異世界争乱編 第九話
「トゥルゥル。待ってトゥルゥル」
走って追いついたところで声をかける。
トゥルゥルは草木などを障害物と思っていないようで、草むらに踏み入り引っかかった枝をそのままに、自分より大きな大木だけを避けてほぼ直進していた。
「モモ。何か用でしょうか? 安心してください。貴女達の村を見つけても近づきはしません」
「違うの。こっちは南の方角じゃないの。こっちは北なの。だからこのまま進んでも目的地にはつけないわ」
トゥルゥルはしばらく沈黙。
「困りました。今調べたところ、コンパスも修復が必要なようです。でも教えてくれてありがとうございます」
元きた道を戻ろうとするトゥルゥルに声をかけて止める。
「私達の村長さんは村一番の物知りなの。だから相談してみたらどうかな? それに体の調子も悪いんでしょう。少し休んでもいいんだよ」
「そんな手厚い歓迎。私にはもったいないです」
「いいからモモの好意を受け取って」
歩いて追いかけてきたコクが追いつく。
「コク。貴女は私を警戒しているのでは?」
「してる。でもモモが心を許した存在に悪い奴はいなかった。だから信じる。でも変な動きをしたら破壊するからそのつもりでいて」
「二人ともありがとう。同族ではない私に優しくしてくれて。ありがたく好意を受け取ります」
「じゃあ早速行きましょう。あっ飲み水持って行かないと」
湖畔に戻り、水を汲んだバケツを持ち上げると、トゥルゥルが質問してきた。
「水が必要なのですか」
「ええ。今朝火事があって。火を消すのに飲料水を使い切ってしまったの」
「昨日、それは私が空から落ちてきたのが原因ですね」
「気にしないで。悪気はないのは分かってるから」
「いいえ。記録された映像に私の眼下で森に火の手が上がっているのが見えました」
トゥルゥルは辺りを見回し、空洞ができた倒木に目をつけたようだ。
それを両手で掴むと湖の方に歩き出す。




