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異世界争乱編 第四十話

 目の前を兎が通る。

 茶色のうさぎは首を左右に振ると一瞬目が合った。

 見つかったと思ったが、どうやら気づいていないようだ。

 長い耳をレーダーアンテナのように耳を左右に動かして周囲を偵察している。

 その動きが止まった。警戒を解いたみたい。

 私は刃先を持ったナイフを投げる。

 狙い違わず首に命中。驚いたように飛び上がったウサギは横に倒れて動かなくなった。

 草で作ったマントを脱ぎ捨て近寄り、今日の食事を両手で包んだ。

 食べれるように皮や内臓を取り除き焚き火で焼く。

 香ばしい匂いの誘惑を我慢し、かつ焦がさないように注意して兎肉を調理する。

「いただきます」

 完成したそれにかぶりつく。うん今日は最高だ。

 最初は見よう見まねで全然成功しなかったけれど、毎日続けるうちに成功する日が少しずつ増えていった。

 ナイフはオーガの石の武器から、草のマントは人間から。

 本当はコクの使ってた弓を作りたかったが、今も分からずにナイフを投げる事で代用している。

 お腹を満たしたら、お墓を綺麗にするのが毎日の日課。

「コクおはよう。今日は狩り成功したよ。うんそろそろ弓矢の作り方が分かればいいんだけれど、コクに任せっぱなしにしてた私が悪いんだけどね……」

 みんなのお墓を綺麗にしたら、森の外を見回って夕食を探しに森へ。

 日が沈むと成功率が落ち、今日も空腹で夜を過ごした。

「来た!」

 いつものように森の外を見ていると、ついに待ち望んでいた時が来た。

 それは馬に乗った人間達。

 お墓を作ってからずっと考えていた。

 私は生きている。生きているという事は何か目的がある。

 目的がない生は死んでいるのと同じ。

 目的は、トゥルゥルを救い出す事。

 そのために隠れている森で火を焚き目立つ煙で彼らの目を引いた。

 いつか成功する事を信じて。

 そしてやって来た。

 こういうのをなんて言うんだっけ。

 そう鴨がネギを背負ってやってきた、だ。

 どうやら王国の兵士達は油断しているのか叢のようなマントを着込んではいない。

 制服のまま、森の中へ踏み込んできた。

 全員男のようで会話が聞こえる。

「逃げた精霊なしは本当にここなのか?」

「らしいぜ。何でも誰もいない森で煙が上がったのを何度か見たって話だ」

「さっさと見つけようぜ。こんな虫だらけの場所。一刻も早くおさらばしたい」

 私は油断しきっている兵達に向かって飛び降りた。

 一人をそのまま押し潰し、二人目の足にナイフを突き立てる。

 悲鳴で残りの男達が怯んだ。

 魔法を使われる前に近づき、三人目の手をナイフで裂き、四人目に頭突きをする。男の鼻は折れたのか変な方向に曲がっている。

 最後の一人に落ちていた石を投げつける。

 額に石が直撃し木の根に足を取られた男に馬乗りになって動きを封じた。

 お手製の石のナイフを首に突きつける。

「こ、殺さないで」

「死にたくなかったら、私を王国に連れて行きなさい」

「何のために?」

「トゥルゥルを救うためよ」

「あの発電所にいる奴か、駄目だ。そんな事したら俺は処刑される」

「じゃあ、死にたいのね!」

 先端が皮膚に当たり血が溢れた。

「分かりました。連れていく、いえ連れて行きます。だから殺さないで」

「じゃあ、立って……えっ?」

 目の前の男に集中しすぎて後ろの注意を怠っていた。

 木の枝が折れる音に振り向く前に後頭部に衝撃が走り、その場に崩れ落ちる。

 最初に押しつぶした男が立っている。その手には血に濡れた石。

「こいつ手こずらせやがって!」

 馬乗りの男と二人がかりで私は身体中を蹴られて、痛みから逃げたくて意識が遠のく。

「殺すな。殺したら俺達が雷の騎士殿に殺されるぞ」

 蹴りが終わると、私は犬耳ごと髪を掴まれ森の外に引き摺り出された。

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