地球脱出編 第十話
「お集まりの皆さん。ようこそワタシの組織ネバーランドへ!」
ウンチクの持ったクラッカーが乾いた破裂音と共に色とりどりの紙を撒き散らす。
テンションの高いウンチクとは対照的に集められた方は静かだ。
「なんだよー。ちっとはリアクションしてくれよー」
両手をブンブン振り回しているが誰も答えない。
ドゥーアは全てを知った顔で腕を組んで佇んでいるし、トリーアに至ってはウヴァルの銀髪に夢中の様子。
仕方なく挙手をした。
「クヴィン楽しんでるかい」
「えっと、質問があるんですけれど」
「答えられる事なら何でも」
「僕達の組織ネバーランド、は結局何をする組織なんですか」
「最初に言ったろ。戦争を終結させる組織だって」
「その、戦争を終わらせるって具体的には……?」
「君達が戦場に赴いて戦闘に介入し、双方の兵力を削ぎ落とす。シンプルだろ?」
妹の髪いじりに満足したのか、トリーアが入ってきた。
「一番偉いヤツをぶっ殺した方が早くね?」
「頭を潰しても次の人間が頭になる。その頭を殺してもまた次の奴が頭になる。そんな事を繰り返してたら終わらないよ。地球と宇宙にどれだけ人間がいると思ってるんだい」
ウンチクは続ける。
「ワタシは人間を絶滅させるために行動するんじゃない。現在進行形の戦争を終わらせたいんだ。このまま続けたらどちらかの陣営が全滅するまで終わらない。だからワタシ達が介入して出来る限り早く、戦争を終結させる」
ウンチクは力強くガッツポーズを取る。
トリーアは飽きたのか、またウヴァルの髪を弄っていた。
「でもでも、ワタシ達が介入してもすぐには終わらない。何たって宇宙と地球の全面戦争だ。だからこそ君達に手術を施した」
ウンチクが携帯を操作すると、シカクの携帯が電子音を鳴らす。見るとウンチクから画像が送信されていた。
全身の画像でチューブのようなものが腕に差し込まれている。
「見てくれ。君達の血液を全て抜きシャインエネルギーを注入した。これにより君達の肉体は老化することもなく、筋力や新陳代謝も飛躍的に向上したというわけさ」
だからトリーアの拳は壁に穴を開けたのかと納得する。
「君たちが選ばれた一番の理由は、このシャインエネルギーに適合する遺伝子を持っていたからだ」
「よくそんなのがあると知ってましたね」
「その理由は簡単。ワタシもその遺伝子とシャインエネルギーによって人工的に生み出されたスーパーベイビーだからね!」
胸を張る姿はまるでヒーローの名乗り口上のようだ。
「さてと、次の画像を見てくれたまえ」
二枚目の画像は耳のアップだった。
「ここにいる全員の体内にはガイアキーパーが注入されている。トリーアくん。ガイアキーパーが何か知ってるかい?」
「知らねえし、邪魔すんなよ」
「こわいこわい。クヴィンは知ってるかな」
「えっとナノマシンの名前ですよね。主にテラフォーミングで使われたって教科書に」
「そうイギリスで開発されたガイアキーパーのお陰で人類は太陽系全ての惑星に移住した。もう昔の話だけどね」
「そのガイアキーパーと僕達の耳との関係は」
「ガイアキーパーは極小の無線機となっている。だから無線機を持たなくても遠くの相手と話ができると言うわけ。通信するときはどちらかの耳たぶを触って話したい相手に呼び掛ければいい。試しにやってみよう。クヴィンちょっと部屋の外へ」
「言われるがまま、食堂を出て廊下に立つと、ウンチクの声が耳から聞こえてきた。
『聞こえるかい?』
「はい。すごい鮮明ですね。まるで耳の中で囁かれてるみたいです」
『そうかいそうかい。クヴィン。愛してるよ』
突然の告白に顔が真っ赤になった。




