異世界争乱編 第二十六話
子猫が伸びをするようなヒールを履いた少女は、真っ直ぐ私の方を見たまま階段を降りてきた。
ハルナイトさん達は相変わらず頭を下げたままだ。
少女色白でプラチナブロンドの髪。白に染め上げられた中でエメラルドの宝玉が額に張り付いているように強く目に焼き付いた。
「そなたがモモか」
「は、はい! モモです」
思わず背筋が伸びる。
「おい精霊なし。頭が高い。頭を下げろ」
摂政の強い口調に反射するように頭を下げようとすると、
「客人に失礼な態度を取るな」
「はっ?」
「妾の言葉を聞き逃したのか。客人に失礼な態度を取るな」
「は、ははぁっ!」
摂政は床につくくらい深く頭を下げる。
崩れないようにしっかりとセットされた巻き髪を軽やかに揺らしながら、私の前に立ち見上げてくる。
「彼等の無礼を許してほしい。ここでは落ち着かんじゃろう。妾の部屋へ行くとしよう」
何か言いかけようとする摂政を視線で制すると、私の手を引っ張る。
「待ってください。トゥルゥルを一人にはしたくありません」
「そうじゃ。トゥルゥルとやらも一緒に……は無理か」
少女は外で立ち尽くすトゥルゥルを見る。その視線は興味こそあれ、他の人間と違って敵意のような鋭い雰囲気は感じなかった。
何かを思いついたのか、音が出るほどの勢いで手のひらを合わせる。
「今日はいい天気じゃし。中庭で話すとしよう」
少女の一声ですぐさま広場にテーブルと椅子二つが用意された。
「さあ、座ってくれ」
「はい。失礼します」
一応お尻をはたいてから椅子に腰掛ける。
テーブルの中央に置かれたポットを少女自ら持ち上げ、私のカップに注いでくれた。
「ありがとうございます」
一口含むと、柔らかな香りが鼻に抜け緊張が和らいでいく。
「そうじゃ。妾の名前を教えてなかったのう。妾はイズニオモ・クインク。この王国を統べる役目を授けられた者じゃ」
「じゃあ女王様と呼んだ方がいいですね」
「そうじゃなくて、クインクと呼んでくれて構わん」
「ええっ! だって女王様って王国で一番偉い人じゃないんですか」
「その通りじゃ。妾は王国で一番偉い。これはつまりどういうことか分かるじゃろ?」
「えっとごめんなさい」
「慣れない場所で考えろというのが無理な話じゃったな。つまりじゃな。妾が好きにできるのは王国の領土だけ。これで分かるじゃろ」
「つまり、大陸全土で好き勝手できない。ということですか」
「うむ。モモが妾に頭を下げる必要も敬う必要もない。だからクインクと呼んでくれ」
クインクはここで耳打ちしてきた。
「これはお願いじゃ。ここは堅苦しくていかん。だから心を許せる存在になってくれると嬉しい」




