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異世界争乱編 第四十六話

「モモ、モモ。聞こえますか」

 闇の中でトゥルゥルらしき声が聞こえる。しかし耳鳴りのせいで、どこから聞こえているのか分からない。

「トゥルゥル、トゥルゥルどこにいるの」

「安心してください。すぐ近くにいます」

「耳鳴りが酷くて、どこから聞こえているか分からないの。それに目も見えない」

「安心してください。視覚も聴覚も健在です。暗いのは光が届かないから、耳鳴りは爆発音のせいです」

 私を落ち着かせるようにゆっくりとした口調で説明してくれる。

「あなたはどこも傷ついていません。信じてください」

「ここはどこなの」

「王国地下百メートルにある発電所です。爆発により全壊しました」

「脱出できそうなの?」

「ただいま試行中。崩れた天井の瓦礫さえどければ脱出可能です。少し揺れるので我慢してください」

 トゥルゥルが動き出し、瓦礫が落ちる音が続いた。

 金属の指の隙間から光が漏れる。

 トゥルゥルの掌の上で立ち上がる。

 地下にいるはずなのに、頭上から日の光が差し込んでいる。

「爆発から十一時間が経っています」

「何で日差しが差し込んでいるの?」

「天井が崩れた時に町の床が抜けたようです」

 周りを見ると、発電所の姿は影も形もなく、天井と床と家の瓦礫に押しつぶされていた。

 トゥルゥルの手の下には倒れて動かないオーガ。

 落ちてきた家の窓から手がダランと垂れていた。

「トゥルゥル。早くここから出して」

「すぐに」

 トゥルゥルは私を片手に乗せたまま瓦礫の山を登っていく。

 垂直の壁にも引っかかるところが多く片手と両足を使って器用に登り、最後は膝を曲げて跳躍して地上に上がる。

 地上は混乱の坩堝だった。

 町に大穴が空いただけでなく、爆心地近くの爆風で建物は吹き飛ばされ、人間大の破片が遠くの家の窓や玄関に突き刺さっている。

 ある屋敷に目が留まる。

 屋敷は半壊し、火災が起きたのか煙が上がっている。

 リュールやキッドが無事だといいのだが……。

 後ろから騒ぎ声と複数の足音。

 衛兵達が私達を見つけて殺到してきていた。

「モモ、どうしますか」

「逃げて。全力で」

「分かりました」

 トゥルゥルは私を手に持って走り出す。

 低い瓦礫を踏み砕き、全高より高い瓦礫はジャンプして左右に避ける。

 後ろから待てや逃げるなと声が聞こえるがそれも次第に遠くなっていく。

 私の近くの壁に炎が炸裂した。後ろから衛兵達がランタンの炎を操ってこちらに投げつけている。

「モモ伏せてください」

 トゥルゥルの両手が私を覆って守ってくれる。

 どう脱出するか見守っていると、トゥルゥルは門の前で止まる。

 一度私を下ろすと、両手で力任せに扉をこじ開けた。

 外に出た後は追跡者が倒れないように、扉がひしゃげる勢いで閉める。

 こうして私達二人は久しぶりに王国の外に出る事ができたのでした。

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