異世界争乱編 第四十八話
私は途中拾った布切れで全身を覆っていた。
それでも歯の根が合わず、奥歯が一定のリズムを刻み続ける。
空を一日中覆う厚い黒雲は、黒い雪を飽きることなく降らし続けていた。
足を動かすたびに黒い雪が散らばり、頭や肩に積もった黒い雪は払っても払ってもきりがない。
「モモ。体温が低下しています」
「まだ歩けるわ」
「いえ。そろそろ休憩場所を見つけないと、今後に支障が出ます」
「どこか休めるところはある?」
「スキャン中、付近五キロにそれらしきものは見当たりません」
「じゃあ歩かない、と」
私はその場に倒れ込む。地面の黒い雪が舞い上がって全身に降りかかる。
「モモ、モモ。大丈夫ですか? 体温が急上昇を確認。このままでは命の危険があります」
立ち上がろうとしても動けない。いや動いているつもりだが体はいう事を聞かない。
「センサーに反応。複数の人物が近づいてきています。警戒態勢に移行」
「目覚めたようだな」
私の目の前にオーガがいた。
驚いた私は金属のボディ目掛けて拳を繰り出す。
拳に痛みが走ったが、目の前のオーガも倒れたのを見て呆気に取られた。
「イタタ。少しは回復しておるな」
「おい爺さん。大丈夫か」
入り口に現れたのは浅黒い肌の男。人間だ。
オーガと人間が一緒に暮らしているなんて。
「すまないなお嬢さん。目覚めて爺さんがいたらそりゃ驚くわな」
「儂は何もしておらん。誓ってな」
「モモ。目を覚ましましたか」
人間の男の後ろでトゥルゥルの声。それで少し落ち着くことができた。
私がいるのは厚い動物の皮を利用したテントだった。
「俺はハンター。あの爺さんは長老だ」
「助けてくれたのに、殴ってすいませんでした」
「何、儂もデリカシーがなかった。なんせ何十年ぶりの訪問者、しかも獣の耳を持つ、ケモノビトじゃろ」
「そうです」
「この村は大陸を追い出された奴らの最後の拠り所みたいなもんさ」
「じゃあハンターさんも?」
「元王国の兵だった。命令違反をしたらここの調査を命じられて行き倒れたところを、長老が助けてくれたのさ」
「あんたも追われておるようだな。ああ詳しく言わんでいい。種族の異なる二人を見れば、察しはつく」




