異世界争乱編 第三十九話
三度何かを叩く音が聞こえた。
どうやら気を失ったように眠っていたらしい。
もう一度三回叩く音。
言われた通り馬車の御者からの合図だ。
クインクの言葉を思い出す。
『御者が三回叩いたら、森に一番近い砦が近づいてきた合図じゃ。その後に停止するので馬車を降りて森に隠れるんじゃ』
馬車が停まったので、私は動き出す前に荷台から降りた。
うまく降りれずに肩をぶつけたが、痛みを気にせずに馬車から距離を取る。
闇の中で人魂のように松明をつけた砦へ向け馬車が動き出す。
私は誰もこっちに来ない事を確認して、みんなが暮らしていた森を目指して歩き始める。
足元に何か落ちた。白いハンカチだ。
私はそれを力の限り踏みつけた。
徒歩というのは、いかに自分が無力化を思い知らされる。
整備されてない道、森や林。追手がいる事も考え、朝は隠れ日の入りと同時に動く。
人間はいない。オーガもいない。私の行動を見張っているのは太陽と月だけ。
空になった水筒を捨て流れる小川で渇きを癒す。
日の出の方向で方角を確認し落ち葉の中で眠りにつく。
小高い岩の上に登ると見覚えのある湖と森が遠くに見えてきた。
「もう少しで帰れる」
登った岩を滑り落ちる。手の皮がむけた。気にしない。歩き続けて足の裏が痛い。無視する。
首が重い。手を動かすのもしんどい。呼吸と足を動かす事に専念する。
まるでゾンビみたいと客観視。そんな余裕がある事に笑ってしまった。
森に帰ったら何しよう。
まずは湖に飛び込もう。こびりついた汚れを落とし、お腹が膨れるまで冷たい水を飲むんだ。
次は森に入り、木の実のスイーツにコクが狩った新鮮なウサギ肉のシチューをキュウさんに作ってもらって……。
私は膝をつく。その場に倒れそうになるのを何とか両手で支えた。
何考えてるんだ。あの森にもう仲間はいない。
まとめ役の村長さん、凛としたオツルさん、力持ちのミングさん。孤独を愛するルフさん。お調子者のピトンに、みんなのお母さんだったキュウさん。
そして……私の愛する人、みんなみんな殺された。
私は何度も地面を殴り、額をぶつける。
おでこから生暖かい液体が目に入る。
赤い視界の中、私は故郷を見つめる。
何もない故郷に帰って何をする。一人で暮らすのか、歳も取らずに永遠に。みんなに会えないまま。
誰か死に方を教えて。
再びバランスを崩して転んだ。
転ばした犯人に殺意が湧いて振り返る。
人一人入れそうなほどの大きさの盛り上がった土の塊。
『生きて』
コクの声が蘇る。
『生きて』
コクの声が私が作ったお墓から聞こえてくる。
土の塊を抱きしめる。不思議と熱を感じる。心地よい熱が。
私は涙を拭いてある決意を固めた。
村跡や森の中を探し回って仲間達と合流し、それぞれの家の前に永遠の寝床を作る。
「みんな。遅くなってごめんね。ゆっくり休んでね」




