地球脱出編 第十七話
ストークに回収されて移動中、ウンチクから連絡が入った。
『みんなのお陰で、キメラの製造施設が判明した。東欧で放棄されたロケット発射施設が隠れ蓑になっている。データは手に入れたから、後は政府軍の手からキメラを取り除くだけだ』
『ウンチク。今すぐ行く事は許可してくれますか』
『そういうと思ったよドゥーア。ストークに補給物資を積み込んである。ティンカーベル。すぐに取り掛かってくれ』
『はーい。トリーア。あんたのお望みのカスタムパーツもあるわ。今ここで交換する?』
『マジかよ。頼むよ。すぐに交換してくれ』
『ひとつ言っておくわ。アンタ達とデュラハンの神経が一体化しているから、腕部の交換に激痛が走るわよ』
『どれくらいの痛みだ』
『骨が引っこ抜かれるのと同じくらい』
『ウヴァル。お前は帰ってから……』
『心配してくれてありがとう。でも私の機体のカスタムもお願いします』
『分かったわ。じゃあすぐ取り掛かる』
レーザー溶接機が腕の固定を解除し、アームによってデュラハンの腕が引き抜かれる。
無線越しでも双子の姉妹が痛みに顔を顰めているのが容易に想像できた。
それでも二人は暴れることもなく、痛みに耐えている間に新しい巨碗が装着される。
『出来た。装着完了よ』
〈タイタンアーム〉は通常の腕よりも長く太い。指先はつま先に触れそうな長さだ。
『すげえ。これがオレ達の新しい力だ』
二人ともまじまじと巨碗を見つめ、飽きる事なく腕や指を動かし続けていた。
全機の腕に対生物兵器用兵器である火炎放射器が装備された。
深夜に降下し、ドゥーア機の偵察ドローンが上空から廃棄されたロケット施設を観察する。
『廃棄されたと言われているが、各所に火が灯り、電力の使用も確認。ここが製造施設なのは間違いなさそうだ。全機突撃!』
珍しくドゥーアの声に熱が込められていた。
セオリー通りに外部との連絡を遮断し、施設に接近。すると各地下ハッチから迎撃の砲台が迫り上がってきた。
施設の迎撃を左右に避けながら装備しているガトリングのトリガーを引く。
穴だらけの砲台は砲身をダラリと下げたのち爆発四散。
トリーアはタイタンアームで力任せに砲台を引きちぎり、別の砲台に向けて投げつける。
ウヴァルはいつも通り、トリーアの側で隙をカバーしていた。
珍しいのはドゥーア機だ。連装ロケット砲台にレールガンを押しつけて射撃するなど、狙撃銃で接近戦を繰り広げていた。
『こちらドゥーア。施設の防衛戦力を無力化。ウンチク、製造施設への入り口は』
『ロケットの地下格納庫へのハッチが施設への入り口に繋がっている』
『すぐに向かう』
ドゥーアは率先してハッチに向かうとレールガンを贅沢に使って穴を開け、ロック解除したハッチをこじ開けて施設に降りていく。
「ドゥーア。単機じゃ危険だ。トリーアとウヴァルは地上で警戒していてくれ」
ウヴァルはドゥーアの後を追って地下施設に侵入する。
着地すると、一本の通路。元はロケットを移動させるためか、幅は広くデュラハンが二機並んでも行動に支障はない。
通路の壁には液体に満たされたカプセルが隙間なく並べられている。
見上げれば天井は高くカプセルも天井まで配置されているようだが、床の照明では光量が足りていなかった。
カプセルには種々様々な生物が組み合わされた怪物が液体に浸かっている。
全ての怪物の共通点は必ず人間のパーツが組み込まれていることだ。
側には心電図らしきモニターがあり一定のリズムで脈動していた。
通路の突き当たりにドゥーア機が両膝をついていた。その奥には、砂時計のような形をした巨大な装置がある。
ドゥーア機はその手前のコンソールを操作しているようだった。
「ドゥーアさん?」
『やっと見つけたと思ったんですが』
「見つけたって何を探していたんですか」
転送されたデータを見ると一人の女性のパーソナルデータが表示された。
ミア・ベッカーという名前らしいが、クヴィンには全く心当たりがない。
「ミア、彼女は私の姉です」
「パン屋を経営してた、ドゥーアさんのお姉さん」
転送したデータを見ると、重傷を負い入院中に被験体に選ばれた事が記載されている。
「じゃあ、キメラに組み込まれた人間って……」
「私の姉です。庇われて意識を失っている間、彼女は行方不明になりました。医師からは転院したと言われたのですが問い詰めると政府に連れて行かれたと、そこまでは分かったんですが、それ以上は」
「じゃあ、ネバーランドに入ったのは」
「姉を見つけるためです」
施設全体に警報が鳴り響く。
『侵入者を探知。侵入者を探知。施設は孤立中の為、自己防衛手段を発動。キメラを解放します』
『ハッキングの時間稼ぎもここで終わりのようです』
「脱出しましょう」
『ええ。その前に……』
レールガンを全弾撃ち込み、制御装置に複数の穴が開く。
バックパックのサブアームが動き、新しいマガジンがレールガンに差し込まれた。
制御装置の爆風を背中に受けながらクヴィンとドゥーアは全速力で通路を逆走する。
左右の壁に配置されたカプセルが開き、キメラ達が殺到する画はまさしく地獄絵図だった。
距離が離れているキメラをガトリングで撃ち抜き、その弾幕を抜けたキメラを火炎放射器で燃やし尽くす。
後ろからドゥーア機の狙撃のフォローを受け、出口まで到達した。
そこで問題が発生する。地上のハッチは遥か上。迫るキメラ群は通路だけでなく、床や壁を使って近づいてくる。
数が多すぎて照明がかき消され、闇が迫ってくるようだ。
『先に登りなさい』
ロッククライミングの要領で登れそうだが、両手が塞がれては攻撃ができない。
だからと言って、ドゥーアのレールガンでは連射力が低くて威力は高くても捌ききれないのは明白だった。
「僕の機体の方が殲滅戦向きです」
『いいえ。私が巻き込んでしまった。クヴィン君が先に脱出するべきです。さあ、急いで」
レールガンの青い鏃が黒い群体を貫くが、すぐに光は吸収されてしまう。
このまま行けば、ドゥーア機のみならず、クヴィンの機体も群れに蹂躙される。
反撃しようと武器を構えたその時だった。
突然キメラが動きを止める。無数の毒虫と猛獣と人間の眼がドゥーアのデュラハンに注がれていた。
『おい二人とも何してんだ。早くそこから逃げろ』
睨めっこしていたクヴィン達はトリーアの声に正気を取り戻すと、両手足を使って地上のハッチを目指す。
ウヴァル機に引っ張ってもらいながら脱出すると、トリーアは廃棄されていたロケットをハッチに押し込んだ。
『撃つから逃げろ!』
ショットガンから無数のHEAT散弾が発射され、五千度の熱によってロケットの燃料に着火。
地下施設は廃棄されたロケット燃料が誘爆し、無数のキメラと共に大地を揺るがす爆発と炎によって消滅した。




