地球脱出編 第七話
空気が抜けるような音が聞こえて目を開けると、真っ暗のままだった。
自分の視力の問題ではなく真っ暗な棺のようなカプセルに入っていたことを思い出す。
視界の上の方から横一直線の隙間が開き光が入り込む。
どれくらい時間が経ったのか、闇に慣れた目を瞬かせていると、カプセルの扉は上半身を起き上がれる幅まで開く。
起きていいのか逡巡していると誰かが覗き込んできた。
ウンチクかと思いきや、ベリーショートに今どき珍しい眼鏡をかけた青年だ。
「目覚めたみたいだね」
少し高めの声で、声をかけられる。
「起き上がれるかな。気持ち悪いとかある?」
身体を動かしてみると、寝すぎで頭がぼんやりするくらい。しかしそれも一瞬の事で全身が軽く感じまるで自分の身体ではないみたいだった。
「いえ。むしろすごく身体が軽くて、今ならなんでも挑戦できそうです」
「良かった。今ウンチクを呼ぶから。これでも飲んでて待ってて」
青年はいきなり放り投げてきたので驚くが、それはフワフワと重力を感じないように漂い容易にキャッチできた。
受け取ったのは液体が入ったパックで、短いストローが一体化したような飲み口がある。
何の水かは分からないが、見た途端猛烈に喉の渇きを覚え、一気に飲み干す。味は何もしなかった。
その様子を見ながら、青年は耳たぶに触れる。
「ウンチク、目覚めたよ。うん。見たところ異常なし」
全部飲んで一息ついたところで青年が近づいてきた。
「ウンチク。今こっちに向かってるって。来るまでにこれ着ておきなよ」
「えっ……あっはい」
顔が熱くなり、耳まで赤くなってないことを祈る。
自分が今まで真っ裸なのもそうだが、青年は体に張り付くようなスーツを着ていて、胸の膨らみや腰のくびれを見て初めて女性だと気づいたからだ。
部屋に残る女性に見えないように苦労してシャツを着てパンツを履くと、ウンチクが入ってきた。
「おはようクヴィン。手術が無事に成功したみたいでよかったよかった」
「あの、何が変わったのかさっぱり分からないのですが」
「それは追々説明するよ。まずは君の我が家マイホームを案内するよ」
「私はお役御免かな」
「うんドゥーアはここまで。後はワタシとクヴィンの時間。はいご褒美」
ドゥーアと呼ばれた女性はタバコ型チョコを受け取ると、そのまま部屋を出て行った。
「あの人は」
「ん? 彼女はドゥーア。君と同じロストチルドレンの一人だ。君達の中では一番早くスカウトしたから先輩になる。といっても実戦は未経験だけどね」
部屋を出ると、ウンチクはまるで跳ねるように廊下を進んでいく。歩いていては置いていかれそうだ。
「あ、あの待ってください」
「ここは地球より重力が軽いからね。慣れたらウサギみたいにピョンピョンってね」
説明しながら、最初に案内されたのは自室。完全個室で無機質。シングルベッドにタブレットが置かれた机。
「必要最小限。君も見たい動画とかあるだろだからタブレットは一番いいやつを揃えておいた。何か追加したかったらタブレットで注文できるから」
次は食堂。食堂といってもテーブルも椅子もない。よく見ると壁に小さな出っ張りがありそれがテーブル代わりのようだ。
「ワタシ達は一秒も時間を無駄にできないし、しちゃいけない。だから食事は手短に。なんなら自室で食べてもいい」
次は格納庫に案内される途中、初めて体験する浮遊感と先ほど一気飲みしたせいか尿意を催した。
「あの、トイレは」
「この案内板通りに進んで。それとも直接案内しようかい」
「い、いえ一人でいけます」