地球脱出編 第五話
「初めまして。アメツチ・シカク君」
女医が口を開く度に鋸のような歯が鈍く光を反射する。
「シカク。ワタシは君をスカウトしに来た」
何を言われるのかと思えば、一体どういうことなのか理解できない。
「スカウト? 妹の治療費の話ではないんですか?」
「ん? ワタシはスカウトしに来たんだよ」
「あの、何の事かサッパリ分からないんですけれど……」
もしかしたら部屋を間違えたのかもしれない。そう考えて踵を返そうとすると……。
「君はワタシが探していた逸材なんだ。是非ワタシの組織に来て欲しい」
モノクルをかけた女医が左手を差し出す。
「逸材、僕には何の才能もありません。人違いだと思うので失礼します」
何か言われる前に退室しようとするも、女医の言葉に動きが止まる。
「戦争を終結させたくないかい」
女医は白衣のポケットからタバコを取り出し、ギザ歯で咥えたまま器用に続ける。
「君の両親を殺し、妹さんに死の危険を味あわせた戦争が憎くないかい」
「憎い、憎いですよ。家族を殺されて日常が破壊されたんだ。終わらせられるものなら終わらせたいですよ!」
「その言葉を聞きたかった!」
女医は拍手をしながら口に咥えたタバコをバリバリと噛み砕く。
「いいよ。君の怒りとワタシの作り出した技術があれば必ず目的を達成できる!」
女医はもう一本タバコを咥え、あろうことかシカクに一本差し出した。
「未成年に渡すんですか」
「これはタバコじゃない。それを模したチョコだよ」
女医は口に咥えた二本目を噛み砕いて見せた。
「でも今は食べたい気分じゃないので遠慮します」
「そうか。美味しいのに」
三本目を咥える女医は少し不満げだったが、すぐに歯を見せる。
「すまんすまん。脱線してしまった。で、ワタシのスカウトを受けてくれるのかな」
「僕に何ができるというのですか。一学生の僕に」
「今のままじゃ無力。だからワタシの技術というチカラを与えるんだ。もちろん無償でね。いや援助もしよう」
女医は右手をポケットの中で忙しなく動かし続けながら話す。
「君の妹さんの治療費。それを肩代わりしよう。更に今後の生活と命の補償もオマケにつける。どうだい?」
魅力的すぎる提案に首が縦に動きそうになる。
「そこまでして僕を引き入れたいんですね」
「うんうん。ワタシは君を気に入った。つまり一目惚れだよ。さあ答えを今すぐ聞かせてくれ。イエスかノーか」
「……あなたのスカウトを受けます。その代わり嘘をついたり僕を騙したときは真っ向からあなたを否定しますので、そのつもりで」
「いいよ。その強気なところも最高、ゾクゾクしちゃうな。君はワタシのモノになったから新しい名前が必要だね。もう考えてあるんだ。君は今日からクヴィンだ」