異世界争乱編 第五話
「コクは願い事ないの」
村が眠りについた頃、二人っきりのテントで質問する。
「願い事?」
「うん。ピトンみたいに空を自由に飛びたいとか」
「ないよ。だってもう叶ってるから」
「えっなになに。教えてよ」
「それはね……」
私の唇に柔らかいものがぶつかる。
「モモが一緒にいるから」
今度は私からキスをすると、二人揃って寝床に潜り込んだ。
『ワープ終了が近づいてます。すぐに艦を制御してください』
『あなた。眠っている私達に何をしたの』
『すぐに艦を制御してください。衝突の危険があります』
『こんな耳、こんなロバみたいな耳知らない。私の体を元に戻しなさい。今すぐに!』
『今すぐ艦を制御してください。繰り返します。今すぐ艦を制御––』
頭上から響く轟音で無理矢理現実に引き戻された。
その音はまるで世界の破滅のように空気を切り裂き、村の方へ距離を詰めてくる。
一人だけのテントから外に出ると、コクを含め村のみんなが外に出ていた。
全員が見上げる視線に釣られてみると、声も出なくなってしまう。
空が燃えるように赤い。
その元凶は燃え盛る火の玉だ。
雲に穴を開けた火球は、火の粉を撒き散らしながら森の上を通り過ぎる。
あまりの熱さと勢いに思わず頭を下げてしまった。
村を通り過ぎた火球は木々で遮られて見えなくなると、少し経ってから爆発音と立っていられないほどの揺れが襲ってくる。
よろけたところをコクに支えてもらい事なきを得た。
振動が収まると鼻が焼ける臭いを嗅ぎ取る。
見ると火球が撒き散らした火の粉によって、村のあちらこちらで火の手が上がっていた。
火球の正体は後回しにして、みんなで協力して火を消していく。
飲料水を直接かけ、濡らした布を被せたり、砂をかぶせたりしてなんとか村が燃え尽きるのは防ぐことができた。
怪我人のミングも軽い火傷くらいだったのが、不幸中の幸いだった。
テントを見に行くと、奇跡的に周りに焼け跡はあったが、雨風を凌ぐには問題なさそうだ。
「どうしましょう〜。火事は治まったけれど〜、飲み水がなくなってしまったわ〜」
「じゃあ、私が水汲みに行ってきます」
「ん……俺が行こう」
「ミングさんは火傷してますから、休んでいてください。じゃあキョウさん。行ってきます」
「お願い〜。でも無理しないで持てる分だけでいいからね〜」
煙を上げる村を出ると、後ろから足音が近づいてきた。
「モモ」
「コク。ついてきてくれるの」
「当たり前。モモを一人にさせない。死ぬまで一緒なんだから」
そう言って伸ばしてくれた手を私はしっかり握りしめた。




