異世界争乱編 第十三話
「ルフさん!」
声をかけながら近寄ると、強い血臭が鼻をつく。
躊躇うことなく駆け寄ったキュウさんが体を診ている。その両手は、みるみる真っ赤に染まっていく。
「ぐっ、みんな逃げろ」
「喋らないで〜」
手当てされている間も、ルフさんは血を吐きながら口を動かすのをやめない。
「奴らは……待ち伏せしている。なんとか逃げてこれたが、すぐに……やって来るぞ」
ルフさんは息も絶え絶えに、私の腕を掴んだ。
「逃げろ。王国の奴らはすぐそこまで、きて、る」
そこまで言い終えると、流血と一緒に全身の力が流れ出てしまったみたいに、動かなくなってしまった。
キュウさんは懸命に蘇生を施していたが、命の消失を押しとどめることはできなかった。
「……悲しむ前に逃げなければならん」
「彼を置いていけません〜!」
キュウはルフを強く抱きしめる。
そんな彼女にオツルさんが寄り添う。
「ここにいては殺されてしまいます。今は逃げて、落ち着いたらルフを弔ってあげましょう」
オツルさんは涙を流すキュウを落ち着かせるように優しく抱きしめる。
コクが村長に質問する。
「これからどうしますか」
「……南へ向かうのじゃ。最悪、黒黒砂漠に行くことになるが、生き延びるためには仕方ない」
私を含めてみんなの顔が一様に暗くなる。南の過酷さは身に染み付いている。戻りたくないのは村長含め皆同じ気持ちだろう。
オツルさんによって気持ちが落ち着いたのか、キュウさんが手を引かれて立ち上がる。
二人が列に戻ろうとしたその時、肌を焦がす熱の塊が近くの地面に着弾した。
それは生きているみんなには当たらなかった。
けれども命を失い立ち上がれないルフさんの遺体に命中する。
遺体は炎に舐めとられ、一瞬にして原型を無くしてしまう。
声にならない悲鳴が私の鼓膜を叩く。
キュウさんはオツルさんの静止を振り払い、そのままルフさんを飲み込んだ炎に飛び込んでしまった。
「逃げろ!」
コクの声で我に返ると、突然体を掬い上げられた。
「トゥルゥル?」
「逃げます。しっかりと捕まっていてください」
右手で私。左手でコクを掴んだトゥルゥルが全速力でその場を離れる。
一瞬だけ見えた村長さん達は、私達とは別方向に逃げていく。
その後ろから無数の炎が猟犬のように追い縋っていた。




