても分かる。キメラが真後ろに来た。きっと隙だらけの獲物に向けて大きな口を開こうとしている筈だ。

 私は迷う事なくコンソールのスイッチを押した。

 背後で爆発するような閃光を背中越しに感じ、赤ちゃんを守る為にしゃがみ込む。

 光が消えてから確認すると、キメラがいたであろう場所の壁が高熱によって溶け大穴が空いていた。

 通路の熱が冷えるのを待ち、コンソールで確認した目的地に向かう。

 更に運がいいことにキメラを倒した時にできた穴が近道になってくれた。

「ありがとう」

 助けてくれたロボットにお礼を言って、溶けた壁の穴に足を踏み入れた。


 今、私の前にある扉には電気が通っている。

 近づくとロックを解除するパスワードを求められた。

 私には分からない。

 私には分かる。

 先ほど調べたパスワードを入力すると、ロックは解除され私を招き入れるように扉が開かれる。

 そこで寝ていたのは一人の女性。

 ベッドの傍にはミア・ベッカーというネームプレート。恐らく彼女の名前だろう。

 体は拘束具で締め付けられ、例え目覚めてもベッドから起き上がることもできないだろう。

 体の各所にチューブのようなものが差し込まれている。

 近くのモニターで調べると、体内に注入するためではなく、体内の細胞を別の部屋に送り込む為のチューブだった。

 その別部屋を調べると空の檻が無数にある。

 恐らく生み出されたキメラを入れる檻。

 しかしどれも扉が壊れ、檻の役目を果たすことはできなそうだった。

 ミアを生かしているのは、この艦の動力炉であるライフ・クォーツから送られるシャインエネルギーだ。

 キメラを産み出す方法を止める一番簡単な方法は、シャインエネルギーの供給を止める事。

 それはミアの眠る部屋でもできる。

 でもそれじゃあ彼女は死んでしまう。

 私は我慢と睨めっこして他の解決法を探したが見つからなかった。

 治療法があるなら最初から使われている。もう手の施しようはない。

 でも、彼女の命を奪うしか方法がないなんて。

 時間が経てば、この星の生命体は絶滅だ。そうなる前に手を打つべきではないのか。

 迷っていると、ミアの体の至る所が膨れ、きのこが胞子を出すように内側から盛り上がる。

 盛り上がった肉が動き出し、繋がれたチューブに向かっているように見える。

 ミアの閉じた瞼の隙間から流れる一筋の涙。

 私は、ミアに流れ続けるシャインエネルギーの供給を永遠に閉じた。


 赤ちゃんを抱き、フレイの外に出る。

 相変わらず黒い雪は降っているが、ある一部だけ雪が積もらない。

 剥き出しの大地は黒く焼け、熱波が落ちてくる雪を飲み込むように消滅させていた。

 黒く焼けた大地の中心にはクレーターができている。

 トゥルゥルが倒れていた場所にできた穴を覗き込んでみても、何の形跡も見受けられず、ここで戦っていた筈のエンペラーとマリアの姿はいくら探しても見つからなかった。

 私は積雪の中を進む。

 抱いた赤ちゃんが冷えないように拾った布で包む。

 人間達やオーガ達は今も争っているのだろうか。

 黒い雪に半ば沈みながら私は歩く。

 身体は冷え両足の間隔はないが、それでも歩くように命令を与え続ける。

 倒れそうになる度、胸に抱く温もりが私に力をくれる。

 森へ帰ろう。

 コクに赤ちゃんの事を報告しないと。

 それが済んだらこの星の生命体がライフ・クォーツを悪用しないか監視する。

 それが私の使命。

 赤ちゃんが泣き出した。

 今まで寝ていたのにお腹が空いたのかな。

 それとも頑張れと激励してくれるのか。

 覗き込むと、泣き止んでこちらを見上げる赤ちゃんと目があった。

「おはよう。お兄ちゃん」


 ––完––


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