異世界争乱編 第四話
「俺、もう少し流れ星を探してみる」
そう言い残したピトンと別れ、私達の村へ帰ってきた。
あまり人が近寄らない森の深くにあるその村は私達〈ケモノビト〉だけがひっそりと暮らしている。
自分達の故郷に近づくと、薪を割る音が聞こえてきた。
村の入り口では、大猩猩の如き逞しい上腕の男が薪の一つを両手で持ちパンを割くように軽々と二つに裂き、彼の後ろには身長より高い薪の塔が出来上がっていた。
「ミングさん。お疲れ様です」
「ん……おかえり」
ミングは薪の塔を紐で括り肩に担いでその場を離れた。
「あら〜おかえり〜」
「ただいま、キュウさん」
キュウさんはここに住む全員の食事を作るのが趣味で、手に持っているバスケットからも美味しそうな匂いが漂ってくる。
「お食事、どこに持っていくんですか」
「コウラ村長のところよ〜。それが終わったらすぐにお昼作るから、待っててね〜」
「楽しみにしてますね」
嬉しそうに牛耳を動かすキュウと別れる。
村の家は木の穴を利用したものや、木の枝と葉っぱで作り上げたテント。
私とコクの家はテントだ『二人で住むには少し小さいんじゃない』と彼女に言ったら、こう返された。
『いつでも体温感じていたいから』
夜になって、私達は村の広場へ招かれた。
集まったのは、私達を含めて先ほど帰ってきたピトンとミングとキュウ。
上座にいるのは、一日の殆どを眠って過ごしているコウラ村長と、彼に寄り添う鶴のように気品高い女性オツルさん。
キュウが作ってくれたシチューで体も心も暖まっていると、村長が話しかけてきた。
「……二人とも流星を、見たそうじゃな」
「はい。あの流れ星に何かあるんですか」
「……ぐー……」
「コウラさん」
オツルさんに揺り起こされて会話を再開する。
「……ん? おお、すまん。綺麗だったか?」
「えっ、はい流れ星すごい綺麗でした」
「村長。流星は願い事叶えてくれるんだろ。俺も見たかったなー。明日も探しにいくか」
「まぁ〜そうなの〜。私は沢山の食材が欲しいって願っちゃうわ〜」
ピトンはキュウさんにおかわりをもらうと、食べながら問いかける。
「キュウさんの料理が腹一杯食べられるなら、超幸せだな。ミングは何願う?」
ミングは指より細いスプーンを食べるのを一旦停止して、たっぷり時間をかけて答えた。
「ん……誰も殺し合わない世界」
「そんなの無理だよ。人間の奴ら、俺達を見たら問答無用で殺しに来るんだから」
私は場の空気が重苦しくなったのを感じ、話題を変える。
「ピトンは何を願うの?」
「決まってんだろ。自由に空を飛ぶ事だよ。これに尽きる」
「ふふ。ピトンらしい」
笑いに釣られて、シチューを囲むみんなが笑う。
その中でコウラ村長が表情を曇らせているのが、喉に小骨が引っかかるように気になった。




