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異世界争乱編 第六話 

「水汲みに行くだけだから、弓矢なんて持って来なくても」

 背中に自作の弓を背負ったコクは片手にバケツ。片手で私を先導してくれる。

「警戒は必要。あんなに大きくて目立つものが森の真上を通り過ぎた。王国やオーガがいつやってきても不思議じゃない」

 森の西には大陸唯一の大きな湖。火事で使い切ってしまった飲み水をここで補充するため、水際にしゃがみ込んだ。

 バケツで掬う前に水面が揺れる。

 魚が近くを通ったのかな。そういえば釣り好きのルフさんはどこにいるのだろう。と思いながら水を掬っていく。

 先に水を掬い終えたコクが岸を離れる。一人で水を掬っていると、水中からゆっくりと球体が浮かび上がってきた。

 凍った水面がひび割れてハッキリと見えるようになったソレを見て悲鳴をあげる。

「モモ、どうしたの」

 少し離れた場所にいたコクが矢を違えて駆け寄ってきた、

「た、卵。巨大な卵が浮かんでるの」

 指差した先には確かに全長数メートルはありそうな卵があった。

 その卵の表面は磨かれたように滑らかで金属の殻に覆われており、周囲は薄く氷が張っている。

 自分が余裕で入れるてしまいそうな大きさに、最初は絶滅したはずの魔人の卵かと思った。

 けれども、雪のように白い殻を見ているうちに、不気味さは消えていく。

 まるで自分を頼りにするように漂ってくるソレに手を触れると、表面は冷たいのに、内側から生命の温かさを感じた。

「モモ! 離れて!」

 駆け寄ってきたコクに強い力で引き剥がされる。

「変なものに触らないで。凍傷になるかもしれない」

 そう言いながら卵に狙いを定めた。

「待って。この卵は安全だよ」

「なんでそう言い切れるの」

「多分違うと思う。触れた時すごい温かった」

 掌に伝わった感触を思い出すように掌を撫でる。

 信じてくれたのか、コクは弓矢を背中に収めた。

「正体は何? こんな大きな卵を産む動物なんて知らない。もしかしてさっきの火の玉……」

「そうかもしれない! これきっと、流れ星だよ!」

「流れ星って、空の星はこんな形してるの」

「それは違うよ。宇宙の星は重力の影響で殆ど球体だよ」

「よく知ってるね」

 一瞬制服を着てテーブルに座って授業を受けている自分が見えた。

「えっだって、なんで知ってるんだろう……」

 疑問が頭をもたげる前に、卵が動き出す。

 波もないのに金属の殻は動き始め、岸にぶつかっては戻され岸にぶつかっては戻されるを繰り返す。

「どうしたんだろう。もしかして、湖の水に濡れるのが嫌なのかな」

 しゃがみ込むとコクに止められる。

「近づかない方がいい」

「大丈夫。でも万が一のことがあったら助けてね」

 こちらに流れてくる卵に手を差し伸べた。

「こっちだよ。そのまま進めば岸に上がれるよ!」

 流れてくる卵と私の指先が触れた途端、道標を見つけたように卵に変化が起きる。

 殻の一部がハッチのように開き、中から私の身長はありそうな長い腕が二本伸びてきた。

 コクに飛びつかれてその場を離れると、私がしゃがんでいた場所に大きな黒い手があり、指先がめり込むほど地面を掴む。

 卵は腕力を利用して湖畔に上陸。私達は抱き合った姿勢のまま飛んできた水を浴びてしまう。

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