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地球脱出編 第六話 

 シカクは赤く腫れ上がった頬をおさえながら、女医の後を歩いていた。

『ごめん。僕兵隊になるよ』

 その一言がマルを噴火の如く怒らせ、病室を追い出されてしまった。

「ワタシのスカウトを受けた事、早速後悔しているかい」

「いいえ」

 後をついて案内された先には一機のシャトルが発進準備を整えて待っていた。

 通路を挟んで四列の席には誰も座っていない。

「これはワタシのプライベートシャトルだ。席は好きなところを選ぶといい」

 女医は操縦室の方へ向かう間、シカクが何気なく選んだのは窓際の席だった。

 座っていると前の方から女医の声が聞こえる。パイロットと話しているようだが三〇という声は聞こえたが、詳しい内容までは聞き取れない。

 しばらくして戻ってきた女医は迷う事なくシカクの隣に着席する。

「ティンカーベルに後何分で出発できるって聞いたら何分って答えたと思う?」

 女医の質問よりも、パイロットの名前がティンカーベルということに驚いた。

「三〇分ですか」

 咄嗟に出た答えを口にする。

「よく分かったね。軍用機の飛行コースと重なるからそんなに時間かかるって言い訳するんだ。だからコースの隙間を縫えって発破かけてきた」

 不意にシャトルが動き出す。外の景色がゆっくりと後ろに流れていく。

「やっと発進か。五分四十秒、やればできるじゃないか」

 タバコ型チョコを口に咥える。

 シャトルは衝撃を感じさせることもなく離陸し、滑らかに高度を上げていく。

 窓に映る景色は、あっという間に街が雲海に覆われ、その雲も遥か下に漂う。

 窓にシャッターが下される。

「ここから大気圏突破だ。少し揺れるよ」

 カタカタと足元が揺れ、椅子から全身に小さな振動が伝わる。

 一、二分で振動は収まりシャッターが開く。窓の外は白と青のマダラ模様に彩られている。それが地球だと気づくまで数秒を要した。

「宇宙に出るのは初めてかい」

「ええ。人生初の宇宙は家族旅行になるはずでしたから」

 窓の外が薄暗くなると同時に、何かに捕まれたようにシャトルが止まる。

「な、何が」

「落ち着けクヴィン。うちの輸送機、ストークが迎えにきたんだ」

「迎え」

「そう。ワタシの組織は完全秘匿。どんなレーダーにも引っかかるわけにはいかない。だから隠れるのが得意なストークに回収してもらうんだ」

 恐らくシャトルの上で回収作業が行われている。

 待っていると、窓の上の方で火花が散っているのが視界に飛び込んできた。

 顔を近づけると、シャトルの垂直尾翼が後方に流されていく。

「あの、翼が折れたみたいですけど」

「ああ、今レーザー溶接機で切断したんだよ。次は主翼に取り掛かるはずだ」

 窓を見ると、アームに固定された二枚の主翼が根元からレーザーで切り離され、あっという間にシャトルは羽をもがれてしまった。

「これじゃ操縦できませんよ」

「いいんだよ。ステーションまではストークが連れて行ってくれる。翼も大気圏で燃え尽きてワタシ達の足取りは誰にも分からなくなる」

 アホウドリのお腹の中に仕舞われて、シカクを乗せたシャトルは女医の居城に足を踏み入れる。

「ようこそ、マイホームへ!」

 両手を広げて歓迎の意を示す。

「マイホーム、それが基地の名前ですか」

「衛生軌道上に無数に浮かぶ人工衛星。その中に紛れた戦争終結のために粉骨砕身するワタシ達の拠点だよ」

 女医のモノクルが光を反射する。

「さて、クヴィン。君にはある手術を受けてもらう。痛くはないよ。丸一日カプセルに入ってもらっている間に終わってしまうから」

「それが終わると、どうなるんですか」

「君は歳をとらない永遠の子供(ロストチルドレン)の一員になるんだ」

 言われるままカプセルに入り蓋が閉まる直前、クヴィンはある事を思い出す。

「あの!」

「なんだい」

「あなたの名前は」

「おっと、あまりにも嬉しすぎて言ってなかったね」

 息が掛かるほど顔が近づいてきた。

「ヤマガラ・ウンチク。君と永遠の時間を過ごす者だ」

 蓋が音を立てて閉まり、静寂と暗闇に包まれるうちに抗い難い眠気に襲われた。

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