異世界争乱編 第二十七話
「クインク。彼はトゥルゥルというんです」
少女で女王であるクインクが歩いて近づき、口を開けて見上げていた。
「初めまして。女王陛下」
トゥルゥルはしゃがみ込んで目線を合わせた。
「私はトゥルゥル。陛下にお会いできて光栄です」
「イズニオモ・クインクじゃ。よろしくのう。それにしてもトゥルゥルよ。何処でそんな言葉を覚えたのじゃ?」
「修復したメモリから、相応しい言葉を選びました」
「よく分からんが、賢いということは分かった。モモにも言うたのじゃが、妾の事はクインクと呼んでくれ」
「分かりました。クインク」
嬉しそうに口角を上げて何度も頷くと、吸い込まれそうなほど大きな瞳が私を捉える。
正確には私の頭部に。
「あ、あのどうしました? もしかしてゴミがついてますか」
「……のぅモモや。触らせてくれんかのう」
「へっ」
「な、なんじゃこりゃ。この垂れ耳のフサフサ感。堪らん」
私の後ろにいるクインクはきっと興奮して顔が真っ赤になっているのだろう。
「耳だけじゃない。髪の毛もフワフワ。空気でできておるのか?」
私はされるがままになっていたが、コクも好きだった耳や髪を褒めてくれるのは正直嬉しい。
「そ、それにこの尻尾も!」
無意識に揺れ動いていた尻尾を掴まれ、王国の広場に私の変な声が響き渡る。
「今日は女王に即位して数千年の中で一番嬉しい日になりそうじゃのう」
「それはよかった……今、数千年って言いましたか?」
クインクとトゥルゥルが同時に私を見る。
先に尋ねてきたのはトゥルゥルだ。
「何か驚くような事がありましたか?」
「だって、数千年生きてるって」
「正しくは女王になって数千年じゃ」
「でもどう見たって女の子にしか」
「十歳くらいの時に妾にしか使えない力を見出されたんじゃ」
クインクは爪で額のティアラを引っ掻くと、無理矢理話題を変えた。
「なあ。二人の事を教えてくれ。外の事はハルナイト様や兵達の報告でしか知らんのじゃ。これでは女王として恥ずかしい」
トゥルゥルは私にバトンを渡すように手を動かす。
「私は目覚めて数日です。話すような事が特にないのが残念です」
「ならモモ。モモの暮らしを教えておくれ、あっすまん。お主の仲間達は妾の兵達が……。何千年生きてても妾は子供じゃのう」
私はクインクの両手を握る。
「いえ聞いてください。生きていた彼らを知って、少しでも覚えてくれると嬉しいから」




