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2人の初恋   作者: 朧霧
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男爵 ①

 俺は王宮に戻り殿下へハリスの報告をした。


「殿下、やはりハリスとリンベロ卿は関係がありますが目的が全く理解できないです」


「私もフィルと同感であるが助けてくれた恩人に怪我させるような人間は世間体を気にするのではないか。汚点と言ってはエミルさんに失礼だが目撃者も多数いたようだから過ちを犯した噂が立ち家名に傷がつくなら口封じや脅したりなど愚かなことを考えそうでは? 事故後は逃げるように立ち去ったのだからエミルさんに記憶を思い出されると不都合で気を揉んでそうだ。あくまでも予想だがな…」


「そんなことのためだけに、人として許せないです」


「エミルさんの件は想像でしかないがリンベロ卿が気になって側近に調べさせたら色々と悪事が出てきた。

リンベロ卿の領地は近年発見された小さい鉱山があるのだが採掘された金の量を誤魔化していると内部告発があり証拠書類もある。情報提供者が不正に対して抵抗するとリンベロ卿は暴力を振るうので心底苦しんでいると打ち明けた。しかし内部告発で判明するなんてこちら側の手落ちでもあるな。

その他の悪事は全て金で示談しているみたいだが町や娼館での暴力沙汰も多く被害者は仕方なく示談したと言っているから証言も取れる」


「エミルさんの件について証言者は牢にいる3人で依頼主の顔は覚えています。あとはエミルさんの父親が持っていた金の入った紋章入りの袋と元警吏ハリスの証言です。もう少し証拠を集めましょうか?」


「リンベロ卿はエミルさんの件も浅はかだし常にその場の勢いで暴行したりしているから計画性はないな。採掘量の件はそろそろ証拠が集まるみたいだから召喚して揺さぶるか。貴族の品位のかけらもないから揺さぶれば簡単に自供しそうだ」


「リンベロ卿の召喚日が決まりましたら証人も集めます」


「これから私は陛下に報告してくる。それにしてもフィル、随分とエミルさんを気にかけているんだな」


「はい、仰る通りです。自分でも驚いています」


「今度詳しくエミルさんのことを聞かせてくれよ。どのように進展しているのか楽しみだ」


「楽しいことは無いと思います」


楽しそうに笑いながら殿下は執務室から退室した。


さて、召喚日さえ決まればあとはリンベロ男爵を追求してやるだけだが、自供させるようにしないとエミルさんが危ない目に遭うことも無くならない。


俺は調査も終わったので召喚日が決まるまでは通常の任務に戻り、仕事が終わったらエミルさんの店に会いに行く。遅くなってしまったときには自宅へ行き安否の確認だけをして帰るようになった。


今日は仕事が遅番だったので昼間のうちに花屋へ行ってみる。


「エミルさん、こんにちは。あーん、口を開けてみて」


「えっ、口ですか? あーん」


「口に入れたのはキャンディだから舐めてみて」


「ん! キャンディですか? 口の中が爽やかになるような…薬のような味ですがこれは何味ですか?」


「あはは! 薬かぁ。キャンディで薬ではない。ミントキャンディといってハーブのキャンディなんだよ。

ある人から頂いた物だけど王都ではあまり流通していないんだ。これからエミルさんに会ったらミントキャンディをあげる。僕が持ってきたこの瓶に入れてもいいし、その場で舐めてもいい。

初めての味はとても印象に残るでしょう? だからミントキャンディを舐めたときには僕のことを思い出して。もしも会えない日が続いても舐めてみると薄れてきた記憶も思い出せるかもしれない。そんなことにならないようにするけど仕事柄、急に会いにくることができない日もあるんだ」


「はい、舐めているとだんだん美味しくなりましたよ。不思議な味だわ」


「僕にくれた人は苦手な味だったみたいだけどそれなら良かった。これは僕達の約束ね」


「2人だけの約束したい! フィルさんのことを忘れないようにするわ」


「うん、ありがとう。すごく嬉しいよ」


こうしてエミルさんに会う度にミントキャンディを一粒ずつ渡していくと仕事中に舐めたり、紙に包まれているので持ち帰って瓶に入れたりしているようだった。


2人だけの約束ごとを照れながら嬉しそうに受け入れるエミルさんを見て俺はますます好きだという思いが募る。

リンベロ男爵の件が解決したらエミルさんを自分の恋人にしたいので告白しようと決意した。


しばらくして召喚日が決まり証人達は事前に懲罰委員から事情聴取される。召喚日の当日はリンベロ男爵の威圧的な態度に怖気づかないように証人達は別室での待機とした。


いよいよ召喚日になり出席者はニードリッヒ殿下、懲罰委員8名と俺。


懲罰委員は公爵家4名、侯爵家4名である。俺は調査に直接携わった者としての出席だ。


いよいよ懲罰委員達が待つ部屋へリンベロ男爵が入室してきた。久しぶりに見たが相変わらず贅沢な食事ばかりしていそうな腹の突き出た肥えた体に手指には、けばけばしい宝飾品をたくさんつけている。その場に合わせた身だしなみができないのかと不愉快な思いをする。


「それではこれよりリンベロ卿に対して真偽を確認するために質疑を始めます。偽りの発言をした場合には今後の裁判で罪状が加算されます」


「発言を許可してください」


リンベロ男爵がまだ何も始まってもいないのに発言の許可を求める。これでも貴族か? と俺は呆れた。


「まだ何も始まっていないが最初に何か言いたいのか?」


殿下がリンベロ男爵に呆れた表情で問いかける。


「はい、そもそも私はこのような席に呼び出しされることは何もしておりません。ですから理由が分からないのです」


「呼ばれた意味が分からないのであれば私と懲罰委員が納得できるようにリンベロ卿が答えれば良い。だいたい呼び出しされるということは何か疑わしい事柄があるのだよ。それをはっきりとさせるのが懲罰委員会だと貴族なら理解しているはずだが。事実と異なるならリンベロ卿が証明すれば良いだけなのでこれから始める、わかったな?」


「は、はい」


ここにいるリンベロ男爵以外の人達からはため息が漏れる。


「それでは改めまして、まず最初の議題は領地の金の採掘量に関する問題です。

リンベロ卿、あなたは金の採掘量に関する国への報告を偽装をしたことがありますか?」


「いいえ、そのようなことはございません」


「そうですか。では、皆様こちらの資料をご覧ください」


資料が全員に行き渡るとリンベロ男爵の目を丸くして顔色は青ざめていった。


「ほう、これはあまりにも国への報告とは異なる採掘量ですな。国への報告を見る限りでは小さな鉱山からはほとんど金が採掘できないような印象を受けます」


「こ、これは何かの間違えで帳簿担当者が数字の桁を誤記入したのです。ですから私は何も存じません」


「何も知らない? この書類にはあなたが自署をなされていますが?」


「担当者に任せておりましたので確認を怠り自署してしまいました。それに私が採掘量の数字を意図的に改ざんしたわけではありませんが申し訳ございません」


「国への報告書を領主として確認もせずに書類に自署を? それでは別の資料をお配りします」


先ほどよりもリンベロ男爵の顔色は更に悪くなり額の汗をハンカチで拭い始める。


「こちらの資料は実際の採掘量です。帳簿担当者はあなたに脅されて仕方なく偽の数字を記入したと証言しました。先日、調査団が鉱山の視察に行き採掘現場を確認しましたが小さな鉱山ではありますがつりあう採掘量があると結果が出ております」


「私は調査団が来たという話も伺っておりません」


「不意打ちでは準備がいるのですか?そもそも正確な調査をするために予め訪問日時を伝えるようなことはしませんよ? 現場担当者の方々は驚きもせず受け入れてくれたようです。何か問題がありますか?」


「いいえ、問題はございません」



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