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異世界争乱編 第三十三話

「……それで、ついてきたんじゃな」

 クインクは、私の尻尾と戯れるキッドを目で追いかける。

「は、はい。駄目だったでしょうか」

「駄目ではないが、いや前例がなくて対応に苦慮してあるだけじゃ。すぐ慣れる……」

 キッドは王国の最高権力者に見られているのも構わず、私が左右に振る尻尾を追いかけ続けていた。

「全く妾を無視して楽しそうに、羨ましいのう」

 今いるところは宮殿の広場。クインクの昼休憩に合わせて会いにきていた。

「仕事まだ残ってるんですか」

「うむ。この大陸を埋め尽くすほどのな」

「そんなに……」

「嘘じゃよ。でも心にのしかかる公務が多いのは事実じゃ」

 クインクさんは視線をこちらに据える。

「仕事はどんな事を?」

「やれ街道のオーガの討伐、やれ王国に迫るオーガの大群の討伐、やれ帝国への侵攻等々、流血沙汰ばかりじゃよ」

「大変ですね」

 会話の合間にキッドの笑い声が挟まる。

「こんな地位誰かにやって、子供のように無邪気に遊びたいのう。キッド、これキッドや」

 クインクさんに呼ばれて、キッドは私の尻尾を追うのを止めるが、その目は尻尾に注がれていた。

「モモの尻尾を追うのは楽しいか」

「うん!」

 その一言でまた私の尻尾を脇目も振らずに追いかける。

「すいません。朝からずっと夢中で」

「ズルい!」

「わっ、ク、クインク?」

「妾も混ぜるのじゃ」

「え、えぇ〜?!」

 私の尻尾を少年と女王が全速力で追いかける。世にも珍しい光景が繰り広げられていた。

「こりゃキッド。そのモフモフは妾のじゃ」

「違う! 僕のだもん!」

 私の意見は全く聞いてくれそうにない。

 咳払いが二人の足を止める。

 クインクの呟きで誰がやってきたか分かった。

「あっ……ハルナイト様」

「パパ……」

「任務から帰ってくれば、陛下。一国の主が何をしているのです」

「すまぬ」

「あのハルナイトさん。私が止めなかったのがいけなかったんです」

「キッド。今日の日課は終わらせたのか」

「ま、まだです」

 あからさまにキッドの笑顔が消えていく。

「ハル、んんっ……騎士殿。そんなに声を荒げるな。怖がっておるぞ」

「陛下。甘やかさないでください。キッド、今から特訓に行くぞ。では私達は失礼します」

 手を引かれながらの去り際、キッドは涙目でこちらを見ていた。

 声をかけようとしたところでクインクに止められる。

「追うな。彼等には彼等の事情があるのじゃ」

「でも……」

 はしゃいでいたキッドの暗い表情は、見ているこちらが身を刻まれるようだった。

「まぁ話を聞くのじゃ。ほら」

 促されて腰を下ろす。

「騎士殿は我が王国最強の矛。魔法使いで右に出るものはおらん。そんな彼の息子は周囲からどう見られる?」

「えっと、お父さんのような魔法使い、ですかね」

「うむ。しかし、しかしな。キッドは魔法が使えないのじゃ。正確にはうまく制御できないと言った方が正しいかの」

 外からきた私でも人間にとって魔法使いが重宝されていることは痛いほど伝わる。

「妾達、人は等しく魔法が使える。妾や騎士殿は例外じゃが、魔法を使える事は当たり前。逆に魔法を使えない人間は……」

「同じ人間とは思われない」

 魔法が使えないキカイビトや私達のように。

「だから騎士殿は厳しく当たるのじゃ。その気持ちが分かるから妾も強くは言えなくてのう。早く解決すればいいのじゃが」

 私達は小さくなっていくハルナイトさんとキッドの背中を見ていることしかできなかった。

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