異世界争乱編 第二十九話
「陛下! 大丈夫ですか」
「気配を消して声を出すでない。まったく……」
クインクは顔を隠すように髪を持ち上げた。
「配慮が足りず申し訳ありませんでした。失礼します」
ハルナイトがクインクの足元にしゃがみ込む。
「な、何をしておる!」
「陛下の落としたカップを拾っているのです。動かないでください」
落ちたカップを探る手が足首の周りで動き回っているせいか、クインクの顔がどんどん真っ赤になり、私に助けを求めるように潤んだ瞳を向けてきた。
「ありました。よかった割れてはいないようです」
「騎士よ。それは洗いに出しておいてくれ」
「畏まりました」
「で、何用じゃ」
「そろそろ日が暮れます。肌寒くもなってきますので、これくらいでお開きにしたらどうでしょう」
私は言われて初めて気づいた。
太陽は三分の二が沈んでいるのに、テーブルの周りにいるクインクやハルナイトさんの姿が昼のようによく見える。
光源はトゥルゥルのライトだった。
「二人がとても楽しそうでしたので、お手伝いさせてもらいました」
私達の周りがだいぶ暗くなった頃、町の方から鐘の音が聞こえて来る。
「なにかの合図ですか」
「町に火が灯る合図じゃ。ほらあれを見よ」
宮殿の開いている窓という窓が内側から輝く。焚き火の揺らめくような輝きとは違い部屋全体を均一に照らしていた。
宮殿の周りの家々や街灯にも明かりが灯り、手強い夜の闇を退けていく。
「すごい。町全体に電気が通っているんですね」
「よく知っておるのう。王国には賢者から授けられたライフ・クォーツで動く発電所があるのじゃ」
トゥルゥルが話に入って来る。
「それは奇遇です。私の動力源もライフ・クォーツから流れるシャインエネルギーで動いています」
ハルナイトは形のよい顎を撫でる。
「ほう、それは素晴らしい」
私は町の明かりに言いようのない懐かしさを覚え、夜に開花したひまわり達に目を奪われていた。




