異世界争乱編 第二話
小鳥の囀りが私の目覚まし時計。
「あれコク?」
葉っぱのベッドの上で体を起こし、目を擦りながら愛する恋人の名前を呼ぶ。
何度読んでも現れる気配はない。
裸のままでは探しに行けないので、その辺に脱ぎ捨てた服を着て、仮の宿にした木の穴から出た。
天気は晴れ。気持ちの良い日差しに目を細める。
外に出ると、私の鼻が新たしい情報を捉えた。
微かな血の匂い。それが段々と強くなっていく。
匂いの方を見ていると、草むらが音を立てて揺れる。
私は怖いという感情はなかった。血の匂い以外に、大好きな匂いを的確に捉えていたからだ。
草むらから出てきたコクが、意外そうな顔で首を傾げる。
「あれ、モモ」
「狩りに行くなら、一言言ってよ」
「言ったよ。でも起きなかった。キスしても起きなかったから、そのままにしたんだ」
「だからって、一人にしないで」
「甘えんぼさん。じゃあ今度は起きるまでキスしてあげる」
「そ、そういう事じゃなくて!」
私のお腹が不毛な痴話喧嘩を中断させた。
「朝食。すぐ作るよ」
コクは手に持った兎を見せた。
朝食を食べ、焚き火の後始末を終えてから村に戻ることにした。
二人で手を繋ぎ、コクが先導して森の中を進んでいく。
裸足で踏み締める土の感触と落ち葉の心地よい音。木漏れ日からの優しい日の光を全身に浴びながら、恋人と同じ時を過ごす。
私は前を行く艶やかな黒髪に見惚れながら足を止めた。釣られてコクも足を止めて振り返る。
「どうしたの」
「何だろう。すごく幸せだなって思っただけだ」
「そう。じゃあキスしよ」
「な、何でそうなるの!」
「モモの幸せ。お裾分けして」
顔を真っ赤にしながら頷くと、コクの顔が迫る。
恥ずかしくなって目を閉じると、恋人の甘い匂いが強くなっていく。
「おおい。モモ、コク!」
空気を叩くような激しい羽ばたきが私達の空気を台無しにした。




