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宙のガーデン  作者: midorimaru033
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第1話

毎日1話ずつ更新します。ちゃんと完結します。

第1話■葉桜と雨

 広い教室で若い女教師は、子供達に向かって言った。

「皆さん、戦闘機シグマを知っていますか?」

 子供達はおのおの手を上げて、知ってる、と叫んだ。

「私たち人類が、月への移住を初めて二十年。東西戦争に使用されてから開発が進み、月に配備されているのが現在の最新のシグマです。しかし、この度さらに新たな戦闘爆撃機シラバが開発され、このスクールの卒業生である、ジョー・トモヤさんがたったひとりの専属パイロットに決まりました」

 明るい歓声が広がる。

「とても素晴らしいことですね。まずは皆さんで拍手を送りましょう」

 小さな手がぱちぱちと鳴る様は、まるで雨音のようだ。その様子を教室の一番後ろで眺めていたゴトウは、組んでいた腕を下ろして、ひとつ大きなため息をついた。

「とても、素晴らしい、ね」

 鳴り止まない拍手に窓の外を見ると、雨が降り始めていた。

 そっと教室を出たゴトウは、廊下で佇む背の低い男の肩に手を置いた。

「挨拶は済んだか、ジョー・トモヤ少佐」

「ああ」

 トモヤは振り返らず、じっと窓の外を眺めた。窓の外には、しっとり濡れた鮮やかな葉桜の枝が、手の届きそうな場所まで垂れている。ゴトウは窓を開け、タバコに火をつけた。トモヤに向けて箱を差し出す。

「どうだ?」

「いや、いい」

「そうか。雨を見るのは久しぶりだ。ここのところ、月とこっちを行ったり来たりだ。軍の仕事も楽じゃねえな。あんたも、すっかり英雄だな」

「挨拶まわりも仕事のうちだ」

「家族は? もうお別れは済んだか?」

「故郷には、父と姉夫婦がいるが、俺の顔を見て喜ぶばかりで、本当のことは言えなかった」

「軍の意向が気に入らんな。予めエンディングまで作りこんだシナリオだ」

「それをわかって訓練に入った。サインした時点で、もう文句は言えない立場だ」

「技術が発達したって、やってることは何も変わらん。結局、最後のボタンを押すのは人間で、根本的なところは原始的なままだ。面白くないな」

「むしろ、技術が発達することによって、どんどん原始的になっている気がするな。原子力に代わる新しいエネルギーは、ひとりの人間の超能力だとか。まるで、天に雨乞いするようなものだな。原理を理解すればするほど、出口は遠ざかるばかりだ」

「なんだ、自分の意見があるんじゃないか。政府の言いなりの人形かと思っていたが、どうやら違うようだな」

「自分の意見など、求められていないからな。この口が動くのもあと三ヶ月だ」

 ゴトウは青く茂った桜の葉を一枚とってトモヤに手渡した。雨の雫で袖口が濡れている。

「やるよ。あっちに行ったら、こういうのが恋しくなるもんだ」

 ふう、と吐き出した煙が窓の外に吸い込まれるように消えた。

「そうなんだろうな」

 トモヤはそれを受け取ると、左胸のポケットに入れた。パイロットに決まった途端、胸の飾りが増えた。階級が上がったからだ。無表情のまま、空を見上げた。

「ありがとう」

 ゴトウには、それが機械的な言葉に聞こえた。空は雲ばかりで真っ白だ。

 携帯灰皿に吸殻を押し付けて、窓を閉めると歩き出した。

「行くか…月へ」

 雨は強く降り始めて、窓ガラスを叩いている。雨のシルエットを踏みながら、二人の足音が規則正しく鳴り響いた。


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