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地球脱出編 第二十一話 

『ブースター装着するからジッとしてろよ。もしズレたら』

 ティンカーベルの言葉通り動かないでいると、バックパックと重武装ブースターがドッキングする。

『おし。接続完了。はい次ー』

 全員が背負ったブースターに燃料がケーブルを通じて給油されていく。

 準備が整ったところでメインスラスターを点火。火がついたブースターは給油ケーブルを引きちぎるようにマイホームを後にした。

 四機のデュラハンの目的地は月。

 月にはクレーターを利用した都市の他に政府軍が管理する二つの軍事工場がある。

 そのうちの一つは国家軍に占領され、約十年間工場を占領されないようにお互いの部隊は睨み合いを続けていた。

 長い導火線についた火が爆弾に到達するように、両軍は前進し戦闘を開始したのだ。

 月へ向かっている途中、ウンチクから通信が入る。

『みんな急いでくれ。どちらが勝っても負けても困る。工場が占領されるのは不味いんだ』

「工場で何が製造されているか知っているんですか」

『……知っている。だが完成までは言えない。一つ言えるのはこれが戦争を終結させるに足る影響力を持つ。それだけ伝えておく』

「それだけ聞ければ十分です」

 月の表面で何度も光が生まれては消えていく。それは確実に誰かの命が消える輝きだった。

 視界に敵の集団を捉える。政府軍も国家軍も入り乱れての白兵戦が繰り広げれていた。

 二つの勢力の敵兵にロックオンしブースターに装着したミサイル四発を同時発射する。

 四発のミサイルは腹に収めた小型ミサイルをばら撒き、四十発のミサイルが気付いてない敵兵達の命を奪う。

 ブースター左右のサブアームが展開し、付近の敵に自動で照準を合わせロケットランチャーを撃ち込む。

 月上空ではドゥーアの狙撃が双方の戦闘機を撃ち落とし、先に地上に降りたトリーアとクヴァルはショットガンを乱射し巨大な拳で戦車を投げ飛ばす。

 ロケットランチャーの弾が切れ、ブースターの燃料も残り少ない。

 背中とのドッキングを解除して地上に降りる。

 制御を失ったブースターは勢いそのまま墜落し、その地点にいた敵兵を巻き込んで自爆した、

 着陸と同時に両手のガトリングを斉射。特に狙いをつけなくても、撃てば誰かに当たる状態だ。

 付近にプラズマ砲弾が着弾した。

 国家軍の後方に蟹によく似た戦車であり重機のケーニッヒ・クロウが背中のプラズマ砲を撃ち込んでくる。

 降り注ぐプラズマの球体を避けながら肉薄すると、巨大な爪のプレスを回避して腹の下に潜り込む。

 両手のガトリングを上に向けて撃つ。APDS弾は柔らかな腹を撃ち破り、中で形を変え、細かな破片となって内部に致命傷を与える。

 ケーニッヒ・クロウは月の大地に腹這いになり、ジェネレータの爆発で消滅した。

 二つのガトリングの弾が尽きたのでパージする。

 銃器はなくなったが、先日手に入れた新技術による攻撃方法を発動した。

 殺到してきた敵兵の銃弾に向けて手を翳すと、その全てが停止した。

 そこだけ時が止まったように弾丸の魚群は月の表面に浮遊。

 星空の光を反射する金色の魚達に、お互いの敵兵達は戦場であることを忘れて見惚れていたせいで、弾頭の先端が自分に向く事に気づくのに遅れた。

 逆進した魚群は自分達を放流した敵兵を貫いた。

 クヴィンは自分の両手を改めて見る。

 前腕には、惑星から採掘された命の結晶ライフ・クォーツが埋め込まれている。

 それに内包されるシャイン・エネルギーが意識を増幅させ、サイコキネシスを発動する事ができるようになっていた。

 しかしロストチルドレン全員が使えるわけでなく、何故クヴィンだけが使用できるのかはウンチクにも分からなかった。

 サイコキネシスの使い方は思ったほど簡単だ。

 動かしたいものを見つめ手を翳して命令する。

(動いて、敵を撃て)

 倒れた敵兵の小銃が一人でに浮かび上がり、クヴィンの敵を狙って射撃を開始した。

 弾切れの銃を捨てて新しい銃が起き上がり、敵兵に攻撃を加えていた。

 センサーが警報を告げた方向を見ると、プラズマ砲弾が降り注ぐ。

 それに手を翳し、発射元のケーニッヒ・クロウに指をさした。

 プラズマ砲弾は従順に言うことを聞いて、元の主人である蟹達を蒸発させる。

 クヴィンは銃弾や砲弾が飛び交うなか、走ることもなく歩いて戦場を闊歩する。

 自分には当たらない弾、当たる弾が手に取るように分かり、音速を超える死神達を掌で弄ぶ。

 当たらない弾はそのままに、当たる弾は軌道を変えて敵に向かうように差し向ける。

 人が死に、爆発が起こり、炎が巻き上がる。

 上空にいるドゥーアには、クヴィンが台風の目に見えていた。

 このまま、一人で双方の部隊を全滅できる。そこまでの全能感と高揚感で酩酊状態になった脳に、冷水が浴びせられた。

『ロストチルドレン。今すぐ戦闘を中止!』

「何故です。ウンチクさん」

 他の三人も事態が飲み込めないようで無線が錯綜している。

 周りを見ると、政府軍も国家軍も耳に手を当てて状況の確認をすることに忙殺されて、戦闘どころではないようだ。

『戦争は、茶番はもう終わりだ。ついに未来へ旅立つ双子が完成したのだから』

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