地球脱出編 第十八話
朝食を摂取しゴミを片付けると、ティンカーベルから着信が入る。
『あんた宛に電話がかかってきているわ。相手はアメツチ・マル』
「ありがとう。こっちに繋いで」
食堂にはトリーアとウヴァルがいる。二人の世界に入り込んでいるが、妹との会話を聞かれるのも気恥ずかしい。
食堂を出て人気のない廊下の壁に頭を向けて着信をとる。
「やあ」
『やあ。じゃないわよ、お兄ちゃん!」
鼓膜が破れるかと思った。
『毎月電話くれるって言ってたのに、今月ももう終わりよ』
「ごめん。忙しくて」
『……私もごめんなさい。戦場にいるのに怒鳴ったりして。でも心配なのは分かってよね』
「分かってるよ。悪いのはこっちだし。ところでマルの方はどうなんだ」
『うん。やっと就職が決まったの』
「そうか何の会社に就職したんだ」
『東北にある繊維工場で働くことになったの。そこで軍の制服を作っているわ』
「そうか……」
妹にも確実に戦争の足音が迫っている。いくらウンチクが保護を約束しているとはいえ、素直には喜べない。
『お兄ちゃん。今月で今年も終わるけれど、帰って来れない?』
自分の掌を見下ろしながら返事をした。
「ごめん。最前線だから休暇を取るわけにはいかないんだ」
『そっか。そうだよね。ごめん、わがまま言っちゃった』
「謝るなって。戦争が終わったら会えるから。それまでマルも無事でいてくれ」
戦争が終結したら、戦死したと偽の報告がマルに届くことになっていた。
足音が聞こえてくる。
「じゃあそろそろ切るぞ。また来月な」
『うん。そうだ! 私、私ね恋人ができたの。すごく優しい女性』
電話が切れた。
「マル。幸せそうで良かった」
「電話。誰からだったんだよ」
頭の上で腕を組んだトリーアが近づいてきた。
見ると、すこしバツが悪そうに鼻をかく。
「悪い。声が聞こえたからつい見に来ちまった」
「ちょうど終わったところだよ。妹だ」
「そうか。オメエも妹いたんだな。なあ両親は生きてるのか」
「いや、戦争初期に戦いに巻き込まれて……な。トリーアの両親は?」
「……おふくろは生きてるか死んでるかも分からねえ。おやじは姉妹を捨てて国家軍の軍人になっちまったよ」
「父親の事恨んでるみたいだな」
トリーアは拳を握りしめる。
「あったりまえだろ。捨てられた姉妹は、自分の体と他人の血肉を糧に生き延びてきたんだ。父親を殺すという唯一の目的のためにな!」
廊下の角からウヴァルが顔を出した。
「つまらない昔話して悪かったな」
眉間に皺の寄っていた表情が、妹が近づく事で和らいでいくのが一目瞭然だった。




