異世界争乱編 第四十三話
王国から南に位置する帝国は想像していたものとだいぶ違う。大量の巨岩と天に向かって突き立つ塔の都だった。
塔の高さもそうだが、大きな岩は私はおろかトゥルゥルも余裕で収まりそうなほど。
そこに空いた穴にオーガ達が住み着いている。
「あの穴は自分達で掘ったんだ」
エンペラーの言葉に両手で岩を削るところを想像する。人間や私達には無理だが、怪力の彼等なら……。
「言っておくけど手では掘ってないよ」
「えっ」
「あれあれ」
エンペラーが示したのは実際に岩を掘っているところだ。
オーガが両手で抱えた機械の先端から、赤い直線の光が岩をバターのように削っている。
「レーザー採掘機。あれで家だけでなく、武器も作っているんだ」
エンペラーの後をついて行くと岩の家に住む彼らが出てきては首を下げる。
そして後に続く私に無機質なレンズを向ける。どんな感情が込められているかは想像できなかった。
「ようこそ。ワタシの城へ」
巨岩の群れの一番奥、丸みを帯びた塔は傾いていた。
まるで空から降って地面に突き刺さったみたいに、大地に亀裂が走っている。
ヒビが入り段差の出来た大地を歩いて行くと、エンペラーは塔の窪みを隠すように背中を預ける。
「ここがワタシの玉座。すまないね屋根がなくて」
「気にしないでください。早速ですが私達を助ける理由を教えてください」
「火の球、ここから北東に落ちたソレの調査をワタシは命じた。誰も帰ってこず、わからずじまいだったけれど」
「王国の騎士に全員倒されたんです」
「そう騎士だ。どうしても気になって調べさせていると、森からケモノビトと卵型ロボットが騎士に連れられて出てきたと報告を受けた」
「私達を見ていたんですね」
「悪く思わないでくれ。情報が多ければ多いほど有利になる。で王国を密かに監視していたら君一人が抜け出し森に帰った。ワタシは最初卵ロボは破壊されたと考えた。王国も追手を出していなかったし」
「でも、追手を出てきた」
「そう! 何日も野放しにして何故と思ってね。これはとても重大な事態が起きているのではないかと考えワタシ自ら出向いた。というわけだ」
「助けてくれてありがとうございます」
「礼はいらないよ」
「トゥルゥルを助けたらどうするのですか?」
「ん? どうするとは?」
「トゥルゥルを同じキカイビトとしてここで住まわそう。とは考えてないんでしょう」
私の問いにエンペラーは沈黙で答えた。
「やっぱり、トゥルゥルをどうしたいのですか」
エンペラーは顎を反らせて大笑い。
「まぁ、同情では騙せないか」
「同じ手は何度も味わってきました」
「ワタシ達はこの星の人間ではない。地球という星に住んでいた地球人なんだ」
地球、行ったこともないのに頭に針が刺さる。
「この城も正体は宇宙船でね。今は地面に突き刺さっているが、エネルギーさえあれば飛び立つことが出来る! それがキカイビト達の本懐なんだよ」
「つまり、故郷に帰りたい、と。それは理解できますが、トゥルゥルが必要な理由はなんですか」
「ここ最近、王国は夜になると闇に包まれることがある」
急に話題が変わることが多い。
「それは当たり前……いえ発電所があるのに……」
「当たり前。そう当たり前。今まで当然だった事が姿を変える。そんな違和感を見つけたら何があったか気になるだろう」
確かに、トゥルゥルに何かあったのかもしれない。
「推測だがトゥルゥルは王国の灯りの元になるエネルギーを作っていると予想しているんだ。その力をぜひワタシにも貸してほしい。もちろん人間と違って強制はしない。納得するまで話し合うつもりだ。だから協力––」
「失礼します」
オーガが割り込んでくる。
見ると、動かなくなったオーガを抱えている。
「バッテリー切れか」
「はい。私の父の充電をお願いします」
エンペラーのマントが腕に変形すると、電池の切れたオーガを摘み塔の中に連れて行く。
「見てわかっただろうが、キカイビト達は燃料電池で動いている。想像しにくいかもしれんが、飲まず食わずでも生きていけるのさ。その代償で充電が必要という事だ」
「塔の中で充電できるのですね」
「まだ電力は生きているが、それも無限ではない。本当なら一瞬で終わる充電も五十年かけている」
「五十年⁈」
「父親が立ち上がる頃には、入れ替わりで息子が充電することになるだろうねぇ」




