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異世界争乱編 第二十三話

 私は焚き火の火をじっと見つめていた。

 すぐに出発するはずだっただが、急に疲労感に抗えず膝から崩れ落ちてしまったのだ。

「調子はどうかな」

 焚き火を作ってくれたハルナイトが湯気の立つ器を手渡してくる。

 それはただの白湯だったが、今はその熱さが心地よい。

「ありがとうございます」

「困っている人を助けるのは騎士として当然の役目さ」

 隣に座られて体が強張る。

「何か作れればいいのだが、料理は妻に任せっきりなんだ」

 袋から干し肉を取り出すと、私に一つくれる。

「ハルナイトさんにも恋人がいるんですね」

「ん? 恋人というより、結婚してるから妻なんだ」

「結婚、ああ結婚式の事ですね。生涯を誓い合う儀式」

 ハルナイトは興味を持ったのか更に手が触れるくらいに距離を詰めてきた。

「君達、獣人達にはそういう文化はないのかい」

「はい。結婚という言葉は生きてきて一度も。村のみんなも、そういう式はやってないです」

「でも、恋人とかはいなかったのかい」

 コクを思い出すと胸が張り裂けそうになる。

「いました。目覚めてからずっと私を護って愛してくれた女性が」

「女同士で……とても仲が良かったんだね」

「はい。どんな時も一緒でした。でも私の為に命を……」

 抱えていた器に水面が立った。

「取り返しのつかない事をしてしまい、本当にすまなかった」

 差し出されたハンカチを借りて目元を抑える。

「私も妻とは十年以上の付き合いでね。世界で最も愛する一人であり、私を救ってくれた恩人でもあるんだ」

「救ってくれた?」

「小さい頃は本当に荒んでいてね。その泥まみれの生活から救ってくれたのが今の妻なんだ。私にとって光のような存在だよ。おっと惚気すぎるかな。妻の事になるとどうしても止められなくなってしまうんだ」

「でも二人の仲の良さが伝わってきました」

「王国に着いたら是非息子共々会ってくれ」

「はい!」

「夜明けまであと六時間です。そろそろ休みましょう」

「そうした方がいい。私とトゥルゥルが見張っているから、安心して休みなさい」

「二人ともありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて」

 トゥルゥルに手を添えられながら横になる。目を閉じると直ぐに眠りの世界へ潜っていった。


『初めまして』

『お、おはようございます』

『貴女の名前は』

『分かりません』

『私が決めてもいい。そうね……フワフワの桃色の髪、モモはどう』

『すごくしっくりきました』

『どう、いたしまして』

『あの、あなたのお名前は』

『ないの。よかったらつけてくれない』

『黒い髪がとても素敵だから……コクってどうですか!』

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