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異世界争乱編 第三十五話

「どこへ向かっているんですか」

 夜の街を先に進むハルナイトさんから返事はない。

 月のない夜でもたまに点滅する街灯のお陰で、歩くのに支障はないけれど、こんな夜更けに外を出歩くのは不安が募る。

 ハルナイトさんが立ち止まったのは宮殿近くにある正方形の建物の前で窓どころか扉も見当たらない。

 建物にハルナイトさんが近づくと壁の一面が下に下がる。

 中には部屋や家具は置かれておらず、トゥルゥルも入れそうな大きな部屋がひとつだけ。

 私達が入ると扉が迫り上がって閉まり、一瞬闇に包まれたものの、すぐに照明がつく。

 ハルナイトさんが目の前のボタンを操作すると、天井がゆっくりと上がっていく。と思ったけれど私達が下に降りているようだ。

 降りていくうちに壁がガラス張りに変わって視界が開け、そこには別世界が広がっていた。

 先ほど入った建物よりはるかに広い地下空間。

 その空間の奥には巨大なガラスの容器に収められた結晶が見える。

 一つは光って稼働しているようだが、もう一つは容器が砕け中身は何もなかった。

 ここに連れてこられて初めてハルナイトさんが口を開く。

「奥にある結晶。あれが賢者に授けられたライフ・クォーツという結晶だ。あれのお陰で私達の王国は夜でも昼のような明るさを手に入れることができた。しかし」

 ハルナイトさんが指差したのは砕けた容器の方。

「突然制御を失ったライフ・クォーツの一つが爆発し、私の両親と大勢の作業員の命を奪い、私に雷の力を無理矢理流し込んだ」

 自分に流れる雷が呪いであるかのように拳を握りしめる。

「問題はその後だ。私達には使い方は教わっても、修理の仕方が一向に分からない。賢者は見つからず調査員は全員帰ってこなかった。そして今、残りのライフ・クォーツも不安定になりつつある。君も見なかったかな。夜の明かりが明滅するところを」

「見たとおもいます」

「このままではまた爆発が起こり、我々の王国は真の闇に包まれてしまう。いやもしかしたら王国が消滅する可能性もあるかもしれない。もう修理方法を探るのは時間の無駄だ。だからそれを防ぐために、常時安定したライフ・クォーツを求めていたのだ」

「私に何でそんな話を? 私は修理方法はもちろん、ライフ・クォーツがどこにあるかも分かりません」

「そんな事は期待していない。君には新たなライフ・クォーツに言うことを聞かせるための枷になってもらう」

 ハルナイトさんが指を鳴らす。

 別の大きなドアが開き、そこからトゥルゥルと兵士達が姿を現した。

「何でトゥルゥルがここに? ハルナイトさん何で鎖を巻き付けているのですか!」

 トゥルゥルの全身を締め付けるように鉄の鎖が巻かれ、その先端は見るからに力持ちそうな大柄な兵達の手に握られている。

「彼には暴れてほしくないが、鎖と私達の力ではものの数秒で破られてしまうだろう。だからこそ君が必要なんだ」

「モモ。無事でしたか」

「トゥルゥル」

「動くな」

 ハルナイトさんの指が私の首筋に触れた途端、全身に痺れが走り立てなくなる。

「あ、れ?」

 呂律も回らない。

「トゥルゥル。君が私の言うことを聞けば、彼女は殺さない。しかし暴れたら最後、この精霊なしは私の雷によって骨の髄まで焼き尽くされるだろう」

「……分かりました。要求を聞きます。だからモモに酷いことはしないでください」

「私は素直な奴を好む。君が逆らわない限り、この精霊なしは生き続ける。その事を忘れるなよ。おい、こいつを連れて行け」

 だめ、言うことを聞いちゃ、駄目。

「モモ。耐えてください」

 そんなトゥルゥルの声を聞きながら、私の体は引きずられていく。

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