第一部地球脱出編 第一話
地球から約一億五千万キロ、そこには地球を含む太陽系を統べる王がいる。その名は太陽。
『歴史上初めて、宇宙船が太陽に到達した』
その発表から一三六九年後の統一歴一〇九一年。太古の昔から崇め恐れられてきた太陽に、無人太陽調査船〈ひのまる〉が最接近していた。
前方に耐熱フィールドを展開し、五五〇〇度という高熱をものともせずに太陽の中心核をスキャンする。
果たして彼女の予測通りソレはあった。
その発見に地球で一部始終を見ていた調査チームは喝采を挙げ、口々にチームリーダーに賞賛の言葉を贈る。
「イヴ、遂に見つけたな」
「最大級の命の結晶だ」
「流石イヴだ」
賞賛と共に求められる握手に応える少女は、大の大人達に混じっても物怖じする事はない。
その間にも〈ひのまる〉から送信されるデータが衛星を介して送り届けられる。
転送完了まで後二パーセントのところで、イヴの表情がほんの一瞬だけ強張る。
『それ以上、星の命を奪ってはいけない。星も君達も滅びるだけだ』
頭の中に響いてきた声はすぐに聞こえなくなった。ここ数週間不眠不休でプロジェクトを遂行し、目的の物を発見した事で気が緩み幻聴が聴こえたのだろう。
イヴはそう判断しデータ完了を見守った。
モニターは百パーセントを表示し、無事に転送完了を告げている。
何も問題は起きていない。
周りを見ても歳上の職員達は喜びを分かち合っていて、誰一人こちらを見ていない。
やはり幻聴だと判断すると横から手が差し伸べられた。
妙齢の女性はにこやかに手を差し出したまま待っている。
「おめでとうイヴ。それともありがとうと言うべきかしら?」
地球統一政府党首アライム・オハラは娘ほど歳の離れたイヴに対しても、柔らかな物腰を崩さない。
「私はただ探究心を満たしたかっただけです」
差し出された手を握り返す。
「これでまた、人類の繁栄が数百年は約束された。貴女の偉業は確実に歴史に残るわ」
「教科書に記載される事に興味はありません。私は知的好奇心を満たしたいだけです」
祝賀ムードは突然鳴り響く警報で打ち破られた。
職員達はモニターに釘付けになり、キーボードを壊さんばかりの勢いで叩き続ける。
「何があったの? 誰か状況を教えなさい」
アライム・オハラの声に職員の一人が脂汗を流しながら答える。
「た、太陽中心核で異常を感知しました。核が何の前触れもなく膨張を始めたんです」
イヴは顔面蒼白になりながらも平静を装い、すぐさま次の計画を立てる為、一人喧騒に包まれる部屋を抜け出すのだった。