第6話
毎日1話ずつ更新します。
第6話■期待
ガーデンの扉が開くと、サイの耳がぴくりと動いた。
「おかえり、ユリ」
「ただいま、サイ」
二人は抱き合うとそのままくるくると回った。甲高い笑い声が響く。
「どうだった? 地球は」
「まあまあよ。お土産はちょっと待ってね。輸送船は時間がかかるから。おいしいもの、買ったのよ」
「楽しみだわ」
「何か変わったことは?」
「何も。ちょっと頭が痛かったから、ソウマ博士に頭痛薬をもらったの。それだけ」
「頭痛? どうしたの? 風邪かしら?」
「わからない。ただ、最近ちょっと眠れなくて」
「ダメよ、眠れないなら睡眠薬を処方しようか?」
「大丈夫、もう治ったわ」
テーブルの上には紅茶のセットが置かれている。カップも二つある。
「誰か来てたの?」
「ジンが今までいたの。ユリが留守の間は、何度も来てくれたわ」
「そう。もっといてくれたらいいのに。どうせヒマなんでしょう? 一日中だってここにいればいいわ」
「そんなにヒマじゃないみたい。シラバの準備に手が足りないから作業員に混じって機械を動かしてるて言ってたわ。軍人のやることじゃないって怒ってたけど」
「人手不足なのね、技術班も大変だ。あと三ヶ月の突貫工事だもんね」
「新しいコントローラーは?」
サイは期待のこもった眼差しをセリザワに向けた。セリザワは首を傾げて笑った。
「まだ眠ってるわ。可愛い女の子よ」
「そう! 楽しみね」
「ねえ、サイ。ジェニファーのことだけど」
サイの表情が一瞬曇った。
「あの子、訓練のしすぎだった気がするの。だからね、今回は、極力訓練はしないで本番に力を使いたいの。だから」
サイは右手の人差し指で、セリザワの唇に触れた。
「わかってる。無理はさせないで。命は大切よ」
「ありがとう」
「でもね、ユリ。ジェニファーが死んだ時、私思ったの。あの感じ…制御管に入った、あの時。小さい私を抱き上げた大人が、はじけてバラバラになった時と似てたわ」
セリザワは顔を歪ませた。わかっていた。サイのエネルギーがあまりにも大きすぎて、それに耐えられないコントローラーは最悪死に至る。体中の体液が沸騰し、細胞が破裂する。コントローラーの能力を持つ人間以外は、素の状態で近づいただけで死ぬ。そのエネルギーを抑える施設、ガーデンから出れば、サイは殺人兵器となってしまうのだ。ジェニファーも、そのエネルギーのあまりの強さに屈してしまったのだ。
「今度はそうならないように、こちらも細心の注意を払うつもりだし、一度起きたことは二度と起こさない為の研究なのだから」
「知ってる」
サイは無邪気に笑った。どうやらジンが来たので機嫌がいいようだ。
「あとね、サイ…お願いがあるんだけど」
「なあに」
「新しいコントローラーには、シラバやプロジェクトのことは、黙っていてほしいの」
「私は何も言わないわ」
「ありがとう。これも、二度と事故を起こさない為のものだから」
「いいわ」
「ありがとう」
「あなたの力になりたいの、ユリ」
二人は目を閉じて、互いの頬を摺り寄せた。
「私もよ、サイ」