告白
懲罰委員会の翌日、俺は清々しい気持ちで朝を迎えエミルさんの花屋へ行った。
「エミルさん、おはよう。はい、キャンディをあげる」
「ありがとうございます! 今日はなんだかいつもよりご機嫌ですね」
「良い知らせがあるんだ。昨日、やっとエミルさんが襲われた原因になった貴族を正式に取り調べて裁判することが決まったんだよ。これからは安心して暮らせるからね」
「事故も事件も顔を出来事も思い出せないのですが怖い思いをしたのはお父さんから聞いています。もう私はずっと警戒しなくてもいいのですね?」
「本当に思い出せないのか…反対に良かったと思うよ。もう恐怖心はなくなった?」
「はい、あの出来事があってから14日が過ぎましたので覚えていませんから心配しないでくださいね」
「もしかして僕と出会ったことも忘れてるの?」
「うん、あの出来事に関することは全て抜け落ちてるの。ごめんなさい…。でもフィルさんが私を助けてくれて出会ったのはお父さんから聞いてるし他にもたくさん思い出があるから大丈夫!」
「そうか。でも僕はエミルさんに忘れられたくないから会いに来るよ。約束だからね」
「もちろん約束は忘れないように努力するわ。それにフィルさんにもらったキャンディが沢山ありますから」
「ねぇ、エミルさん。お昼休みあるかな? 今日は仕事が遅番だから昼食を一緒に取ろうよ。お父さんにもちゃんと許可をもらうから」
「嬉しいです! お父さんは裏にいますよ」
「じゃあ、僕が聞いてくるね」
フィルバートさんが店の裏へ行っている間に私の友人が訪ねてきました。
「エミル元気だった? あれから何もない?」
「あ、メイ。最近は毎日騎士さんがお店に来てくれるし警吏の巡回も多くなったから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「確かに巡回は多くなったわね。でもどうして騎士さんが毎日エミルを訪ねてくるわけ?」
「うーん、優しい人だから? 巡回が多くなったのも騎士さんのおかげだし、とっても良い人なのよ」
「優しくて良い人…そうなのかもしれないけどエミルに気があるんじゃない?普通、毎日なんて来ないわよ」
「えっ、そうなのかなぁ。気があるというのは好きってことと同じなの? 私ね、心が弾んでずっと一緒にいたいなんて思ったりするのが初めてなの。恋はまだ知らないけどたぶんこの気持ちが恋なのだと思う。私のことは好きになってもらえなくてもフィルさんが会いに来てくれるだけでいいの」
「もう、エミルは恋愛を知らないから心配だわ。誰かに恋をしたりするのは良い経験だけど騙されやすいからきちんと男の人を見極めないと駄目よ」
「うん、見極める…見極める?」
俺はエミルさんと別れた後ナジェルさんに会いに店の裏へ行った。
「ナジェルさん、こんにちは」
「お前、本当に毎日というほど来るな。そんなにエミルのことが気に入ったのか?」
「はい、とても気に入っていますので今日は昼食を一緒に取っても良いですか? 僕が店まで送りますから」
「まぁ良いだろ。エミルもお前のことは気にしているみたいだからな。ただし傷つけるようなことをしたら二度と会わせない」
「はい、傷つけることは絶対にしませんので安心してください。それと、昨日で事故と事件のことが全て終わりましたので報告をしにきました。
エミルさんの事故も襲われた件もリンベロ男爵が関係していたので今は牢で追及されておりますがその後の裁判ですぐに処分が決まるでしょう。
ナジェルさんが保管していたお金の袋が証拠の1つになりましたのでありがとうございます。これで不安も解消され、エミルさんへの被害の可能性も無くなりますので安心してください。
今後は僕がエミルさんを個人的に傍で見守りたいのですが許していただけますか?」
「そうか、俺は事故の時にエミルを救えなかったから本当に悔しかったんだ…少し気持ちが楽になった。エミルを助けてくれて本当にありがとう。エミルがお前と同じ気持ちなら許可するが無理矢理は絶対に駄目だからな」
「ありがとうございます。エミルさんの気持ちはまだ確認していませんが、必ず大切にします」
「あぁ、お前を信じるよ。よろしく頼む」
俺はナジェルさんから交際の許可をもらえたのでエミルさんに気持ちを伝えようと意気込んだ。
「エミルさん、ナジェルさんから許可をもらったから大丈夫。お昼休みに迎えに来るよ」
「もう少ししたらお昼休みなのでお店の裏で待っていてもいいですよ」
「少し用があってね。あとでまた来るよ」
エミルさんとは一旦別れて俺は柄にもなく告白する前に心を落ち着かせることにする。
恋愛経験は人並みにはあると思っていたが自分から好きだという気持ちを真剣に伝えたことは一度も無い。
なぜこんなにもエミルさんに惹かれていくのか。
偶然助けた人は数多くいるし最初の印象はあどけない少女でしかなかったはずなのに。
いつから俺は…。あの時だ、エミルさんの可愛らしい笑顔を見たときに胸が高鳴り女性として意識した。
彼女は客相手に当然の対応をしていただけなのに俺は笑顔を自分にも向けて欲しくなり、彼女の全てを知りたい願望が生まれた。
あの日から会う度に惹かれていき、俺を好きになって忘れて欲しくないと思い毎日会いに行った。
エミルさんからも好意を感じ取ると自分が彼女を幸せにしてあげたいという気持ちが増していくのを止められなかった。正直なところ彼女に触れて抱きしめたいし好きではなく愛してると伝えたい。彼女のためならどんなことでもできる。俺はこんなにもエミルさんへの恋に重症だった。
「エミルさん、ただいま。そろそろ休憩に行ける時間かな?」
「おかえりなさい、フィルさん。お父さんに言ってくるので待っていてください」
ナジェルさんに外出の許可をもらい昼食を屋台で購入してから近くにある公園に行きベンチに座る。
「食堂で昼食を取るつもりだったけど屋台で良かったの?」
「お天気も晴れているから外の方が気持ち良いです。
お昼時は食堂も混んでいるのでゆっくりできないと思うから公園の方が良いし屋台の食べ物も好きですよ」
「それなら良かった。じゃあ、食べようか」
エミルさんと俺はサンドイッチと飲み物で昼食を取った。
何より彼女と初めて2人きりでゆっくり時間を過ごせているし自分だけに話しかけてくれることに俺の心が満たされていく。
「エミルさん、突然だけど好きな人はいる?」
「えっ? 好きな人…はい、いますよ」
顔が赤くなって照れているようだ。俺はもしかして失恋か? いや、ここで諦めては駄目だ。
「そう、どんな人か気になるな」
「初めて好きになった人なのですが、その方は強くて優しくて温かくて守ってくれる人です」
「そう…僕はエミルさんのことが真剣に好きで交際を申し込みたいけど好きな人には勝てないかな?」
「えっ? 交際というのは本当にフィルさんが私のことを? あの…私の好きな人はフィルさんです!」
「えっ! 本当かい? まだ出会ったばかりだけど僕はずっと君のことが好きなんだ。毎日会いたくて君のことをいつも思っている。僕が君を幸せにしてあげたいから他の男に奪われたくない」
「私もフィルさんが好きで来てくれると一日中嬉しくなったり、会えない時間は寂しくなってキャンディを舐めながらフィルさんのことを思い出していました。でも恋をしたのが初めてだから会えるだけでいいと思っていたの」
「強くて優しくて温かくて守ってくれる人は僕だったのかな?」
「はい、そうです。お父さん以外にそのように思った人も初めてで好きの気持ちもお父さんとフィルさんでは違うの。でも友人にはちゃんと見極めなさいと言われて意味が分からなかった」
「僕のことを信用してもらえるか分からないけど生きてきた中で今が一番幸せで嬉しいし毎日エミルさんの傍にいたい。エミル、君が好きだ。僕の恋人になってくれる?」
「はい、私はフィルさんを信じるわ。恋人になって2人で幸せになりたい。フィルさん大好き!」
「うん、僕もエミルが大好きだよ」
好きな人がいると聞いて一瞬落ち込んだが諦めずに告白して良かった。
これからは堂々と彼女に会いたくさん思い出を作っていくんだ。そして触れ合い毎日愛してると伝えたいし自分の手で守ってあげたい。やっと念願が叶って最高だ!