異世界争乱編 第三十六話
私は鉄格子ごしに外の光景を見ていた。
発電所は一日の半分は薄暗く、半分は眩しい。
それはライフ・クォーツが輝いている時と輝いていない時だ。
一日中、部屋から出られない私にとって、それは昼夜を告げる唯一の手掛かりだった。
発電所内で働いているのは人間と、驚いたことにオーガ達がいた。
森であったオーガよりも気が弱そうで、肩を縮こませ背中を丸めている。人間に蹴られても反撃しようとはせず、頭を何度も下げている。
夜、つまりライフ・クォーツが太陽の如く輝くときは人間達は姿を消し、オーガ達が命令通りに仕事をこなす。
ある夜、オーガの一体が倒れた。
周りのオーガ達は誰も見向きもせず、黙々と仕事をこなしていた。
工場の輝きが収まった頃、人間達が入ってくる。
彼等は倒れたオーガを見つめると、みんなで笑いながら私の方を指差し、足を掴んでどこかへ引きずっていく。
視界から外れた彼等はしばらくすると、私を閉じ込めている部屋へやって来ると、引きずったオーガを放り投げてそのまま去ってしまった。
私は力尽きたオーガと二人きりになった。死んでいるのかと思ったが、まだ生きているようだ。虫の息だけど。
二本角のようなアンテナが触覚のように動き続ける。
「わ、た、しは、地球、人だ」
私に語りかけているのか、独り言なのかは分からない。
「地球、に帰りたい。地球に……」
耳にタコができる頃には、一言も口を聞かなくなった。
私がこの牢屋に入れられた最初の頃は、一日二回食事が出ていた。それが一回になり、二日に一回になり、ついに運ばれなくなる。
代わりに送り込まれてくるようになったのが、動かなくなったオーガ達。
彼らは輪唱するように『地球、地球』と呟いては沈黙する。
食べ物も飲み物もなくなり、排泄もその辺でする事に慣れきってしまった。
そんな私の唯一の救いはトゥルゥルと目を合わせる事だった。
トゥルゥルは割れたガラスの容器に閉じ込められ、身体中にケーブルを取り付けられながらも、私の方に視線を送り続けてくれる。
唯一の望みに縋るために、体力のなくなった体を鉄格子のそばに横たえ目線を固定する。
それも夜の間だけだけど。
今日もまた扉が開き、オーガが放り込まれる。




