異世界争乱編 第十四話
「トゥルゥル。待って村長さん達とはぐれちゃう」
「今は我慢してください。逃げる方が先です」
トゥルゥルは森をかき分けながらも、私とコクを決して離そうとしなかった。
機械の指は内臓を圧迫しない強さで私のお腹をしっかりと固定している。
「でも、あのままじゃみんな殺されちゃう」
「モモ、落ち着いて」
隣で同じようにお腹を掴まれているコクが鋭い声を発した。
「村長達はミングがいるから何とかなる。でも一纏めになったてたら、逃げ切れるものも逃げられない」
ミングさんは大人しいけれど、いざとなったら積極的に行動するのを思い出す。
「うん」
私達を運ぶトゥルゥルが警告を発する。
「センサーが後方から近づいてくる生命体を感知」
「村長さん達?」
「いえ、数は五人。識別は人間です」
コクはトゥルゥルに掴まれながら、器用に背中の弓を取り出す。
「トゥルゥル。全速力で走って。追いつかれたら、死ぬ」
コクの言葉に更に足が早くなる。
私は押し付けられるように迫る小枝を、自由な手を使ってなんとか防ぐ。
トゥルゥルの背後で灼熱の光が生まれた。
振り向くと炎が地面を焼き周囲の草を焼き尽くして消える。
一定の範囲を燃やし尽くし数分で水もかけずに鎮火する。間違いなく魔法。殺意で凝固された炎の魔法。
コクが炎が来た方向に向かって矢を放った。
「炎の魔法に当たらないで。掠っただけでモモが焼け死ぬ」
トゥルゥルは速度を緩めず直進。正面に大木があれば、それを左右にステップしてかわす。
後方からの炎は直撃はしていないものの、近くに着弾するたびに、熱波が顔を叩いていく。
「この、この。トゥルゥルもっと早く」
珍しくコクが焦っている。村で一番の弓矢使いでも、全く当たらないようだ。
ロボットのトゥルゥルは疲れを知らないからか、次第に後ろからの炎が少なくなり、やがて全く飛んでこなくなった。
「逃げ切れたの?」
後ろを振り向いても、王国の人間らしき姿は見えない。
「いや。奴らすばしっこくて木々に隠れながら撃ってきた。どこかに隠れてるかもしれない」
後ろに意識を集中していたので、突然の急停止に体がついていけず投げ出されそうになる。
「なんで止まるの」
コクが前髪をかきあげながら抗議する。
「前方の木から血液が流れています」
血液? 見ると、木が上から流れる赤い液体で真っ赤に染められている。
視線を上に上げる。誰かが見るな。と言ったが止められなかった。
両翼を鋭利な刃物で切り落とされたピトンが逆さまに吊られている。
迫り上がる胃液を止められないように、私の喉は悲鳴を延々と吐き続けた。




