異世界争乱編 第七話
先に動いたのはコクだった。
「やっぱり魔人。でもこの金属の光沢はオーガに見える」
弓を構え矢を引き絞ろうとするが私を助けたときか、水を浴びた時に弦が切れてしまったらしく、矢を逆手に持って威嚇する。
コクの後ろで見ていると、金属の卵は両手で体を引きずるように動き出す。私達の事は眼中にないのか無視して体を引きずり続けていた。
向かう先は東の方角、私達の村がある方だ。コクも行き先に気づいたのか卵の前に立ちはだかる。
「それ以上は進ませない」
私には村を襲うようには見えなかった。
「コク。この卵は村を襲いにきたんじゃないよ」
卵に向かって話しかけてみる。
「卵さん。この先には森と私達の村しかないわ」
地面を削る手が私の目の前で止まる。
頭を握りつぶされそうで、最初は恐ろしかったが、指先についた土を見て、どこかへ進もうとする必死さが垣間見えた。
まだ濡れて土塊だらけの指を自分の指で掴む。
「卵さん。あなたのことを教えてください」
卵が震え、それを見たコクに肩を引かれて後ろに下がる。震えがおさまった次の瞬間に二本の足が生えた。
そして胴体の先端に当たる部分に裂け目が走り上に開く。
現れたのは黒いモニターのよう。そこに二本の光が縦に走った。
卵が体を傾ける。まるで私達を目で見るように。
二本の光が瞬きするように明滅する。
「ロボット……」
私の声に反応して、卵のロボットは二つの目を向けてきた。
「……音声機能、故障。修復中、修復中」
無機質な男性の声が繰り返される。
「修復中、修復中、一部機能不全はあるが対話可能。修復続行」
独り言を呟くロボットに話しかけてみる。
「あの……」
「初めまして。お聞き苦しいでしょうけど許してください」
依然として雑音が混ざっているが、丁寧な言葉遣いで私達と対話ができるらしい。
「あなたは何者なんですか」
「私は……不時着の衝撃でメモリが破損してしまい名前が出てきません」
「魔人かオーガかだけ教えて」
コクが前に出た。
「魔人、オーガ。お待ちください。検索しています。いいえ。私は魔人でもオーガでもありません。貴方達の敵ではない事は保証します」
コクはそれを聞いても、手に持った矢を下ろそうとはしない。
ロボットは自分の胸のあたりに手を当てた。
「私には目的があります。それは……」
「どうしたの」
「メモリ修復中につき、思い出せない状況です」
ロボットの目が眦が下がるように変化した。
「落ち込まないで。ゆっくり思い出せばいいわ」
「ありがとうございます。貴方は優しいのですね。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「いいわよ。私はモモ。隣にいるのが恋人のコクよ」
「ちょっとモモ」
「ごめん。恋人って紹介は変だったかな」
「そうじゃなくて、もういいわ」
「桃色の髪のモモと黒髪のコクですね。よろしくお願いします」
「あなたの事はなんて呼べばいいかしら?」
「正式名称があるのですが、メモリは修復中の為、思い出せない状況です」
「どうしよう」
「モモがつけてあげたら?」
「私が!?」
「それはいい考えですね。是非お願いします」
二人に押し切られ、仕方なく名前を考える。
「えっとじゃあ」
考えているうちに掌の感触を思い出した。
「トゥルゥル。っていうのはどうでしょう。卵形だし、触るととてもツルツルしているので!」




