異世界争乱編 第十八話
コクと最後のお別れを済ませ村を後にする。
どこを目指すかなんて決めていない。ただ「生きて」と言う言葉に従って歩いていた。
足がもつれ転ぶ。
地面に手をつくと、不意に何もかも投げ出したくなる。
眼球が無意識に動いて探し回る。
折れた木の枝だ。折れたところは剣山のように無数の突起が突き出ている。
それを両手で持ち首元に当てた。
力を込めればすぐに終わる。楽になる。コクと一緒になれる。
頭の中で無数の私が囁いた。
そうだ。コクと離れ離れなんて。
『生きて』
力を込めようとすると、コクの遺してくれた一言が無数の弱気な私を消し飛ばす。
「嫌だよ。生きていたくないよ。コクのところに逝きたいよ」
木の枝を捨てて、その場で蹲り泣きじゃくった。
泣き疲れて眠っていたのか、気がつくと途中の記憶がない。
何も考えずに立ち上がり、機械的に足を動かす。
食べもせず飲みませず歩いていると、足音が聞こえてきた。
それは人間よりもはるかに大きな音だ。
顔を上げると、トゥルゥルが近づいてくるのが見えた。
全てを失った私にとって唯一の見知った存在に膝の力が抜ける。
「モモ。どうしたのですか。コクとはぐれてしまったのですか」
各部が黒く焦げたトゥルゥルに体を支えてもらいながら、一部始終を話す。
「……みんな死んでしまったのですね」
トゥルゥルは私を抱き上げると木陰に座らせてくれた。
落ち着く暇もなく、遠くから複数の足音が迫る。
「ここに隠れていてください。彼ら、いえ敵は私が何とかします」
ここで初めてトゥルゥルが拳を固めていることに気づいた。
「待って。何するの。お願い、置いていかないで」
「置いていきません。私に任せてください」
トゥルゥルは全速力で人間達の方向へ駆け出す。
複数の爆発音の後に鈍器が叩きつけられるような音が何度も続き、地面が殴られる度に男達の悲鳴が続いた。
爆発音も悲鳴もなくなったのに、叩きつけられる音だけが断続的に続き湿った水音が混じる。
どうしても気になって恐る恐る見てみると、トゥルゥルが拳を振り下ろしていた。
拳が振り下ろされる度、鈍い打撃音と湿った音が発せられる。
「トゥルゥル?」
声をかけても気づくそぶりがない。
止めなければならないと言う思いが強まり、ほぼ四つん這いの状態で近づいて声をかける。
「トゥルゥル、トゥルゥル!」
やっと気づいてくれたようで、拳が止まる。
「もう少しで終わりますから、待っていてください」
拳を振り下ろす。上げられた時、何か粘っこいものがへばりついていた。
「もう終わってる。終わってるからやめて」
「そうですね。この人間の生体反応は停止しています」
辺りを見回すトゥルゥルの両拳は血塗れになっている。
「付近に生体反応はモモだけです。お待たせしました。敵は全滅です」
「トゥルゥル……」
「ご心配なく。私は無傷ですよ」
腕の黒焦げを血塗れの手で擦ると、コゲが取れ赤と白のマダラ模様になった。
「たった今コンパスの修復が完了しました。これで方角が分かります。どこか行きたいところはありますか」
私はある場所を思いついた。
「村の西に大きな湖があるの。西の方角は分かる?」
「もちろん」




