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異世界争乱編 第三十八話

 私と女王様は危なげなく地上に出る。

 赤い夕焼けを久しぶりに見て、目を細めた。

 太陽ってあんな色してたっけ。

 隣の女王様はだいぶ疲労が溜まっているのか、はしたなく開けた口で大量の酸素を吸ったら吐いたりを繰り返す。

 地味なマントで変装をしているとはいえ汚物まみれの私達はすごく目立っている。夜が近づいているので人が少ないのが幸いか。

「あれに乗って街を出るのじゃ」

 一台の馬車が停まっている。御者は私達に気づくも驚く様子はない。

「リュールが用意してくれた。砦へ物資を補給する馬車じゃ」

「なんで……」

「何じゃ?」

「人間が私達を助けるの」

 女王様の足が止まる。

「何を言っておるのじゃ。友達を助けるのは––」

「友達? 女王様と私が?」

「モモ」

「そうやって名前を呼んで、私達を油断させたんですね」

 怒りが濁流となって皮のむけた唇から溢れる。

「みんなで、私を人質にする為に優しい顔して近づいてきたんでしょ。トゥルゥルの力を利用するために!」

「違う。モモ聞いてくれ。愚かな妾は何も知らなかった。先日偶然にも騎士と摂政の会話で知ったんじゃ」

 私は弁解の視線を無視し続ける。

「妾には味方がおらんかった。しかしどうしても助けたくてリュールに打ち明けたところ、快く協力してくれたのじゃ」

 女王様は再び歩き出す。

「妾を嫌っていい。じゃが今は馬車に乗ってくれ。頼む」

 押されるように荷台に乗り込むと、水筒と一口大の焼き菓子を渡される。

「リュールが作ってくれたんじゃ。彼女から言伝がある。『ありがとう。そしてごめんなさい』だそうじゃ」

 女王様は私に全てを伝え終えると、荷台から離れた。

 馬車が動き出す。

 角を曲がるまで、女王の視線は私に向けられていた。

 馬車は何事もなく、王国の防壁を抜ける。

 舗装されているとはいえ石と土の道。車輪の振動が直接腰に衝撃を与える。

 膝に置いた水筒と焼き菓子を見ていると、久しく感じていなかった喉の渇きと空腹を覚えた。

 人間の施しなんて。

 外に投げ出そうとするが筋力もなくその場に落とす。

 床にばら撒かれる正方形の焼き菓子。

 微かな甘い香りにお腹が鳴く。

 一つ摘んで食べてみる。

 悪戦苦闘しながら飲み込むと、久しぶりの固形物に驚いて吐いてしまった。

 それでも空腹が勝り、今度は歯で削り取るように極小量を口に含む。

 そんな時間のかかる行動で何とか全部食べる事ができ、水筒の水で流し込んで横になる。

 裏切られたのに、裏切り者の食事を食べてしまった。

 流れる涙は何故か温かった。

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