異世界争乱編 第三十四話
「モモ。おはようございます」
私とクインクの近くにトゥルゥルがゆったりとした足取りで近づいてきた。
「どうしました。二人で同じ方向を見て」
「う、ううん何でもないよ」
「そうですか。心拍数の変化を感知したので、心配しました」
「心配してくれてありがとう。トゥルゥルは何をしていたの」
「この王国を観察していました。広場の草木や黒く煤けた建物、そしてそこで息づく人々」
「何か分かったの」
「はい。電力不足や定期的に襲撃してくるオーガなどの不満はありつつも、人間達は逞しく生きているように見受けられました。きっとクインク陛下の統治が良いのでしょう。そして小動物達は宮殿の広場を憩いの場としているようです」
トゥルゥルの頭部や肩に複数の小鳥が止まっていることに気づく。
「彼等のお気に入りの場所のようです」
満更でもない様子のトゥルゥルは、新たにやってきた鳥達と戯れるように私達のそばを離れる。
「こうみると、赤ん坊のようじゃのう」
「そうですね。目覚めたばかりでいろんなことに興味津々のようです」
「一日ここにいて分かったのは、トゥルゥルに我らを騙している気配はない。それはよくわかる。じゃが一体何者なんじゃろうか?」
「分かりません。でも本人が思い出すまでは待ってみようと思います」
その時正門が勢いよく開かれ、三人の男達が血相を変えてやってくる。
両側の二人の衛兵に肩を貸されている男性は、瞼を閉じて顔から血の気が引いていた。
「ああ、陛下。こちらの男が家の修理中に謝って落下したようなのです。その時下の屋台を破壊して破片が足に」
「怪我の具合をよく見せるのじゃ」
クインクは躊躇せずに怪我人のそばに近寄ると真珠のドレスが真っ赤になるのも構わずに傷を調べ始める。
「この木の破片、太い血管を傷つけておるな。あまり動かすと死に至る。ここで処置するから仰向けに寝かせるのじゃ」
クインクは、草の上で寝かされた怪我人に向けて自らの掌を向けた。
掌が輝き出すと、反応するように傷口の周囲が光り、皮膚の下に無数の虫がいるように蠢めく。
傷口は波打ながら突き刺さった破片を押し出すと、離れ離れになった血管や筋肉が一人でに動き出し、手と手を繋ぐ。
その間もクインクは、祈るように目を閉じ顔には脂汗が浮かんでいた。
「クインク––」
「話しかけるでない」
傷口が完全に塞がると、傷跡も残らないほど綺麗な状態になっていた。
怪我人の男の人は顔色も良くなり、健やかな寝息を立てている。
「ふぅー」
「お疲れ様です」
クインクの汗をハンカチで拭う。
「ありがとうモモ」
「怪我を治すなんて、すごい力ですね」
「これが、妾が歳を取らずに女王の地位についている理由じゃよ」




